軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二王子殿下

自分のペースで歩ける部署回りは、気分がいい。

すれ違う人も目礼か軽く挨拶をするかで、余計な声掛けとか触ってくるのとか変に気を引くための演技とかが一切ない。

妻帯者と言うのは清々しいものだな……!

そう思いながら歩くと表情に出てるのか、配布物を渡した相手に「ご機嫌がよろしいようですね」と声を掛けられる。

そんなに分かりやすいか?

脳内ミュー、深く頷かなくていいから。

顔見知り以上の知り合いだと、「卿がそこまで表情を柔らかくされるとは……。いいご縁を結ばれましたな」とニコニコされたり、「アイゼンバーグ卿をここまで変える奥方と、ぜひ知り合いたいものだ」と紹介を促されたり、「あんまり顔緩めてるとまたちょっかい掛けられるぞ?」と忠告を受けたりした。

そこまで表情が緩んでるか??

脳内の奥さんが、呆れた顔で肩をすくめてた。

そうか……。

昼休憩に入る少し前の時間帯は他の仕事でも切りが良いのか、渡したい相手はほとんど在室していた。

持ち帰るのは3部署分のみ、こちらもその場で戻りの時間を聞けたので後は同僚が回るだろう。

実に順調だ。

残りは成年王族の方々、かつ陛下や王妃陛下、そこに連なる王弟方などは専門の部署があるので、そちらの室長に渡した。

と言うことで、王太子殿下と第二王子殿下の所だ。

そこでふと立ち止まりルートを再度考える。

部署回り後に食堂へ向かうなら、順路は王太子殿下の執務室→第二王子殿下の執務室となる。

第二王子殿下とは特に関わりがない。手渡す、もしくは言付けて持ち帰るのみだろう。

だが、王太子である第一王子殿下は同い年で同級生、13歳で学園の一年生クラスの顔合わせから今の王宮勤めに至るまで、10年に渡る付き合いだ。

加えて、殿下は意外とおしゃべり好きなのだ。

普通にすれ違うだけでもなんやかんや立ち話になる。

ましてや、結婚してからの一ヶ月半、お互いの忙しさが混じり合いろくに話す機会がなかった。

最後に殿下と言葉を交わしたのは……式のお披露目後か。

あの時はミューと連れ立って挨拶をしただけで、招待した王族への礼を取るのみだったな。

……聞きたいこと、話したいこと、山なんだろうな。

下手したらそのまま殿下の執務室で昼休憩になるかも。

ため息をひとつ、多少戻ることを踏まえて第二王子殿下の執務室へと向かった。

◇◇◇◇◇◇◇

「総務室室長第四補佐のルシウス・フォン・アイゼンバーグです。第二王子殿下もしくはジェイデン第一補佐へお渡しする文書をお持ちしました。ご在室でしょうか?」

扉の前の騎士に申し入れると、「総務より連絡が届いております。どうぞ」とあっさり通される。

今日配布に回る、と朝のうちに周知してたとは言ってたな。それでも初耳っぽいとこもあったけど。

「失礼します。総務室より文書の配布に伺いました」

部屋に入ると、真正面に豪華な机があり部屋の主がニコニコ顔を向けてくる。

横に立つ第一補佐もなんだか愛想がいい。

「第二王子殿下。こちらお持ちしました」

「アイゼンバーグ卿!待ってたぞ」

にっこにこの殿下が弾けたように笑う。

待ってた……文書を??

そんなに興味のある内容なのか?

戸惑いが隠せないでいると、ジェイデン卿が殿下を窘める。

「殿下、まずは文書のお受け取りを」

「あぁそうだな、すまない。ジェイデンに渡してくれ」

そう言われ、ジェイデン卿に渡したが……そのまま彼は殿下に渡そうとしなかった。

???

興味があるのでは……?

戸惑いがより深まる。

「まぁ座ってくれ。急ぎではないだろう?」

席から立ち、殿下自らソファを勧めてくれた。

「はぁ……」

なんとも言えない返事をし、言われた通りに座るとサッとコーヒーが出された。

向かいに座った殿下も、殿下の背後に立ったジェイデン卿も相変わらずニコニコだ。

????

