作品タイトル不明
三人(プラス罰則中二人)の座談会
「と言うことで、第一回密会事件に伴う罰則付き座談会を開催しますー」
アイゼンバーグ家の誇る庭園で、ゲストをお招きしてのお茶会。
今回は『座談会』と称して招待状を出した。
揃った面子を見渡す。
「ゲストは当事者・ルシウス様の実姉、ローザリア様と」
「お招きありがとう」
「同じく当事者・わたくしミュリエルの従姉、マリアベル」
「よろしく」
「そして、座談会に口を挟むことなく立ち会うことを罰則にした、ルシウス様とノアです!」
私とマリー、ローズ様はテーブルに付き。
ルシウス様は私の後ろ、ノアはローズ様の後ろでひたすら待機、と言うのがこの事件の最終罰則だ。
接触禁止期間は今日まで。
本来ならこれも禁止のうちとして、明日開催でも良かったのだが、ルシウス様の弱り具合からして禁止が解けた途端突撃してくるのではないか、いやするだろうと言うのが大半の予測。
ならば座談会を終えたら解除しよう、とお義母様と合意に至った。
なお、あの日から数日休暇のはずだったが、とてもじゃないが休暇にならない!とルシウス様が上司の方に訴え、禁止期間後に改めて取ることにした。
「ルシウスとノア宛に、ヴィンセント殿下よりメッセージを預かってるわ。『骨は拾ってやる』だそうよ」
「わたくしも、ユーリ様より一言いただきました。『ルシウス、強く生きろ』だそうです」
そこまで拡がったことが確定した。
背後霊のように立つ二人は、深いため息をついた。
「なお、給仕役のサリーとナンシーも、あの事件の際中立ち会ってました。質問がある場合は遠慮なく聞いてください」
そう壁際の二人を紹介すると、サリーとナンシーは恭しく礼をした。
「サリー、ルシウスを威圧したんですって?強いわね」
「光栄です」
「ミューの手紙にあったけど、警棒なの?特殊警棒じゃなくて?」
「マリー、特殊警棒は王家にしか卸してないわ」
「特殊警棒?」
「打ち据えるだけでなく、ちょっとシビビっと出来る警棒です。グリフィス領にある工房で作られてます」
「まぁ、そんな武器があるのね」
「王族の方をお守りするためには、多少なりとも威力が必要ですからね。一般貴族には普通の警棒で充分です。サリーはどちらも訓練してますが」
「サリーは強いものね。昔、警棒一本で賊を制圧してたわ」
「強いのもそうだけど、サリーは止まりにくいので」
「止まりにくい?」
「スイッチオンになると、大抵過剰防衛になります。私の制止を聞くよりも、私の敵を制圧する方に集中してしまいます」
「頼もしいわ」
「敵認定も基準低いのよね。わたくしの兄たちはほぼ敵よ。ミューの嫌がることするから」
「ルシウス、命拾いしたわね」
「はい……」
「ちなみに、警棒所持及び制圧の許可はお義父様よりいただいてますので。ノアも気を付けてね」
「肝に銘じます……」
本題に入る前にルシウス様とノアの顔色が悪い。
向こうでサリーがニヒルに笑ってるわ。
「さて。皆様お忙しいことと存じますので、本日の座談会は最長三時間で区切らせていただきます。時間前に女性陣が『話し尽くした』と判断した場合も、繰り上げて閉会といたします。皆さん、悔いの残らないようにしゃべりましょう!」
◇◇◇◇◇◇◇◇
「だいたい、『理想の妹』ってなんな訳?赤の他人が妹でいて何が嬉しいの?」
「可愛くて優しくて明るくて、ちょっとドジで慕ってくれる年下女子」
「口答えしない嫁、の間違いではなくて?」
「思うに、『妹のような存在』がいる人って別に婚約者とか妻がいるんですよ。その女性とは別に親しくしてる女の子に対し、『疚しい気持ちがない』の表れとして『身内扱い』をするのでは」
「疚しい気持ちでいっぱいじゃないの。迫られたら拒否らないくせに」
「迫られるまでの言い訳ですね」
