軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第005話 家を出る

「落ち着け、エルシィ」

落ち着きのない後輩をなだめる。

「え? でも……」

エルシィがじーっとウェンディを見る。

「その辺のことは後で説明してやる。それよりもお前だ。仕事はどうした?」

打ち合わせって言ってただろ。

「あ、そうでした。先輩、何かしたんですか? 実は打ち合わせを終え、部署に帰ったんですが、興奮した部長がどこかに電話してて、先輩を捕まえるみたいなことを言ってましたよ」

早速、動いたか。

「そうか……お前、部長に見られたか?」

「いえ、先輩の名前が聞こえたので慌てて隠れました。そしたら先輩を自宅謹慎させたって言葉が聞こえたのですぐに来たんです」

これ、時間がないな。

「すまん。説明には時間がかかるから端的に言う。俺はエリクサーを作ってしまったんだ。それを部長に見られた」

「エ、エリクサーって……本当なんですか?」

「ああ。俺は多分、国に捕まる。その後はロクなことにならんな」

「ヤ、ヤバいじゃないですか!?」

ヤバいな。

すごくヤバい。

俺が望んでいた平穏はさようならだ。

「エルシィ、何を聞かれても知らぬ存ぜぬで通せ。いいな?」

こいつまで巻き込むわけにはいかない。

「ちょ、ちょっと待ってください……」

エルシィは腕を組み、悩み始めた。

そして、窓の方に行くと、カーテンをそっとずらし、外を覗く。

「どうした?」

「先輩……ひとまず、ウチに避難してください」

「ウチ? お前の家か?」

俺の部屋と同じく1LDKのアパートだ。

「ええ。ここは危険です。あの様子では兵士が来るかもしれません。今なら逃げられます」

「お前を巻き込みたくないんだが」

「そう言っている状況じゃないです。とにかく、急いで私の部屋に避難してください。私は何も知らない顔で部署に戻り、部長を探ってみます」

エルシィは一方的にそう言うと、家の鍵をテーブルに置く。

「お、おい!」

「なるべく見られないようにしてくださいね。では!」

エルシィはさっさと部屋を出ていってしまった。

「マジかよ……」

完全に巻き込んじゃったぞ。

「どうします?」

ウェンディが聞いてくる。

「考えている時間はない。ウェンディ、寝室以外のこの家中の灯りを点けてくれ。それと昼飯な」

あまり意味はないかもしれないが、家にいるという偽装工作だ。

少しでも時間稼ぎがしたい。

「えーっと? わかりました」

ウェンディに頼むと、カバンに着替えや大事なものを詰めていく。

「魔法のカバンを持っていて良かったわ……」

魔法のカバンは空間魔法が付与された容量以上に物を詰められる不思議なカバンである。

ものすごく高価な物だが、宮廷錬金術師には支給されるので俺も持っていた。

もちろん、そこも貴族と差が付いており、俺やエルシィが持っているのは中古だし、容量も多くない。

それでも日用品を詰められるくらいはあった。

「えーっと、せっかくだし、布団も持っていくか」

とにかく、思いつくものをどんどんと詰めていった。

「レスターさん、お昼御飯ですよー」

寝室で最後の枕を収納すると、ウェンディがハムサンドを持ってきてくれたので食べる。

「ウェンディ、悪いが、カバンに入ってくれ」

ハムサンドを食べながら布団がなくなったベッドに腰かけ、魔法のカバンを指差した。

「んー? 魔法がかかってますね。これ、私は入れませんよ? 私、天使なんで」

魔法のカバンに生物を入れることはできない。

人形だが、こいつは人形じゃないわけだ。

「ウェンディ、レディにこんなことを頼むのは悪いが、俺の服の中に入ってくれるか? お前は目立つんだよ」

さすがに人形を持った男は目立ちすぎる。

そんな男がエルシィの家に入ったという情報を俺を追うであろう兵士に知られたくない。

「まあ、私が悪いんでいいですよ。我慢しましょう」

ウェンディが渋々頷いた。

「よし。ちょっと我慢しろよ」

ハムサンドを食べ終えた俺は立ち上がり、ウェンディを掴む。

「やぁん……」

「変な声を出すな」

ウェンディを服の中に入れる。

見た目はちょっと太った人っぽい。

「まるで人形のような扱い……」

服の中から不服そうな声が聞こえる。

「つまらんことを言うな。いいか? 外に出たらしゃべるなよ?」

「わかってますよ」

「行くぞ」

カバンを持つと、寝室を出て、リビングに灯りが点いているのを確認し、家を出た。

そして、鍵を閉めると、エルシィの家に向かって歩いていく。

念のため、遠回りをしたり、適当な雑貨屋に入ったりして追跡する人間がいないかを確認しながら進み、エルシィのアパートまでやってくる。

そして、何食わぬ顔で鍵を開け、中に入った。

「ふう……」

服の中からウェンディを出してやると、テーブルにつき、脱力する。

一気に緊張が解けたのだ。

「ほう……ここがエルシィさんの家ですか。小奇麗ですし、整頓されています」

エルシィの家は女の子らしく小物なんかも飾られているし、清潔感のある部屋だ。

「まあ、俺は多少、ずぼらなところがあるからな。さて、これからどうするか?」

「まずはエルシィさんが持って帰る情報ですね。ただ、私は逃げるべきではと思っています」

俺もそう思っている。

問題はどうやるかだ。

「急がないといけない。時間が経てば経つほど厳しくなる」

エルシィにもこれ以上の迷惑はかけられない。

あいつが帰ってきて、情報を聞いたらこの家からも出るべきだな。

そう結論付けると、今後のことを考えながらエルシィが帰ってくるのを待つことにした。