「いや、戸惑う気持ちは分かる。同じ学園に在籍していたとは言え、卿は兄上と共に動くことが多かったしな。兄弟で話すことがなければ必然的に卿とも交流が発生しなかった」

「まぁ、そうですね」

とりあえず理解出来る点は頷いておく。

兄弟仲が悪い訳ではないだろうが、3個違うお二人は学園で敢えて交流する機会もなかっただろう。

王宮に戻って会話をすれば良いだけのことだ。

王太子殿下と連れ立っている時に偶然顔を合わせたりしたら、失礼のない程度に礼を取るぐらいだった。

「卿は学園でも目立ってたからな。色々と噂は聞いたが、どれも本人に面と向かって言う内容ではなかったし、それで話し掛けると言うのも無礼だしな」

「…………そうですか」

なんだ色々って。

騒がれてるのは知ってた。

ミューの表現によれば、僕は「天使的美貌」だそうなので。

割と男女問わず注目されることは自覚していたが、一緒に行動していたのが王太子殿下率いる男性メンバーのみの仲間だったので、無遠慮に声を掛けられることはそうなかった。……皆無ではない。

数少ない声掛けのあれやこれやが、人々の噂の元になったのだろうか?

思わず殿下をジト目で見てしまう。

「……卿の目線は、なんだかグッと来るものがあるな?」

「やめてください殿下」

「落ち着いてください殿下。妃殿下に報告しますよ?」

ジェイデン卿と同じタイミングになってしまった。

第二王子殿下はそっちの人だったのか?

いや、僕らの少し前に結婚したはずだぞ。ジェイデン卿だって「妃殿下」って言ったし。

しかもジト目に反応するって……。

より疑惑の目になった。

「やめろジェイデン。冗談に決まってるだろう、場を和ませたかったのだ」

「殿下には冗談の才能がないと、妃殿下が太鼓判を捺されてます。アイゼンバーグ卿の疑惑が拭えないので、二度と仰らないでください」

一刀両断。

切れ味が良すぎて、殿下は普通にダメージを食らったようだ。

この場合、切れ味が良いのは妃殿下になるのか?

殿下は咳払いをひとつした。

「とにかくだな、今まで交流がなかったのに突然縁が発生したものだから、なんとか話をしてみたかったのだ。たぶん卿も あ(・) い(・) つ(・) ら(・) から被害を受けるだろうし……いや、もう受けてるのか?それなら尚の事、連絡を取りたいと思ってな!」

晴れやかな笑顔を向けられる。

あいつら?被害??縁が発生、とは?

さっぱりわからず、ジェイデン卿を見てもうんうんと頷いているだけだった。

「殿下、すみませんがご意向を把握できておりません。あいつら、とは?」

手を挙げて質問すると、殿下は不思議そうな顔をした。

「結婚したんだろう?」

「しました」

「グリフィス家と」

「そうですが」

「だよな!」

より一層笑顔を輝かせて、第二王子殿下であらせられるユーリウス・フォン・ジークハイド様はこう言った。

「まさかアイゼンバーグ家に ミ(・) ュ(・) ー(・) が嫁ぐなんてな!アイツ、また無理言ってないか?あんまり目に余るようなら、こちらから言っておくぞ?」

ミ(・) ュ(・) ー(・) 。

それは僕の妻が『親しい間柄』にだけ許す愛称。

僕と姉と、実家のご両親のみが口にしている……。

「……ミュー?」

「そうだ。なんと言ってもミューは「殿下」」

不敬極まりないことは分かっているが、これ以上殿下から「ミュー」と言う単語を聞きたくなかった。

「……なぜ第二王子殿下が、私の妻を愛称で呼ぶのです……?」

冷えた目で、低い声で問い掛けると、殿下とジェイデン卿はヒュッと息を飲んだ。

「ま、まさか、聞いてないのか……?」

「何をでしょうか?」

「話してないのか!」

「だから、何をです」

主従揃って絶望的な表情になった。

……これは、どういう関係だ?ありきたりな恋愛関係とかではなさそうだけど……。

反応に困ってしまう。

「ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ、また捻られる、今度は母上の前でって言ってた……!」

「……殿下、諦めましょう。口から出た言葉は戻せません」

頭を抱える殿下の肩を、ジェイデン卿がポンポンと叩く。

失言……なのか?しかしこちらはまったくわからないままなんだが。

「あの、殿下?」

恐る恐る声を掛けると、殿下がムクッと顔を上げて必死に訴えだした。

「頼むから!さっさと嫁から話を聞いてくれ!私はこれ以上何も言わないから!」

「は?」

不敬を重ねる聞き返しになったが、殿下は口を両手で塞いで意思表示をしてる。

ジェイデン卿も力なく首を振るばかりだ。

なんなんだ一体。

訳がわからないまま、受領のサインだけジェイデン卿に書いてもらい、第二王子殿下の執務室を後にした。