軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

王都オーラヴ1

翌日、アリアンとララトイアからホーバンの街を見渡せる場所に【 転移門(ゲート) 】を使って飛び、そこから【 次元歩法(ディメンションムーヴ) 】で転移を繰り返しながら一路ローデン王国の王都を目指していた。

昨日はホーバンで助けたエルフ族の女性をララトイアのディラン長老に預け、そのままそこで一泊した後に明朝にララトイアを発った。

今回もアリアン家の風呂を堪能して、美味い食事を御馳走になったが、何時でもあそこを利用できる訳では無いのでそろそろ自分の専用の拠点を何処かに持ちたくなってきている。

金貨千枚以上をいつも荷物袋に入れて持ち歩いている事が、さらにその欲求を加速させている要因にもなっている感は否めない。

アリアンの母であるグレニスは何時でも好きな時に遊びに来てもいいと言われてはいるが、それを鵜呑みにして本当に好きな時に行くわけにもいかない。

ただしこれにはある条件が付いており、ポンタを連れていればの但し書きが入る。

女性や子供を籠絡するその手腕には脱帽するしかない。

そんなポンタは何時もの定位置である兜の上に貼り付き、転移で瞬間に切り替わる長閑な景色を眺めながら欠伸をしていた。

ホーバンから王都までの距離は馬車で二日程度らしいが、【 次元歩法(ディメンションムーヴ) 】を使えば半日も掛からない。

しかもこの周辺の景色はなだらかな平原が続いており、村や畑ばかりで見晴らしが良い。【 次元歩法(ディメンションムーヴ) 】を使えばかなりの距離を転移で飛ぶことが可能だ。

たださすがに王都へと続く街道は人通りが多く、人目につき易いだろう事を考慮して、街道を少し外れた場所を選んで転移していく。

程なくして正面に北から南へと流れる大きな川が姿を現す。

空から降り注ぐ太陽の光を反射して光の帯と化した川は、その緩やかな流れを横たえ、視界の先に広がる平原に境界線を描き出している。

その境界線に渡された大きな橋を越えた先、ここからでもその大きさがはっきりと分かる円周状に広がる巨大な街が視界の先に見えた。

四重の街壁で囲まれたその巨大都市はこの世界に来てから見るどの街よりも大きく、この圧倒的自然強者の風景のなかで、人の領域を固持するかのようなその姿は何処か名状し難い風景となって目の前に広がっている。

「圧巻とはこういうものを言うのだろうか……」

一人その風景を眺めながらそんな呟きが口から漏れるが、隣にいたアリアンは不思議そうに首を傾げる。

「どうしたの?」

「ん、いや何でもない」

アリアンの問い掛けに軽く首を振りながら答え、前を向く。

王都が見えてからは街道に出て、他の街道行く人達に混じって王都へと向かっていた。

ホーバンからこの王都オーラヴを目指した主な理由は今後の情報収集の為だった。

手元にあるエルフ族売買契約に記された人物、残る名はルンデス・ドゥ・ランドバルトとドラッソス・ドゥ・バリシモンと言う名の人物だ。

この二人の人物の情報を探る為、内乱が勃発して政情不安定になったホーバンを後にして、一番人と情報の集まるであろう王都を目指したのだ。

その王都の手前を流れる川幅の広いライデル川には大きな橋が架かり、遠くからでも多くの人や馬車が行き交う姿を見る事が出来る。

その橋を渡ると王都に直接入る事になる構造はディエントと同じような造りだが、ディエントと違い橋の先の第三街壁と第四街壁の間にも市街が広がっているようだった。

ライデル川に架かるその橋を渡り、眼前に王都の街壁が迫って来る。

街壁の高さは三十メートルを超える高さがあり、ララトイアのように周囲に巨木のない平原に聳えるその壁は、より際立ってその高さを増すように見える。

今見えている王都の門は東門にあたり、その幅は十メートル程もあり、多くの人や荷馬車などが絶え間なく出入りする姿は街の隆盛を如実に物語っている。

街へ入る荷馬車の列のすぐ横の人の列に並び、次々と門の中に呑み込まれていく人の波を見ながら、アリアンと二人で街へ入る為の行列を進む。

やがて衛兵の前まで列が消化され自分達の番がきた。

衛兵の男は此方をちらりと一瞥しただけで特に何の感慨も見せず、先程から散々繰り返してきた言葉を実に面倒臭そうに口を開く。

「身分証、叉は入街税一人1セクだ」

事務的なその言葉に、此方も何も言わず黙って銀貨を二枚渡すと衛兵の男は門を顎で示しさっさと行けと言う表情をした後、次の順番を待つ人間の応対に入っていた。

見上げるような巨大な門を潜り、初めてこのローデン王国の王都オーラヴに入る。

東門を越えた先には門の幅と同程度の石畳の通りが走り、両側には商店が立ち並んでいて、その間を数多くの人が行き交う様子は巨大な商店街を彷彿とさせる光景だった。

行き交う人々は様々な装いをその身に纏い、この活気溢れる王都の賑わいに花を添える役目を果たしている。

頭の上ではポンタがそんな賑やかな風景を、首を 忙(せわ) しなく動かしながら辺りの様子を覗っているのが伝わってくる。

そんな 喧々(けんけん) たる様を見せる王都は、人口が多くなれば何処の都市でも抱える問題なのか、「火事と喧嘩は江戸の花」宜しく街中の大通りで諍いを始めた集団があり人だかりが出来ていた。

