軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

宝物庫見学

饗された晩餐はパン以外のほとんどを食べ尽した。

チヨメはもとより、アリアンも人族の王族などが口にする料理は珍しかったのか、味を確かめるように色々と手を伸ばしていた。

ポンタはすでに満腹で食卓の上で腹毛を上にして寝息をかいている。

そして一番料理を口に運んだのは自分だろう。

肉体を持たない骸骨姿の身体の場合、まさに四次元へと繋がる胃のおかげで料理を最後まで堪能できるので、そういった意味でもこの身体は便利だ。

そうして食後のお茶を堪能していると、一時間程経った頃だろうか、宝物庫への案内係となる兵士が部屋に呼びにやって来た。

「御案内致します」

此方に向かって敬礼を行ったその兵士は、きびきびとした動きで自分達を先導していく。

アリアンはお腹が満たされたからか、小さく欠伸をし 眦(まなじり) に涙を溜めている。

その彼女の腕の中には寝息を立てるポンタが抱えられており、静かに上下するそのお腹の毛を時々手慰みのように掻き回していた。

チヨメはいつも通りの澄ました表情をしているが、彼女の右手がお腹を擦っている様子を見るに、少し食べ過ぎたのかも知れない。

案内役の兵士に連れられて王城の複雑怪奇な通路を歩くが、その道順はまさに迷路であった。

通路を右へ左へと角を曲がるのは分かるが、初めは王城の上階を目指していたと思っていたのが、途中で階段を下り始めた時にはアリアンが案内役の兵士に揶揄っているのかと問い詰めた程だ。

王城は防衛や警護上、複雑な通路が張り巡らされているのだろう。ましてやその国の宝物庫となれば、外部からそう簡単に侵入できては何かと都合が悪いのだ。

しかも一定区間毎に案内役の兵士が交代し、引き継がれている様を見れば、彼ら城内を警護する兵士らも城内の全てを把握できないようにされているのだろう。

単純ではあるが、なかなかに効果的な警備体制だ。

(サスケ殿はよくこんな城の宝物庫を探し当てる事ができたものだ……)

先導する兵士の背中を横目に、先にここに忍び込んだ賊であると推測されるサスケを褒めると、隣を歩いていたチヨメが何やら誇らしげに薄い胸を張った。

実際問題、城内を警備する兵士の目を掻い潜り、侵入するには困難な迷路のような通路を通って宝物庫へと到り、さらにはそこから脱出するというのは本当に可能なのだろうかと疑う程だ。

