軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第148話 何してんの?

午後からずーっと生産性皆無な休日を満喫していると、徐々に日が傾き始めた。

「エルシィ、ウェンディ、ボートに乗るか?」

「乗りたいでーす」

「ボートだー」

2人は楽しみにしていたので嬉しそうだ。

「じゃあ、行くか」

俺達は片付けをし、立ち上がると、敷物をしまい、右の方にあるボートが並んでいる桟橋に向かった。

数人が並んでいたが、ボートの数はまだ十分にあるので大丈夫だろうと思い、後ろに並んで待つ。

そして、ちょっと待っていると、俺達の順番になった。

「いらっしゃい。ボートですか?」

ボート屋のおっさんが笑顔で聞いてくる。

「ああ。ボートを借りたい。いくらだろうか?」

「3000ゼルになります。時間制限は特に設けていませんが、暗くなる前に帰ってきてくださいね」

時間制限がないのか。

「わかった」

財布から3000ゼルを取り出し、おっさんに渡す。

「まいど。好きなボートを使ってください。あとあまり向こうに行かないでくださいね。月に2、3回は戻れなくなって救出っていうのもありますから」

調子に乗った奴がどんどんと漕いでいくんだろうな。

対岸まで何キロあると思っているんだ。

「近くを楽しむ程度だから問題ない」

「お願いしますね。では、どうぞ」

おっさんが避けたので桟橋を歩いていく。

そして、どれも同じボートに見えたので一番奥のボートにエルシィと向かい合うように乗り込んだ。

乗り込む際に少し揺れたのでちょっとビビったのはご愛嬌。

「手漕ぎか……」

オールを両手に持ち、正面を見ると、エルシィとウェンディが両手を頬に当てながらニコニコしている。

「先輩、頑張ってー」

「フレー、フレー」

2人は手伝う気がないらしい。

まあ、オールを漕げそうにないエルシィとそもそも持つことすらできないウェンディだから仕方がない。

「じゃあ、行くぞ」

片方のオールで桟橋を押し、ボートを動かす。

そして、オールを同時に動かし、桟橋から離れた。

「先輩、すごーい!」

「船乗りさんですね!」

全然、すごいとは思わないが、楽しそうで何より。

「意外とできるもんだな」

ちょっと疲れるけど。

「ボートを漕いでくれる彼氏って良くない?」

「良いと思います」

ホント、楽しそうで何より。

ってか、よく見たらボートに乗っているのって皆、若い男女だわ。

「結構、楽しいぞ」

「先輩、馬も楽しそうに乗ってましたもんね。案外、そういう職業も向いているんじゃないですか?」

そうなのかな?

前世でも今世でも選択肢にすら入らなかった職業先だが、もしかしたら向いていたのかもしれない。

「わからんもんだな」

「ですねー。意外すぎですもん。海に近い町で店を建てたらそのうち船とか作りそうですね」

作り方さえわかれば錬金術で作れるからな。

「遭難しそうだからしない」

エリクサーを飲みながら救助を待つのは嫌だ。

「確かにやめてほしいですねー。海から帰らない夫を待つ未亡人は嫌です」

「あいつは死んだんだ……もう忘れちまえよ」

ウェンディが低い声を出して、エルシィの肩に手を置く。

「何だそれ?」

「なんかありそうじゃないです?」

縁起悪いな、おい……

天使が言うことか?

「ねーよ」

「ないよー」

「そうですか。それは良いことですね」

ニヤニヤするウェンディに呆れながらボートを漕いでいく。

すると、岸から50メートルくらいは離れた。

「ここまで来ると静かですねー」

漕ぐのをやめると、そのまま慣性の法則で進んでいく。

すると、陸の方にいる人の声が聞こえなくなったのでわずかに聞こえる波の音くらいしか聞こえなかった。

本当に静かだ。

「そうだな。それに夕日が綺麗だ」

太陽が沈み始め、湖が茜色に染まっている。

「ええ。ロマンチックです」

「ギルドの受付嬢の方がここで王子様とキスをするのが夢って言うのもわかりますね」

さすがにこれは俺もわからないでもない。

それほどまでに感動的な光景なのだ。

しかも、湖の中のボートという二人きりの世界がそれをより強くするのだろう。

「今後、どこかで店を出し、そこで落ち着いた暮らしをすると、こうやって色んなところに旅をする機会は減ると思う」

「それはそうでしょうねー。お店がありますから」

自由にやれるのが自分の店だが、さすがに付き合いのある店や客を無視して長期の旅に出るのは難しいだろう。

「ああ。だから今だけだと思う。そして、そうなった時もこの光景は忘れないと思う」

ここだけじゃない。

ポードのイルミネーションもターリーの高台から見る風景もイパニーアの騎乗体験もけっして忘れないだろう。

「ずっと忘れませんよ。おじいちゃん、おばあちゃんになってもあの時は楽しかったねって言うんです」

そうだな。

そうでありたい。

「大丈夫ですよ。店を建てても将来、御二人のお子さんが跡を継ぎます。そうして暇になったらまた行けばいいんですよ。御二人がやる店だから繁盛しますし、完全な道楽旅ができます」

ウェンディがうんうんと頷く。

ついてくる気っぽい。

「そうなるように頑張らないといけないんだな」

「先輩ったらー……もう!」

なんかエルシィが1人で盛り上がっている。

「さて、日が沈む前に戻るか」

暗くなった湖は怖いし。

「今日もご馳走ですねー」

「夜は優雅に過ごしましょう」

帰ることにし、桟橋に向かってボートを漕いでいく。

ちょっと疲れながら漕いでいくと、ボートを桟橋に止める。

そして、先に降りると、エルシィに手を伸ばした。

「ほら」

「先輩、かっこいい! おっと、と……」

エルシィが手を取ったのだが、バランスを崩したので引っ張る。

すると、その勢いのままエルシィが抱き着いてきた。

「大丈夫か?」

「昨晩も思いましたけど、先輩、良い匂いが……ん?」

「ん?」

ぎゅっと抱きしめていたエルシィが顔を上げて左の湖の方を見たので俺も見る。

「あ、ごめん……」

「すまん……」

そこにはボートに乗るどこぞの同級生兄妹がいた。

「「は?」」

「嫌なものを見たな……」

「エルシィ、ホント、あざといよね……」

よくわからないが、ターリーからの留学生だったカルロとニーナがカップルしか乗らないボートに乗っていた。