柄の悪い筋骨逞しい男達数人が一人の男を相手取って因縁を付けているといった格好だが、どう見ても分が悪いのは今まさに因縁を付けている男達の方だろう。

相手の男は頭にターバンのような帽子を被り、口元もその布で覆い目元しか見えないが、その身長は二メートル三十は優に超えており、周りから頭一つ飛び抜けていた。そして上半身は裸で、鍛え抜かれた鋼のような筋肉が盛り上がりまるで生きた鎧のようで、その上にマントのような外套を羽織っている。

人だかりが出来ているのにも拘らず、少し離れた場所にいる此処からでもその巨躯の男は異質なまでの存在感を放っており、まるで世紀末覇者のような覇気さえ幻視できそうな気配を漂わせている。

「て、テメェ! オレ達のシマでデカい顔してんじゃねぇぞっ!!」

そのターバンの世紀末覇者を前に精一杯の虚勢を張り喰って掛かる様子は逆に哀れにすら見えるが、こういったチンピラ紛いの縄張り争いには舐められたら負けというような暗黙の了解があるのかも知れない。

しかし相手をしている男は目の前の小物には些かの脅威も覚えていないのか、ちらりと視線を下げて一瞥したのみで、無視をして先へ行こうとした。

「テメェ、無視してんじぇねぇぞぉぉ!!」

周囲にいた男達はその態度に一気に頭に血が上ったのか、腰に差した短剣を引き抜いてターバンの男に向かって吠えた。

周囲にいた野次馬たちは刃傷沙汰になりそうなその光景に、小さく悲鳴を上げて取り囲んでいた円を広げた。

しかし、次に聞こえて来たのは今しがたターバンの男に向って吠えたチンピラ達の悲鳴だった。何時の間にか肉薄していたターバンの男は両手に一人ずつ相手の頭を握り、そのアイアンクロー状態で大の男二人をゆっくりと空中に吊り下げ始めていた。

「ぎゃぁぁぁぁぁあ!! 頭がっ! 頭がぁぁぁ!!」

「やめてぇ!! やめてぇぇ!!!」

二人の男が泣き喚きながらもがくが、頭に喰い込んだターバンの男の指が容赦なく締め上げ頭蓋骨をみしみしと軋ませていく。

そのあまりにも圧倒的な力の差を見せつける光景が周囲の喧噪を消し、一種異様な静けさを生み出し、今にも男の頭蓋骨が砕けるかと思われた。

「貴様らぁ!! 其処で何をやっているかぁ!!」

すると野次馬の後方からこの騒ぎを聞き付けた衛兵達が、人だかりを掻き分けて進んで来ており、その姿を見た周囲の野次馬達は巻き添えは御免だとばかりに我先にと蜘蛛の子を散らすように去って行く。

視線を戻すと、先程まで男を締め上げていたターバンの世紀末覇者も同時に姿を消し、足元には股の間から色々なモノを垂れ流して気絶している男二人だけになっていた。

「野蛮なところね……」

垂れ流されたモノの臭いに顔を顰めながら、灰色の外套姿のアリアンが嘆息する。

「少々野蛮で人が多ければ紛れ込みやすくもある、我らには好都合だ」

そんな会話を交わしながらアリアンと二人で騒ぎのあった場所から足早に遠ざかる。

「まずは何処かに宿をとって、そこから手分けして情報を探るとするか……」

「そうね……」

衛兵達を躱して街中を進み今後の予定を口にすると、人混みにウンザリとしていたアリアンも同意を示してきた。

暫く大通りを歩き、手近にいた通行人を一人掴まえて道を尋ねる。

「すまぬが、宿を探している。何処かいい所を知らぬか?」

「え? あ、えっと……そ、そうですね、騎士様なら第二街区の方へ行かれた方が宜しいんじゃないですかね?」

いきなり見ず知らずの鎧騎士に話し掛けられた青年は目を丸くして、泡を食いながらも応対してくれた。

青年の話では現在いる第四街区はまさに庶民の街区で、中心の王城に近づくほど身分の高い者や富裕層の暮らす街区が広がっているそうだ。

ただ第一街区は貴族の街になっているらしく、普通の一般人が第一街壁の門を潜る事は滅多に出来ないという話だった。

青年に礼を言って銀貨一枚を握らせ別れた後、アリアンと並んでさらに大通りを進む。

東門から伸びるこの大通りは第二街区まで貫いており、そのまま街の中央部へと移動できる為程なくして第三街壁の門までやって来れた。

第三街壁は高さ二十メートル程だが、それでもかなり立派な街壁が左右に続いている。その街壁沿いの下にはいくつもの露店が軒を連ね、さながら下町のガード下のようだ。

第三街壁の門には両脇に衛兵は立っているのみで特に検閲をしている様子はない。その門を越えると先程までの雑多な喧噪が少し落ち着いたものへと変わるが、相変わらず人の多さは変わらなかった。

