作品タイトル不明
第096話 楽しそうで何より
俺達は受付の男性が紹介状を書いている様子を眺めながら待つ。
「どこかに就職する気はないって書いておいてくれよ。どうせまた違う国に行くからな」
「わかってます……ところで、王都に行くなら仕事をしませんか? 実は運搬の仕事があるんです」
運搬?
「荷物運びか? 俺とエルシィにできるとは思えんが……」
「空間魔法、もしくは、魔法のカバンをお持ちじゃないですかね? エルディアで船の仕事をしていたなら持っているかと思ったんですが……」
エルディアではニーナのおじさんに借りただけだな。
とはいえ、俺とエルシィは魔法のカバンを持っているし、ウェンディは空間魔法が使える。
「あるにはあるが、そこまで容量は大きくないぞ。俺達の荷物も入ってるし」
ウェンディの空間魔法もそこまで大きくない。
「このくらいの木箱が3つです」
受付の男性がそう言ってジェスチャーで四角を作る。
大きさ的に4、50センチ四方ってところだ。
「それぐらいなら3つ入らないこともないが……王都までか?」
「ええ。ご存じかはわかりませんが、列車はそういった荷物運搬が横行し、他のお客さんに迷惑がかかることが多かったため、カバンのようなもの以外は一律禁止しているのです」
知っている。
列車が運行を始めた初期は商人連中が商品なんかの荷物を載せたんだ。
その量がとんでもなく、他の客が座れなかったり、通路を歩けなくなったりした。
中には匂いを発するものもあり、荷物の運航は禁止になったのだ。
もちろん、申請すれば貨物列車に乗せることもできるが、かなり高いと聞く。
「それで魔法のカバンに入れたいわけか」
魔法のカバンは邪魔にならないからオーケーなのだ。
だからこそ、魔法のカバンは需要も値段も高い。
「そういうことです。どうでしょう? 王都に行かれるわけですし、ついでに持っていくだけでお金を得られます」
確かにな。
「荷物の中身は?」
「海産物と聞いております。依頼人は王都の商人ですね」
「海産物か」
需要は高いだろうしな。
「ええ。そういう行商人も多いんですよ。ですが、生ものということもあり、早急に運びたいからこういう依頼が来ているわけですね。貨物列車代をケチり……失礼。節約したいというのは誰しもが考えることなのでよくある依頼なんですよ」
ふーん……なるほどねぇ……
「いくらだ?」
「1つ1万ゼルですので3万ゼルですね。これが貨物列車を使うと倍になります」
そんなに儲けにはならないな。
でもまあ、本当についでの依頼って感じだな。
「どう思う?」
エルシィに聞く。
「別に良いんじゃないですかね? 3万ゼルでちょっとした贅沢でもしましょうよ」
そうするか……
「じゃあ、受けるわ。どうすればいいんだ?」
受付の男性に聞く。
「12時に出発なさいますか?」
「ああ。そうする」
「でしたらその旨を先方に伝えておきますので駅で待ち合わせをしてください。依頼人はフリオという若い男性です」
フリオ?
「姿勢の良い奴か? 昨日、俺達が話をしていた時にそこの受付にいた奴だ」
右の方の女性を指差す。
「ええ。そうです。お知り合いでしたか?」
「知り合いってほどじゃない。俺達もフリオも冒険者ギルドの場所がわからなかったから露店のおばさんに聞いてここまで一緒に来ただけだ。その際にちょっと話したから名前を知っている」
「なるほど。でしたら話は早いですね。そのフリオさんからの依頼です。一応確認ですが、受けますか? トラブルとかありましたらキャンセルでも構いませんよ」
トラブル……
「いや、そんなものはないし、しっかりとした若者だった。育ちが良いんだろうな」
「あなたも若者ですよ……」
ウェンディがボソッとつぶやいたが、『俺は育ちが良くないんだよ』という言葉を呑み込んでスルー。
「では、12時前に駅にいらしてください。フリオさんにもそのようにお伝えしておきますので。それとこれが紹介状です。王都のギルドに着いたら職員に渡してください」
受付の男性が封筒に手紙を入れ、渡してくる。
「わかった。世話になったな」
「いえ……御二人の活躍を祈っております」
俺達は用件が済んだのでギルドを出る。
「良い人でしたねー」
「そうだな。丁寧だったし、すごく親切だった。ギルドは随分と良心的だな」
「多分、私達が錬金術師だからでしょうね」
多分、そうだろうな。
自分で言うのもなんだが、替えの利かない貴重な人材なわけだ。
「12時までどうする?」
1時間30分もある。
「砂浜に行ってみません? その後、早めの昼食を食べて駅に行けばちょうどいい時間だと思いますよ」
なるほど。
良いかもしれないな。
「そうするか。西の方だったな」
「行きましょー」
俺達は西に向かって歩いていく。
すると、町中を抜けてすぐに砂浜が見えてきた。
「これは人気になるな」
「すごいですねー」
白く乾いた砂が広がっており、砂浜の白と海の青が綺麗に調和している。
「ちょっと歩いてみるか」
「そうしましょー」
俺達は砂浜を歩いていき、波打ち際までやってくる。
ウェンディが楽しそうに海に向かって飛んでいき、すぐに戻ってくる遊びをしていた。
「夏はここに人が溢れかえるんだろうな。今の方が良いかもしれん」
人が多いとちょっとね。
「2人きりですもんね。でも、夏だったら泳げましたよ。私の水着を見て、悩殺することができたのに惜しかったですね」
はたして、夏に来たとして、俺が海に泳ぎに行くだろうか?
まあ、2人が行きたいと言ったら付き合うんだろうが。
「水着ねー……別にいいな」
「あれ? 悩殺されない?」
そういう意味じゃない。
「エルシィさん、レスターさんは他の男性に見せたくないだけですよ」
「そっかー。先輩は私のことが好きだなー。困っちゃうなー」
困っちゃうね。