軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

テンプレートな展開が待ってました

ルシウス様が脱落した座談会。

『身内が仕掛けるハニトラは、どこまでが共犯とみなされるか』と言うノアに刺さるしかない話題で盛り上がっていたところ、屋敷からセザールがやってきた。

耳打ちされ、了承の意を伝えると一礼して去って行った。

「どうしたの?」

「寝室に戻したルシウス様ですが、引きつけを起こしそうなくらい泣いてるらしいので、慰めてきます」

「「子どもか」」

義姉と従姉のツッコミが被った。

私も完全同意。

「戻ってこれるとも思わないので、恐縮ですが一抜けさせていただきます。ノアは置いてくので心ゆくまで甚振ってください」

微笑みを向けると、ノアは引き攣った顔で「承知しました」と言った。

マリーもローズ様も朗らかに笑う。

「旦那様によろしく伝えて」

「ありがとう。ユーリ様には……特に伝えることがなかった、と伝えといて」

「離れ技でおちょくる気ね」

「わたくしからは『不甲斐ない』って言っておいてちょうだい」

「承知しました。お義兄様に、今度領地境の河川工事の日程について相談しに行きます、と」

「固い!骨太にも程があるわミュー」

「義兄妹で土木工事の話を延々としてるのこの子達。ルシウスは隣を陣取って参加してるけど、わたくしはサッパリよ」

なんか呆れられてしまった。

お義兄様はそっち面の経験が豊富だから、大変勉強になる。

カーテシーをして、屋敷内へと向かった。

さて、久々に夫のご機嫌取りをしないと。

◇◇◇◇◇◇◇

「主催者が先に帰るなんてね」

「しかも会場はアイゼンバーグ家なのに。家人が二人とも帰りました」

「遠慮がないと言えばそれまでだけど、ミューは本当に自由ね」

「あの子は昔からそうです。どこにいてもあのまま」

「それにしても、ルシウスが軟弱で嫌になるわ。ミューがいてくれるからまだ何とかなってるけど」

「と言うより、ルシウス様があんな風になったのって、大半ミューのせいじゃないですか?学園で見掛けた時はもっと取り繕っていらっしゃったと思います」

「その辺どうなの?ノア」

「……ルシウス様は、若奥様とご一緒されるようになってから、情緒が豊かになられました」

「そうね、身内とは言えわたくしたちの前であんなに泣き出せるんだものね」

「今も引きつけを起こしそうなくらい泣いてるとか、あの頃のルシウス様からは想像がつかない姿ですよね」

「学園に通ってた頃のルシウスは、年頃だったこともあるけど、あまり楽しいこととかなかったように思えるわ。今じゃあんなに全身で『ミューといるのが楽しい!』って表現してるけど」

「ふふふ」

「どうしたの?」

「ユーリ様から聞いたんですけど、最近の男性たちの話題の中で『一番の愛妻家』と言ったら、ルシウス様のお名前が上がるそうです」

「でしょうね」

「でも、ミュー単体だと『一番の恐妻』って評価になるんですって」

「……なぜかしら、なんとなく気持ちがわかるわ」

「同感です。ミューには言いませんが」

◇◇◇◇◇◇◇

寝室のドアをそっと開ける。

ベッドに突っ伏して泣いてる夫の姿があった。

あの人、もうすぐ24歳になるんだけどな。

「ルシウス様」

近付きながら声を掛けると、ガバ!と起き上がって振り向いた。

「ミュー」

眉をへにょりと顰め、また涙を溢してる。

こんなに泣き顔の成人男性、初めて見るかも。

いやルシウス様の泣き顔はよく見てるから、歴代一位の泣きっぷりてことか。

多少呆れつつ、自分もベッドに乗り上げルシウス様の頭を抱き締めた。

おずおずと腕が腰に回る。

「よく泣きますね。脱水症状起こしますよ?」

「気を付ける……」

「何をそんなに嘆いてるんですか?」

「……ほんのちょっとでも、君を蔑ろにしたこと。自分が同じことされたら、とう、到底、耐えられないくせに……!」

あぁまた泣き出した。

収まらないなぁ。

「二度としないでくれたら、それでいいですから」

「二度としない……!」

「て言うか、もう出来ないでしょ?」

「無理……」

「じゃあもういいです。接触禁止期間も終わったし、今日からまた一緒に過ごしてあげますよ。嬉しい?」

そう聞くと、抱き締めてた頭がもぞもぞ動いたので、手を緩める。

泣き濡れた顔のルシウス様が、私を見上げ、蕩けるような笑顔になった。

「嬉しい……」

眩っしい!

