軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

35_お出かけするにも一筋縄じゃいきません?

私は今日、魔塔に来て初めて街に買い物に出る予定になっていた。

……の、だけど。

「ルーツィア嬢、本当に大丈夫かい?やっぱり日を改めた方が……ああ、どうして俺は今日に限って魔物討伐の後始末が入っているんだ……ノースだけでよくないか?」

「俺だけでいいわけないでしょ〜!諦めな、セルヒ!ルーツィア嬢にはグレイスがついてるんだから、お前と二人よりもよっぽど安心だよ」

「なんだと?」

暗い表情であまり機嫌が良くなさそうなセルヒ様と、そんなセルヒ様を呆れたように見ているノース様のやりとりにヒヤヒヤとしてしまう。

ど、どうしよう。やっぱりやめた方がいいのかな?

オーランド様から「そろそろ魔物討伐の現場に出てもいいかもね、もちろん、最初は相手が弱い魔物のとき限定で」と言ってもらえて、その準備も兼ねて必要なものを買いにいくことになったのだけれど。本当は他の魔法使い様がもう使わなくなったお古の道具をお下がりとして譲ってもらうのもありなんだと聞いている。

グレイス様がせっかくなら新しいものを買いに行こう!と誘ってくれたんだけれど……やっぱり、私なんかがわざわざ新しいものを用意するだなんて、贅沢すぎたかな……。

そんな風に不安になっていると、私の表情に気づいたセルヒ様が力なく微笑む。

「ごめんね、快く送り出してあげられなくて……だけどそれはルーツィア嬢に対してどうとかじゃなくて、俺のただのわがままな気持ちのせいだから」

「えっ?」

「魔塔へきてから、ルーツィア嬢が初めて出かけるんだ。……グレイスがずるくて元気が出ない!俺がルーツィア嬢をエスコートしたかった……!!!」

「ええっと?っ、ひゃっ!」

驚いて顔を上げて、思わずうわずった声が出てしまった。セルヒ様がとても潤んだ瞳で私を見つめていたからだ。

セルヒ様は時々、私と目が合う時にこういう目をしている。その目で見られると、なんだか心がざわざわして落ち着かなくなってしまうのよね。

今もほら、なんだかむずむずするような、くすぐったいような、おかしな感覚に襲われてしまっている。

私ったら、どうしたのかしら……。

最近は目が合うどころじゃなくて、ただ遠くからセルヒ様の姿を見つけただけでもこうなる時があるのよね……。

考えていると、心当たりを見つけて、思わずハッと息を呑む。

(も、もしかして、何か良くない病気だったらどうしよう……!?)

もしも病気だったら、魔法の訓練もお仕事もひょっとしたら出来なくなっちゃうかも……!?

「もーセルヒ、いい加減にしなさいよ〜?今日はこのグレイス様がルーツィアちゃんとデ・エ・ト!するんだから、あんたはさっさと仕事に行きなさい」

「は、は!?デートだと!?お前がその認識ならなおさら二人にさせるわけにはいかないだろうが!」

「はいはいはい、何を言ってもお前は仕事だからね?グレイスもわざと煽るのやめな〜?」

それに、まだ魔塔に来たばかりなのに、もしもこのまま悪化して寝込むようになったとしたら……どう考えても迷惑!そんな迷惑かけられないわっ!

「ノース!俺には仕事よりもよほど大事なことがあるんだ」

「はああ?それで許されるわけないだろーが!」

「ぷぷぷ!仕事しか興味ないと思われてた冷酷魔法使いセルヒが!こんなこと言うなんて!あ〜面白いっ!」

「グレイスもやめろ!被害にあうのは俺なんだからなー!」

でもでも、まだ病気だって決まったわけじゃないし……とにかく、お医者様に診てもらうにしても、まずは相談だよね……。

うん、まだ分からないし!私の勘違いかもしれないものね。急に環境が変わって疲れてしまっているのかも。

とにかく、一度グレイス様に相談して、もしもどうしたいか聞かれたらお医者様に診てもらいたいですって言おう!我慢してもしも倒れちゃったりなんかしたらもっと迷惑だもの。早めに自己申告しなくちゃ!

「──ねえ、ルーツィアちゃんはどう思う?」

!?!?い、今、私口に出してたかしら!?ぐるぐる考え込んでしまって全然聞いていなかったわ!とにかくちゃんと答えなくちゃ……!

「は、はい!お医者様に診てもらった方がいいと思います!」

あ、あれ、慌てすぎてちょっと言い間違えちゃったけど……伝われば大丈夫だよね。

そう思って、焦りながらも顔を上げると、ちょうどグレイス様とノース様がたまらないとばかりに吹き出したところだった。

えっ??

おまけに、なぜか目の前でセルヒ様が崩れ落ちていく。

「なんてことだルーツィア嬢……君まで俺の頭がおかしいと思っているのか……!まあ確かにおかしくなりそうなほどに俺の頭の中はルーツィア嬢のことでいっぱいだから、間違ってはいないのだが……いや、医者に診てもらった方がいいというセリフは一見辛辣なようにも聞こえるが、決して俺自身を拒否しているわけじゃあないよな?むしろ医者をすすめるなんて、ルーツィアは心の底から俺の身を案じてくれている……!?」

セルヒ様はブツブツと聞き取れない声量と速さでなにやら呟いていて、そのうちに段々と表情も明るくなっていった。

だけど、

「えっ!あの、何の話ですか!?」

なんだか話が通じていない気がする!と慌てる私の体に、フワフワが頭をこてんと寄せてくる。

『ははは!よく言ったぞ!それでこそ我の可愛いルーツィアだ』

「えっと、私はひょっとして病気になったかもしれないからと思って……」

ノース様とグレイス様が大笑いしながらセルヒ様をからかっていて、私の声はフワフワにしか届かなかった。

そんなフワフワも、不思議そうな顔で「わふっ?」と声を上げる。

『病気?ルーツィアはいたって健康だぞ?我は名前をもらったから、可愛いルーツィアの身に良くないものがあればすぐわかる!安心していいぞ!』

「そ、そうなの!?よ、よかったああ〜……」

あれ?

だけど、それならこの心がソワソワざわざわする感じって、なんなんだろう???