作品タイトル不明
第20話「俺の平和は何処へ......???」
そんな話をしていると、学園長が早足でやってきた。後ろに見知らぬ男が三人いる。黒い外套に、胸に王国の紋章。
国からの調査官だ。
「ゼルド・バルカン殿」
学園長の声が静かに、しかし明確に響いた。
「少々、確認させていただきたいことがございます」
ゼルドの目が、動いた。
「……何の話だ、僕は決して悪いことなど何も」
「先日より調査しておりました件です」調査官の一人が前に出た。「バルカン殿が過去五年間に行ってきた魔物討伐の記録について」
「記録に何の問題があるというのだ。僕は実際に——」
「問題がある、というより——事実と記録が一致しない箇所が複数見つかりまして」
廊下が静まり返り、調査官が分厚い書類を広げた。
「バルカン殿が昨年討伐したとされる上位魔族三体について。現地に残存する魔力の痕跡を解析したところ——バルカン殿の魔術特性と、合致しない箇所が複数確認されました」
「それは——戦闘の混乱で痕跡が——」
「混乱があったとしても、術者固有の魔力パターンは消えません」調査官は続けた。「加えて、当時の現地の証人から証言が集まっています。討伐の際、バルカン殿は——現場の後処理と報告書の作成を担当していた、という証言が複数」
「現場にいたことは確かだ! 僕が指揮を——」
「指揮と実行は、別でございます」
ゼルドの顔が、みるみる青くなっていった。
「——さらに」
学園長が口を開いた。
「この学園に関わる記録が出てきました。三年前、この学園の近郊で発生した魔物の大量発生——あの時の討伐記録です」
「そ、それは僕が——」
「当時の記録には、バルカン殿の名前が筆頭に記載されています」学園長は続けた。「ただ、現地に残っていた魔力の痕跡を改めて解析したところ——バルカン殿の魔力特性が、一切検出されませんでした」
廊下が、一瞬で静まり返る。
「代わりに検出されたのは.......」学園長は容赦なくその事実を告げる。「“死神紋章”固有の魔力パターンです。完全一致でした」
全員の目が、俺に向いた。
「あー……あの時のことか」俺はかなり前にやった、一つのことを思い出す。
「覚えていますか、ノクス君」
「まあ……なんか北の方で地脈がおかしくなってたから直しに行ったら、魔物がいっぱいいて......発生源の地脈の歪みを直したら出なくなったんですが」
「それだけですか?」
「ほんとうにそれだけだな。誰かが、俺の知らないうちにやってくれたんだと思っていたぞ」
「……あなたがやっていたんですね」
「まあ.......そうなるかも.......?」
「大量発生していた魔物の数、覚えていますか」
「覚えてないな。いっぱいいたという事だけは覚えているんだが......」
「推定される個体数は.......三百体以上でした」
廊下が、また静まり返る。
「それを一人で、地脈を直すことで無力化した」学園長は生まれた一つの異点を口に出す。「記録では、バルカン殿が討伐隊を率いて全滅させたことになっています」
「記録を——」ゼルドの声が、震えている。「俺は記録を正確に——」
「正確ではなかった、ということだけは確かです」調査官が続ける。「バルカン殿。あなたの疑いは本件だけではございません。過去五件の討伐記録について、同様の改ざんの疑いがあります」
「改ざんじゃない!! 俺は——俺は現場にいた!! 功績を横取りしたわけじゃ——!!」
「横取り、とは言っていません」調査官の声が静かになった。「他者の功績を自分のものとして申告し、英雄認定を受けた——詐称の疑いです。バルカン殿、任意同行をお願いします」
「待て!! 俺は英雄だぞ!! 大陸中が俺を——!!」
「大陸中に事実をお伝えするのも、私どもの仕事でございます」
調査官が、ゼルドの腕を取った。
「——離せ!! 離せというんだ!! 僕はこんなところで終わる男じゃない!!」
「終わりかどうかは、調査の結果次第です」
「離せ!! 離せ——!!!」
ゼルドが暴れた。
でも、調査官三人に囲まれた「英雄」は——思っていたより呆気なく、連れて行かれた。
廊下の奥に消えていく背中が、ちっぽけだった。
さっきまで壇上に立って「大陸最強の英雄だ」と自信満々に言い切っていた男と同じ人間だとは思えなかった。
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しばらく、誰も喋らなかった。
沈黙を破ったのは、アイラだった。
「……え、全部今日起きたこと?」
「あまりにも、色々起きすぎだな.......」
「魔鳥が来て、レインが追い払って、英雄が詐欺師だったってバレて、連行されて——全部今日?」
「まあそうなるな」
「密度がおかしすぎる......」
エリクが「お前の周りにいると、毎度の如くおかしいことが起きるな。俺の血圧が心配だぜ」と壁に手をついた。
「最近はこういうことが多いな。ちょっと前まではあんなに平和だったのに......」
俺ははあ、と一つため息をつき、その辛い現実を嘆く。
「俺の平和な日常を返してくれー!!!」