天使さに磨きを掛けてるよこの夫。

そのうち神にでもなるのか?

内心恐れ慄いてると、顔が近付きついばむようなキスが始まる。

これはこれで気持ちいいけど、止まらなくなるのはマズい。

段々長めになってきたので、肩を叩いて止める。

顔を離したルシウス様は不満そうだった。

「嫌だった?」

「嫌じゃないですけど。閨に突入しそうだから」

「ね?!う、いや、しないよ、まだ明るいし、姉上たちだって帰ってないのに……」

頬を赤くして口を尖らせてるけど、意味が違う。

「そうじゃなくてですね。私、たぶん妊娠したので。しばらくは出来ないです」

ガチリ、と固まったまま動かなくなった。

うん、お義母様の読みが当たった。

涙も止まったので、ルシウス様が再起動するまで顔を拭くことにした。

右頬、左頬、右のこめかみまで拭いたところでようやくピクリと動いた。

「……妊娠?」

「はい」

「本当に?」

「確定じゃないですけどね。お義母様が『たぶんそうじゃない?』って」

「〜〜〜〜〜〜!」

声にならない叫びとともに抱きついてこようとして、ハタと止まった。

「え、ミューどうしよう?!どう、どうしたらいい?!抱き着きたいけど、力を込めたら駄目だよね?!」

「駄目ですね」

「どうしたらいい!」

感激を表し切れずに泣きそうになってる。

まだ泣くか?ここまでキレイにしたのに。

「ストップ」

顔の前に手を向けると、ピタリと動きが止まった。

「両腕を広げてください」

「……?」

分からないながらも言われたとおり腕を広げてる。

そこに私から飛び込んで、抱き着いた。

「はい閉じてー」

ゆっくり腕が閉じられる。

ちょうどいい力加減、ジャストフィット。

「嬉しい?」

「すごくすごく嬉しい……!ミュー、ありがとう」

「まだお医者さんに診てもらってないから、糠喜びかもしれませんよ?」

「いつ診てもらうの?僕も同席していい?」

「そう言うと思って、この期間中には頼まなかったんです。後で拗ねるから」

「すねっ…、うん、そうだね」

「お義母様が気付いたのも一昨日なんです。だから、まだ他の人には教えてません。お義母様と、その時一緒にいたメリッサだけ。一番にルゥに教えたかったの」

「うん、ありがと……」

「また泣いてる?」

「泣いてる……」

「嬉し泣きならいいのかしら」

「いいことにしてほしい……」

あとで果実水をたくさん飲ませよう。

「明日もお休みですから、午前中に診察してもらいましょう」

「僕も一緒にいたい」

「どうせそわそわしてるでしょうからね」

「もうそわそわしてる……」

「それで、もし予測が外れてて妊娠してなかったら、今回は予行練習だと思いましょう」

「予行練習……うん、そうする。次に向けて、心構えを作ったと思おう」

「今日はまだ浮かれてていいですよ」

「?」

「子どもの名前とか」

「!」

「なんて呼ばれよう、とか」

「!!」

「男の子なら何をさせよう、女の子だったら『パパのお嫁さんになる!』とか?」

男親の夢のシチュエーション、と思って提案したら、考え込まれてしまった。

「ルゥ?」

「それは……言われたら嬉しいけど、僕のお嫁さんはミューだけだし。断ったとしたら、娘の初めての失恋が僕ってことになるのか……?」

なんか斜め上の悩み方してるし。

ふふ、と、笑ったらさらに悩んだ顔をされた。

「ミューは……お義父上のお嫁さんになりたかった?」

「私がそんな可愛らしい夢を見る少女だったと、想像できるんですか?」

「だよね。良かった」

安心したらしい。

またギュ、と抱き締められ、頭に頬擦りされる。

なんか、妙な子育ての悩みが出来そうかも。

それもまた面白そうだけど、と笑いつつ、久しぶりの夫の体温を堪能した。

◇◇◇◇◇◇◇

翌日。

朝からずっとピッタリと張り付き、落ち着きのないルシウス様に私とお義母様とメリッサは苦笑していたが、皆には意外とバレなかった。

接触禁止期間の憔悴っぷりが酷かったので、その反動と思われていたらしい。

