軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第025話 大英雄になれる

喫茶店に入ると、コーヒーとケーキのセットを注文する。

店内は他のお客さんが少なく、空いているのだが、隣のテーブルで優雅にお茶を飲んでいるご婦人が美味しそうにケーキを食べているウェンディを見て、口をあんぐりさせていた。

「さて、どうする?」

「そうですねー……ん?」

エルシィが店の出入り口の方を見たのでつられて見てみると、長い黒髪の若い女性が店に入ってきたところだった。

「……どうした?」

不審なところはないのに反応したエルシィに声量を落として聞く。

「……さっきの店にいた人です。店員のおじさんと話していた時に目が合ったので覚えています」

目が合った……

ということは見ていた?

「……密偵か?」

「……そんな風には見えませんけど」

「……敵意は感じませんよ。むしろ……あ、なんか来ました」

ウェンディの言葉通り、黒髪の女性がこっちにやってくる。

しかも、ガッツリ目が合っていた。

しかし、女性は途中で足を止め、目を見開いた。

理由はケーキを食べているウェンディだろう。

「あ、すみませーん。この子は人形のように見えますけど、使い魔なんですー」

エルシィが説明する。

「あ、そう? あー……えーっと……」

多分、俺達に用があるんだろうが、完全に出鼻をくじかれたな。

「何か用か?」

「あ、うん。さっき薬屋でポーションを売っていたご夫妻よね?」

やはり用があるのか。

「まあ……」

「新婚旅行中なんですー」

エルシィが『きゃっ』と笑う。

IQが10くらい下がってそうだ。

「そ、そう? ゲイツからはるばるようこそ……」

ゲイツね。

エルシィと店員のやり取りを聞いて、追ってきたわけだ。

刺客でも密偵でもないな。

商人だ。

「ガイドか押し売りか何かか?」

「あ、違うわ。私はこういう者」

黒髪の女性が名刺を渡してきたので見てみる。

そこには【ウラム商店】のイレナ・ウラムと書いてあった。

やはり商人のようだ。

「店の人間か……何売ってんだ?」

「色々ね。ただ王都じゃなくて、南にあるミックっていう町で店をやっている」

ふーん……

「ミックはこれから行く候補先の一つだな。歴史ある町なんだって?」

「そうね。王都もまだ観光名所が残っているけど、かなり区画整理がされている。でも、ミックは昔のままだし、穏やかだし、自然豊かだから避暑地としても人気よ」

少し話を聞いてみるか……

そう思ってチラッとエルシィにアイコンタクトを送ると、エルシィが立ち上がった。

「イレナさん、せっかくですし、ミックの話を聞かせてくださいよー。どうぞ、どうぞ」

「え? あ、そう?」

イレナはエルシィが座るように勧めると、さっきまでエルシィが座っていた席につく。

そして、エルシィは俺の隣に座った。

「ミックって大きい町なんですか?」

エルシィが早速、ミックのことを聞く。

「いえ、そんなことないわよ。昔は南の方の町と王都を繋ぐ中継地として栄えたみたいだけど、列車ができてからは微妙でね。それで観光や避暑地の方向に舵を切ったわけよ。賑やかで買い物なんかを楽しみたいって言うなら王都なんかの大きい町が良いと思うけど、ちょっと休みたいとか、静かなところでゆっくりしたいって言うならミックがおすすめかな。自分の出身地ってこともあるけど、良い町だと思うわ」

イレナがうんうんと頷きながら説明してくれた。

「へー……色々な国を回ってきましたし、ちょっと休憩しますぅ? ゆっくりですって……きゃっ」

さらにIQが10下がったな。

「まあ、せっかく地元民に会えたわけだしな。しかし、予算のこともあるぞ」

「えー……プロポーズの時に金のことは気にしなくていいって言ったじゃないですかー」

すげーな、こいつ。

IQが20も下がっている感じだが、さっきから嘘しかついてない。

「お金に困っているならミックに寄るついでにちょっと仕事しない?」

ほら、釣れた。

「仕事? 新婚旅行中だぞ」

「ちょっと予算を増やしてもっと良い旅にしたらどう? 可愛い奥様も喜ぶんじゃない?」

チラッと隣のエルシィを見ると、舌を出して、ウィンクしてきた。

「ふーん……」

可愛い奥様ねー……

俺達、イレナにどう思われているんだろう?

バカ女とそれに引っかかった男か?

「結婚式と新婚旅行、出産の時、それと義実家への対応は絶対に忘れないってママが言ってたわよ」

お母さんの苦労と恨みが見えるな……

「そうか。ちょっとすぐには答えが出せんな。他にも行きたい候補があるし、情報を整理して旅行の計画を練り直さないといけない」

「良いと思うわ。他にも観光地はあるしね。もし、前向きになってミックに来たら店に来てちょうだい。仕事は置いておいてもおすすめの宿屋とかご飯屋くらいなら紹介してあげるから」

イレナはそう言うと、立ち上がった。

「悪いな」

「教えてくれてありがとうございまーす」

「いえいえ、それじゃあ、私は帰らないといけないからバイバイ」

イレナが手を振った。

「さようならー」

ウェンディが手を振り返す。

「うん……うん……人形がしゃべった……」

イレナはなんかショックを受けながら店を出ていった。

どうでもいいけど、店に入ったのなら何か頼めよって思った。

商人のくせに……

「さて、どうするか」

「そうですね……」

エルシィはIQを20上げて考え出す。

自分のケーキを食べ終えたウェンディは俺のケーキをチラチラ見ている。

「食べていいぞ」

「おー! さすがはレスターさん! 紳士ですねー。あなたの次の人生が異性にモテモテになるように神に頼んでおきますね」

「どうも……」

このままいくと、俺の次の人生はものすごいことになるな。

俺じゃないからどうでもいいけど。