自分なら確実に最初の警備兵に見つかり、城内の兵士全てを倒してから宝物庫を探す事になるのが手に取るように分かる。

隠密、盗賊にはまず向かない性格だな──。

そういえば少し前に盗賊相手に追剝ぎなどしていたなと、そんな事を考えながら、やがて王城の中を練り歩いて着いた先に宝物庫への扉らしきものが目の前に見えてきた。

場所は恐らく王城の地下だろう。

壁も床も分厚い石壁、石畳が敷き詰められた通路を歩くと、いやに歩く足音が響き、扉前の見張りである兵士がその音に気付いて居住まいを正す。

侵入者用の警報代わりか、色々と工夫されているようだ。

見張りの兵士が扉を開き中へと促すので、それに従って中へと入ると、そこは少し幅の広い通路のような間で、その通路の先にまた扉が設けられていた。

そしてそんな幅広な通路の間には、ここ最近で見慣れた人物の顔があった。

一人はリィル王女だ。

出会った際に着ていたような素朴なドレスではなく、今彼女が着ているのは豪奢で可愛らしい空色のドレスで、その出で立ちはまさに一国の王女様といった雰囲気だ。

少し巻き毛の金色の髪は、宝石があしらわれた髪留めで首筋が見えるような形で留められている。

そんな彼女の後ろには二人の護衛騎士、ザハルとニーナの姿もあった。

二人は最初に出会った時のような簡素な軍服ではなく、肩や胸に勲章や階級章のような装飾品を配した軍装姿で立っている。

宝物庫立ち入りの際の監視役といったところか。

しかし、この場にリィル王女のような要人が何故いるのか分からず、その旨を彼女に問い掛けた。

「ところで、リィル殿が何故このような場所に?」

「今回のアーク殿らとの契約はわらわが結んだものじゃ。わらわが最後まで責任を持って今回の契約の報酬の履行を行うと約束するのじゃ! 父上も了承しておるしな!」

自分の問いに対して、彼女は胸を張ってそう言って堂々と答えた。

後ろに並ぶ騎士の二人に視線をやると、ザハルは少し困ったような顔している所を見ると、彼女が国王に強弁で通したのだろう事がなんとなく窺える。

「それに今まで宝物庫に客人を入れるなど無かった事らしくてな、わらわのような王族の帯同があっての前例ならば、今後もそう実例を増やす事はないじゃろ、という父上の判断じゃ」

その彼女の言葉に、思わず成程と相槌を打った。

王宮には色々とその王宮独自の慣例などが多くあるのだろう。

そこに今回のような王女自ら約束した報酬の為とは言え、余所者が宝物庫へと立ち入る事を前例として残しては色々と今後問題になる可能性がある、という事か。

庶民である自分にはあまり馴染のない感覚だが、逆に集落単位で暮らすエルフ族には共感する事があるのか、アリアンは理解を示す瞳を彼女達に向けていた。

「では早速だが、奥の宝物庫へと案内しよう。貴殿らが中で何かを盗むとは考えてはいないが、できるだけ私達の目の届く場所での閲覧を願いたい」

ザハルがこちらの三者に視線を巡らせて語る言葉に、自分達はそれで問題ないと頷いて返す。

別に何かを盗むつもりは毛頭ない上に、今は自分もアリアンやチヨメも手に武器を持ってはいない状態だ。対してザハルやニーナは帯剣しているので、いざという時には狼藉を排除できる体制だ。

普通、この状態で宝物庫の品を盗み出すなど考えないだろう。

それよりも、ようやく一国が所有する宝物が集められた場所に入れるようだ。

今回の事はサスケの足跡を探る事が目的だったが、既にそれがあまり意味を成さない今となっては、宝物庫を覗けるというのは単純に楽しみな催しだった。

そんな宝物庫の扉は、今居る直線の通路の間の奥に配置されている。

見た目の大きさはちょっとした門程もあり、頑丈そうな金属の補強材で固められた姿は、宝物庫の扉というよりも、小さな城砦の門といった趣だ。

その門の前に立っている警備兵らの数は六人もおり、それ程広くない通路の間に並んで立つと人一人分の隙間もないような状態になる。

警備兵らは先頭に立つリィル王女に一礼をすると、彼女から二本の鍵を受け取り、扉に備えられた金属の塊のような錠前に差し込んで回した。

通路の間に鍵を回す音が二回ほど響き、兵士らの手によって重い扉が軋みを上げて開かれた。

そんな厳重な警備体制に感嘆の息を漏らし、サスケはいったいどうやってこの宝物庫に侵入したのだろうかと不思議に思い頭を捻っていると、此方の様子に気付いたザハルと視線が合った。

「以前話したと思われるが、宝物庫に賊が侵入した件で警備が見直されたのだ」

その彼の言葉に納得した。

以前はここまでの警備体制が敷かれてなかったのだろう。

この宝物庫まで辿り着ける賊など想定していなかったのだろうし、実際今までそれで問題になる事も無かったが、それが一人の忍者によって破られた事によって一新されたという事か。

──当時の警備にあたっていた兵士には酷な出来事だっただろうな。

薄暗いその宝物庫の開かれた扉の中に一人の兵士が入り、明かりの魔道具らしき物が点灯されると、扉の奥に広がる宝物庫の姿が浮かび上がった。

「どうぞ」

ザハルの中へと促すその言葉に、リィル王女を先頭として宝物庫の扉を潜る。

中は豪華絢爛な室内に目も眩むような宝飾品や美術品といった類の品々が整然と、そして所狭しと並べ飾られている──という訳ではなかった。

著名な作家の手による彫刻なのだろうそれは、埃避けの為の布が頭から被されており、裾から少しだけ土台が覗いている。

額縁に納められている絵画は、絵の部分が見えない状態で梱包されて並べ置かれていた。

宝飾品や金貨の類は見える状態では置かれておらず、目に入るほとんど全ての物は武骨で簡素な木製の箱や、蝶番付きの小箱などが備えつけられた棚に押し込まれるように並んでいた。

