軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第006話 逃亡へ

これからのことを考えていると、ガチャッと玄関の扉が開き、エルシィが帰ってきた。

時計を見ると、時刻はまだ2時半であり、仕事が終わるにしては早すぎる。

「エルシィ、どうした?」

「部長に顔色が悪そうだから帰れって言われました。多分、電話とかをするのに邪魔だったんだと思います」

俺と同じかい。

他にないんか?

「そうか……」

項垂れると、エルシィが隣に座った。

「エルシィさん、探りの方は?」

ウェンディがエルシィに聞く。

「部長に『先輩は?』って聞いたら体調不良で帰ったって言われた。その後、『君も悪そうだから帰りなさい』って言われたんけど、帰るふりをして、扉の前で聞き耳を立てた」

大胆だな。

その現場を見られたらどうなるかわからないというのに。

「エルシィ、結果は?」

「すぐに電話をしてたんですけど、やはり先輩を捕まえるとか、自分の功績とか言ってましたね」

「わかりやすい小物だ」

ホント、あの人はダメだ。

そりゃ出世争いに負けるわ。

「それとエリクサーをいくらでも作らせるとか、無理やりにでもとか、特別施設に送るとか良くない言葉が大量に出ていました……」

特別施設って何だよ……

まあ、想像はつくけどさ。

「エリクサーを作るだけの機械にする気か……」

「多分……先輩、逃げましょう」

わかっている。

「そうする。エルシィ、何を聞かれても知らないって言うんだぞ」

そう言うと、エルシィが首を横に振った。

「先輩、私も逃げます」

「やめとけ」

「いえ、そもそも私は先輩がいたからあそこに就職しましたし、先輩が勉強や錬金術を見てくれたから就職できたんです。先輩がいないならあんなところにいる意味はありません」

まあ、あそこに就職するように誘ったのは俺だしな。

「だからといって、一緒に逃げてどうする。捕まったらお前も終わるぞ」

「いえ、どちらにせよ、私も捕まると思います。部長は私と先輩が魔法学校時代からの仲で親しいことを知っています。ほら、前も一緒に帰ったら『これからどっちかの家で仲良くデートか? げへへ』って言ってたじゃないですか」

げへへは言ってないけどな。

でも、そうか……

「すまん……お前が就職する際にお前をあそこに配属されるように部長に進言したのは俺だ。あの人は横領とかができる人間を欲しがってたからな」

要は息がかかった部下を欲しがっていたのだ。

だから俺がウチの後輩は口が堅いし、融通が利きますよって言った。

本当は窓際部署のあそこなら他の貴族からのやっかみが少ないから同じ庶民のエルシィもやりやすいだろうと思ったから。

「先輩、部長は少なくとも、私達をそういう目で見ています。先輩だけが逃げても私が捕まって、匿ったんだろうとか、どこに逃げたんだって尋問されるに決まっています。というか、尋問で済めばいいですが……」

普通に拷問コースだろうな。

エルシィは庶民だし、エリクサーという重要性を考えればそうなるだろう。

「すまんな……」

「いえ、事実、匿っていますし」

確かに合っているんだよな。

「逃げるか」

「はい。私達は孤児です。失うものはありません」

俺達は孤児だから親も家族もいない。

元々、こいつと仲良くなったのはそういう共通点があり、苦労してそうだなと思って声をかけたことがきっかけだった。

以降、魔法学校でも就職してからもずっと勉強や錬金術を見てやっていたし、庶民がほとんどいなかったこともあったので学年は違えど、しょっちゅう一緒にいたから同級生や同期の連中はエルシィのことを『お前の子分』という風に呼んでいたくらいだ。

うん、どう考えてもエルシィも捕まるわ。

「せっかく夢の月収50万だったのにすまん」

「いえ、大丈夫です。先輩も昔から平穏が一番って言ってたじゃないですか。その通りだと思いますし、ここが平穏じゃなくなったのなら別の平穏なところに逃げるべきです。それに今だから言いますが、私は40万しかもらってません」

あ、そうなんだ……

『50万ももらえるからウチに来い』、『えー、すごーい! じゃあ、入りまーす!』って感じで勧誘したのに40万しかもらってなかったのか。

まあ、それでも十分な高給取りだけど。

「すまんな……」

「いいんです。私は学校でも職場でも先輩の腰巾着として生きてきましたし、いつも助けてもらいました。一生ついていくつもりです」

うっうっうっ、俺は良い子分……じゃない、後輩を持ったもんだ。

「それでどうやって逃げるかだな」

「ええ。どうしましょう? とりあえず、すぐにでも王都を出た方が良いと思います」

それは悪手だ。

外に出ても徒歩になるし、騎兵隊に追われたら逃げ切れない。

「お前が協力してくれるなら策はある」

「どうやるんです?」

「逃げるなら一気にこの国から出ることだ。飛空艇に乗ろう」

飛空艇は空飛ぶ船であり、この王都にも空港はある。

それから一気に高飛びすればいい。

「飛空艇ですか? 外国に行くには大金がかかりますし、審査に時間がかかりますよ?」

多分、100万ゼルはかかる。

だが、それくらいの貯金はある。

「わかっている。金はいくらかかってもいい。それと審査を飛ばす方法がある。お前は庶民だが、間違いなく、陛下に仕える宮廷錬金術師だ。緊急の用ということで資格証を見せれば審査はスルーできる」

当然、こういう嘘は罪になるが、逃げるんだからどうでもいい。

「大丈夫ですかね?」

「俺は難しいかもしれんが、お前はまだ重要人物認定されていないだろう。俺をカバンに詰めて密輸しろ」

「な、なるほど……やりますか?」

今は……3時か。

「ああ。そんでもってやるなら今からだ。ランス王国に行ける4時の便があるからそれに乗ろう。時間が経てば経つほど、厳しくなるぞ」

今はまだいいかもしれないが、俺のところに兵士が来れば俺が逃げたことがバレる。

そして、そうなると、今度はここに来る。

そうなったら空港は閉鎖されるだろう。

「わかりました。すぐに準備します」

エルシィは立ち上がると、俺と同じように魔法のカバンに荷物を詰めていく。

かなり乱暴だが、急いでいるので仕方がない。

「俺が入れるような大きなカバンはあるか?」

「引っ越しの時に使ったキャスター付きのカバンがあります。それに入ってください」

「わかった」

かなり苦しいだろうが、我慢しよう。

「あの、先輩、それで先輩の周りをふよふよと浮いている天使ちゃん人形は何でしょう? しゃべってましたよね?」

あ、そのことがあった。

説明するには前世のこと話さないといけないが、ここまで巻き込んでしまった以上は仕方がない。

俺はエルシィが荷物を詰めていくのを見ながら昨日の夜にあったことを説明していった。