「つまり、浮気男の常套句になる訳ね」
盛り上がること一時間経過。
『妹のような存在』とは?から始まり、まだそれが終わってない。
ルシウス様が死にそうです。
「その男を『兄のように慕ってる』ていう女は、十中八九『兄のように慕ってる体で狙ってる』わよね」
「策略のひとつですからね。妹と思ってたら警戒心が湧かない、妻へも言い訳が立つよ?て誘ってる訳です」
「それ、妻には何も言い訳にならないわね」
「『あの子は妹みたいなものだからさー』とか言い放つんですかね。『みたいなもの』は妹じゃないんですけど、なんの弁解にもならないんですけど、と全ての妻は思ってるでしょうね」
実際言い放った夫が私の後ろに。
マリーが背後霊のように立つ夫を見て笑った。
「泣いてる?」
「ボロボロよ」
「でしょうね」
「ルシウス、あなたそんなに泣き虫だった?」
「ルシウス様はよく泣きますよ」
「ミューが泣かせてるのね」
「そうとも言うわ」
どんだけ泣いても、私には見えないので気にしない。
口さえ挟まなきゃ好きなだけ泣いてくれ。
「まぁ、実際に振る舞いを見て思ったんですけど。あの距離は兄妹ではないですね。と言うより、好意を抱いてない相手とはあり得ない距離」
「あら、ルシウスも好意を?」
「違う!」
咄嗟に叫んでしまったルシウス様に、壁際のサリーから威圧が飛んだ。
サリーを目で制し、ルシウス様は扇でお腹の辺りと思われるところを叩いておいた。
「言葉が足りなかったですね。〝女性からしたら〟好意を抱いてない相手とは無理、です。男性の距離感はまた違うと思うので。さすがに嫌悪を抱く人にはしないでしょうけど、そこまで深く考えないかと。でも女性からしたら、兄として見てる相手にアレはない」
自分の兄を思い浮かべて想像すると、まず自分からはあそこまで近付かない。
逆に兄からやってきたとしても、後退りして離すだろう。
「そんなに近い距離?」
「再現する?」
「ミューが再現するなら、やはりノアかしら?」
ローズ様の提案に、ノアが高速で首を振ってる。
「ローズ様、罰則の一部としてならあるかもしれませんが、再現のためにだけやるのではパワハラかつセクハラです。雇用主として失格になります」
「パワ……?」
「ルシウス様、隣へ」
後ろに声を掛けて横を示す。
膝をつき、目線を同じ高さに合わせたルシウス様はほんとにボロ泣きしてた。
これは拭いても終わらないやつだ。放っとこう。
サリーの手振りで位置を修正し、あの時の近さを再現してみせる。
「……近いわね」
「兄となんてあり得ない。その距離にいたら殴りそう」
「ルシウス様も、お姉様とはこんなに近付かないと言ってました」
「当たり前よ」
ローズ様は呆れた顔してる。少し頭を撫でて、またルシウス様を背後に立たせた。
「となると。やはり『妹のような存在』=妹と同じ扱い、とはならないようね。そこのところ、二人の関係を見てきた実の兄はどう捉えてたのかしらねぇ?」
含みを持たせた視線で、マリーがノアを見た。
私もそちらに視線を向ける。
ものすっごく、青褪めてた。
「自分の妹が、自分の主人を『兄のように』慕ってるのを見てた訳でしょう?自分も同じように慕われてたのかしら」
「そこは否定してました」
「そうよね。それなら妹の言ってる『兄のように』が都合のいい言い訳だとわかるはず。それを放置してるって、従者としてどうなのよ?」
「どうって、失格でしょう?例え妹だろうと、主人に仇なす女を近付けてる時点で役立たずか裏切り者のどちらかだわ」
「役立たずだとしたら危機管理能力の欠如か不足、裏切り者だったら美人局でしょうか?」
「美人局くらいならまだマシじゃない?妹を使って裏から公爵家を操る算段なんかもあったかもしれないわ」
「アイゼンバーグ家、危機一髪!ですね」