室内も質実剛健な見事なまでの石造りの壁に、隙間なく並べられた石床と、柱には凡庸な形の明かりの魔道具が配され、装飾の類は室内に一切見えない。

その光景は宝物庫というよりも、さながら巨大な倉庫といった方が正しい表現だと言える。

これならば以前押し入ったディエント領主の隠し部屋の方がよっぽど宝物庫らしかった。

一度断りを入れてから、目についた幾つかの木箱などの中身を覗いて見ると、確かにここが宝物庫である事が分かる。

木箱の中身は実に様々で、金貨や銀貨の詰まった物から、緩衝材に押し込められるようにして仕舞われいる宝飾品や調度品、中にはいったいどんな価値があるのか不明な捻じれた木片や、黒光りする巨大なヤシの実のような物まで、その幅は多彩だ。

「ふむ……」「きゅ~ん」

宝物庫という名の倉庫内を歩き回りながら色々と見て回ったが、サスケの足取りなどはまったくといっていい程何も無かった。

こんな世界でまともな現場検証など望むべくもないし、自分が僅かな痕跡を見つけてそこから目の冴えるような推理を展開できる訳でもないので、たぶんこれが普通なのだろう。

そういう点では、この王都にやって来てパルルモ枢機卿に出会った事は僥倖だったと言える。

宝物庫の中をウロウロするだけの此方の姿を見上げて、リィル王女は不思議そうな顔をしていた。

彼女にとって特にこれと言って見るべき物の無い宝物庫の閲覧という行為は随分と奇異に映っているのだろうし、現状自分自身もどうすればいいのか分からずにいるのでそれも納得だ。

途中、アリアンやチヨメにも確認したが、これといった成果は無かった。

特に足跡が残っている訳でもなく、宝物庫内はこれだけ物が溢れているというのに、棚にも床にも埃らしきものが積もっていない。

奥の棚に指を這わせて見ても、特に指先が汚れるような事もなかった。

「随分と綺麗にしてあるのだな……」

此方の行動を逐一観察してくるザハルに対し、自分は適当に会話の話題を振るように話しかけると、彼は生真面目にその会話に返答を寄越してきた。

「賊が侵入した事が発覚後に、宝物庫内の品の盗難確認をする為に全ての品と目録とを突き合わせる作業があり、その際に一斉に掃除も行われたらしいのでな」

そんな彼の何気ない答えに、彼の顔を振り返った。

「今、宝物庫内にある品の目録があると聞こえたのだが?」

自分のその問い掛けにザハルは首を傾げながらも頷いて、それを見たいと言う此方の要望に応えて宝物庫の一角にあった書棚へと案内してくれた。

最初見かけた時は魔導書や禁書の類かと思っていたが、書棚に納められたほとんどの書は宝物庫に納められた品の目録や、搬出入の記録を記した物らしい。

書類の量は結構な数で、全てに目を通すには時間が到底足りないだろうなと、それらをパラパラと捲っていると、リィル王女が何かを思い出したように興味深い事を語ってくれた。

「そう言えば宝物庫の品は何も取られなかったらしいのじゃが、目録などの類が荒らさておったという話を聞いたのじゃ。確か、どれじゃったかのぉ……?」

リィル王女がそんな風に書棚を漁っていると、壁際に控えていた警備兵の一人が進み出て話に出た書の一冊を手に取って此方に手渡してきた。

「確か、荒らされた書の中で発見当初、一番上に開かれて置かれていたのは此方です」

警備兵から受け取ったその書を開き、中を捲っていくと見覚えのある絵が目に入った。

「チヨメ殿」

自分の呼びかけに、チヨメが他の書の閲覧をしていた手を止めて、此方が示したページに描かれた絵姿を見て、その蒼い瞳を見開いた。