ただ第四街区はほぼ木造家屋だった物が、第三街区からは石造りの家屋が増えてやや瀟洒な佇まいを演出していた。

あまり街の中央の高級志向な場所へと行っても目立つだけなので、宿は第三街区で探す事になった。

大通りを逸れて通り沿いに並ぶ商店の脇の横道を進むと、大きな水路が通りの裏側を沿うように流れており、その水路には荷物や人を乗せたゴンドラのような小舟が行き交い、そこだけ見ればヴェネチアのような光景だ。

船の行き交う水路の上には石橋が渡されており、そこを渡ると居住区が広がっている。

宿の他にも酒場や食事を出す店などもあり、大通り程ではないがこの一帯も人通りは多く賑わいを見せている。

そんな中に建つ一軒の小奇麗な三階建ての宿屋に入り、自分とアリアンの二部屋を取ると再び外に出た。

とりあえず今晩の宿は決まったので、あとは街中での情報収集をする事になり、アリアンと宿の前で別れて街中へと歩き出した。

この街は今迄の街より随分と大きい為、迷子にならないように判りやすい道が通る大通り沿い付近を歩く事にした。

それに路地裏などに入っても大した情報を得られるとは思えないしな──、そんな自分への言い訳を心の中でしながら大通りに出る。

それに今回の情報収集には、それ程苦労する要素はないだろうとも思う。

何せフーリシュ・ドゥ・ホーバンはホーバンと言う名の所領の貴族だった、この考えで行くなら残りの二人も名前に付けられた所領を持っている可能性が高い。

つまりはランドバルトとバリシモンと言う名の所領、ないしは街の名を当たればいい。

それならば一番そういうものに詳しい人種と言えば、恐らく商人あたりに聞く事が一番の近道になる筈だ。

先程宿を探しに通った道筋にちょうど良さげな場所があったなと思い返す。

再び第三街壁を越えて露店の立ち並ぶ街壁沿いの一角に足を向ける。

今いる場所の多くの露店は野菜などのような青果物を取り扱っている者達が多く、頭の上に貼り付いたポンタが興味深そうに尻尾を振って反応している。

「きゅん!」

そんな露店を冷やかしながら歩いていると、ポンタが一際大きく反応した店があった。

一人の老人が樽に入れたドライベリーを量り売りしているその露店の前は、甘酸っぱいベリーの匂いが微かにしてポンタの鼻を大いに刺激したようだ。

「御老体、二杯頂こうか。品はこれに……」

そう言って荷物袋から革の小袋を出して目の前の露天商を営む老人に手渡す。

「へい。毎度どぉうも、騎士様」

老人はゆっくりとした動作で、樽の中のドライベリーを器に掬って革袋に入れていく。

「時に御老体。少し尋ねたいのだが、この辺りにランドバルト、もしくはバリシモンと言う所領ないしは街を知らぬか?」

此方の問い掛けに老人は掬った器を持ったまま少し首を傾げると、何か思い出したように大きく頷いた。

「おぉ、ランドバルトなら知っておりますよぉ。この王都から西の街道を進んだ先にある、港湾都市がランドバルトって言いますなぁ」

「ほぉ? 西か。して距離はどれ程か?」

老人は器を樽の上に置いて腕組みをして、眉間に皺を寄せて宙を睨む。

「んぅ~、たっしか馬車で六日程の距離でしたかなぁ……」

馬車で六日、結構な距離があるという事か……。

「もう一つのバリシモンに聞き覚えはあるかな?」

「んにゃ、さっぱり、聞いた事ないですなぁ~」

暫く宙を睨んでいた老人だったが、首を振って溜息を吐いた。

「そうか。すまぬな、御老体。これは礼だ」

二杯のドライベリーを受け取り、情報料と合わせて銀貨五枚を老人に握らせた。

露店のその老人は目を丸くしたが、すぐに歯の抜けた口元に満面の笑みを作った。

その露店を離れ、ポンタにドライベリーをやりながら他の露店を回りバリシモンについて聞き込みをしてみたが、その名に心当たりのある者はいなかった。

ランドバルトの情報は首尾よく集まったが、バリシモンに関しては情報が皆無だ。何か前提条件を間違えたのかと思案していると、背後から不意に声を掛けられた。

「お久しぶりです」

背後を振り返ると、そこには何処かで見た記憶のある者が立っていた。