「まぁそこは、ルシウスがミュー以外に堕ちる可能性を考慮しないといけないんだけど」
「そこの計算を抜かして計画してたなら、役立たずと裏切り者のコラボですね」
「こらぼ?」
「全部載せ、てことです。まあ、裏切り者はないですけどね。ものすごく妹さんに怒ってたので。だから危機管理能力不足一択、もう少し突っ込めば『想像力の欠如』です」
「想像力?」
私は紅茶を飲み、喉を潤した。
「それぞれの属性を取っ払って二人の姿を客観的に見た場合、どう見られるかという想像力ですね。昔からの知り合いだとか、お互いが仮に兄妹のように本気で思ってたとしても、そんなの他の人たちにはわからないじゃないですか。そしてそれを見守る兄としての自分が謀ってるように見られるのも、ちょっと考えればわかることなのに」
私の意見に、ローズ様が頷いた。
「それで言うと、ルシウスにも想像力が足りないわね。妻以外の女性をそこまで近付けたりして、ミューが平気でいるとでも?自分は夜会のダンスですら嫌がるくせに」
「あっちの方がまだ正当性ありますよね。それは駄目なのに同じソファに座るのはありとか、ちょっと意味が分からないわ」
「そうなのよね。浮気どうこうはともかく、しばらくの間二人でソファに座って寄り添ってたのは紛れもない事実で。腹立ったから、私も他の男性と同じ時間分寄り添うのを見せつける罰則にしようかとも思ったんだけど」
「っっ?!」
後ろで声にならない悲鳴が上がる。
挟まない約束、と言うより本気で声にならなかったようだ。
ローズ様は面白そうに笑う。
「あらいいじゃない。今からでもそれにしたら?……ルシウス、目線がうるさいわ」
「それが、人選が全く出来なくて。ノアはもう一回やったので、体が拒否してソファには座れないです。お義父様やセザールだと、寄り添ってもたぶんほのぼのします。父や兄でも。従兄弟たちはサリーが寄せ付けません」
「敵認定されてるものね」
「となると、私の選べる範囲に残るのが王族のみとなってしまうんです。三兄弟を対象として。ユーリ様だと、あの人は本気で私を『妹のような存在』として扱います。女性ではなく、弟の女性版です。十中八九の残りの一がユーリ様です。そしてヒムロはまず座ってくれません」
「ひー君は無理ね……」
「最後に残るのがヴィンセント様です。消去法で王太子ってのどうかと思うんですが」
「まず選択肢に入ってる時点ですごいわ」
「王太子妃殿下からは『良いよー、これぐらいしか役に立たないんだからバンバン使って!』と許可をいただきましたが、肝心のヴィンセント様本人から断られました。曰く、『そんなことしたらルシウスからの本気の拳を鼻に食らう』だそうです。ついでに隣に控えてたリニ様にも打診しましたが、同じ理由で拒否られました」
見せつける刑の執行に至らなかった経緯を語ってると、後ろのルシウス様がフラッと頽れた。
「ルシウス様?!」
「平気……安心したら、力が抜けただけ……」
慌てて振り向くと、ルシウス様が四つん這いになってた。
これはドクターストップかな。
ナンシーに目をやると、頷いて待機の騎士に声を掛けてきた。
騎士が二人、私達の前で一礼するとルシウス様を運んで行った。
やっぱ保たなかったな。
「あの子、体調でも悪かったの?」
「というか、あの日以来食事も睡眠も不足しがちだったみたいです。医師には常に見てもらってたんですけど、どうやら寂しいらしく」
「ウサギなの?」
「ウサギよりか弱いわ」
そしてウサギより可愛い夫だ。
気を取り直して、一人に減った標的に笑みを向ける。
「ノア、ルシウス様は途中退場してしまったわ。なので他の罰もつけるの。ノア、あなたはどうする?」
「……このまま、続けます。よろしくお願いします」
深々と頭を下げた。マリーの視線が『少し見直した』と言ってる。
ノア、名誉挽回の機会だから頑張ってね!