午前中にアイゼンバーグ家の主治医のおじいちゃん先生に診察を受け、公的に『懐妊』の診断を下してもらう。

案の定、ルシウス様は号泣だった。

泣いてる夫の手を引きつつ義父母の元へ歩いていると、通り過ぎる使用人たちの顔が引き攣っていた。

さすがに引かれたのかな、と思ってたが、後日聞いたところ『ルシウス様が号泣するほどの重病が発覚したのでは』と思われてたらしい。

……紛らわしくてごめん。

お義父様の執務室にお二人とも揃ってたし、セザールも控えてたので、ついでに待機してたノアとサリーとナンシーも呼んで報告した。

お義父様がティーカップを落とした。

セザールが持っていた書類をぶちまけた。

ノアが「えええええ?!」と立場も忘れ驚愕の声を上げた。

サリーが無言で喜ぶあまり、壁に拳を打ち込んでた。

ナンシーがバタン!と執務室を出ていき、遠くの方で「いよっしゃあぁぁ!」と叫ぶ声がした。

……喜び方が個性的過ぎる。

号泣する夫もその一部か、と思って見上げたら、また泣き顔で蕩けてた。

ヨシヨシ、と頭を撫でると擦り寄って来る。

各種喜びの騒ぎの中、予めご存じだったお義母様とメリッサはニコニコと平然と笑っている。

良かった、落ち着いてる人たちがいて。

そう思って安心してたのに。

「メリッサ」

「はい」

「仕立て屋を呼んで、孫娘の服を揃えてちょうだい」

「かしこまりました」

孫娘の服?!

どうやらお義母様の脳内で、孫娘のカトリーヌ3歳がスクスクと育ってしまったらしい。

「お義母様、すみませんまだ生まれてないんです…」

「備えあれば憂いはないわよ、ミュー」

「孫息子かもしれないので……」

「大丈夫よ。ミハイルの分も用意するわ」

「……ありがとうございます」

孫息子はミハイルか、そうか……。

平然と浮かれるお義母様に諦めの境地でいると、ルシウス様がようやく気づいたらしい。

「母上!勝手に名前を決めないでください!僕がこれから考えるんですから」

「何言ってるのルシウス、わたくしがどれだけ孫達の名前を考えてきたと思ってるの?長男ミハイル、長女カトリーヌ、次女はレティシアよ!」

「増えてる?!」

頑張れルシウス様。一人くらいは命名権をもぎとれ。

美味しくお茶をいただきつつ、ようやく起動したお義父様も交えた命名会議を静かに見守るのだった。

◇◇◇◇◇◇

「それでルシウス様。リタイアした罰則についてなんですけど」

「う……はい、従います……」

「私のことを『ミュー』と呼べる人を増やします」

「えぇ!」

「そんな顔してもダメです。罰則なんですから」

「うぅ、わかった。誰?」

「お義母様」

「あぁ、母上ね……まだ良いかな」

「を筆頭に」

「ひとりじゃないの?!」

「ご希望のエリーゼ様」

「うん……」

「お義父様」

「うぬ……まあ、仕方ない」

「あとヴィンセント殿下」

「なんで?!」

「ユーリ様もヒムロもミュー呼びでしたが、ヴィンセント様だけ許可してなかったので。罰則です」

「罰則だよね、そうだね……でもなんでヴィンセント様だけ?」

「私はヴィンセント様ときちんとお呼びするのに、あちらだけミュー呼ばわりじゃ不公平じゃないですか」

「不公平とかあるの?いいけど……あれ、でも王太子妃殿下は『ヴィンス様』って呼ばれてたな。愛称は許可されなかったの?」

「いいとは言われましたが、拒否しました」

「そこ拒否出来るのすごいね……。何が嫌だったの?」

「兄です」

「義兄上?」

「ヴィンス・グリフィスですから」

「あぁ……」

「私たちの間で『ヴィンス』と言えば、あの兄なんです。なので我々は『ヴィンセント殿下』とお呼びしてます」

「紛らわしくなるんだね」

「それもありますが、全員兄に思うところがあるので。『ヴィンス』と口にするだけで、何かしらの記憶が蘇って苦々しくなってしまい、ヴィンセント様に不敬になるかと」

「お義兄さんは一体何を??あ、待って、扉脇のサリーの顔が忌々しげになってる!」

「サリーの前ではやめた方がいいですよ、八つ当たり激しいんで」

「お義兄さんは本当に何をしたの?!」