作品タイトル不明
テンプレートな幼馴染をお持ちでした
「み、ミュー?まだ怒ってる?本当になんでもないんだよ??」
自分の言いたいことを言えたら、少し落ち着いたらしい。
こちらを伺いながらも話し掛けてきた。
サリーが動きそうだったので、視線で抑えとく。
妹のような存在、ねえ。
のような、どころか実妹を睨んでるノアに目を向けると、こちらに気付き片膝をついて頭を垂れた。
「全て私の監督不行届です。いかなる罰も受けます」
「ノア?!」
「兄さん?!」
当事者、喧しい。当然の詫びじゃないの。
だけど、ひとまず今は罰を与えるのは保留にする。
ノアをそのままにし、ルシウス様たちの座るソファの向かいに腰を下ろす。
サリーとナンシーが後ろに立ち、当事者達を威圧してる。
「ミュー、あの」
「妹のような存在、て単語、不思議よねえ。ねぇルシウス様、あなた妹さんいらっしゃらないわよね?」
「え?うん、いないけど」
「じゃあ『妹のような存在』って何?」
「なに、て……」
まだわかってないらしい。
「彼女が年下だから『妹のような』って言うのよね?年上だったら『姉のような』と言うのかしら。ルシウス様、あなた実姉のローザリア様にも彼女と同じように寄り添うの??」
硬直してる。そうでしょうとも。
ものすごい兄妹愛でもない限り、あの距離では寄り添わないものだ。
自分も妹の身であるから思うけど、兄にあんな寄り添われ方したら気持ち悪い。
あと、実妹と同じ扱いを他人にしたら、大体失礼にあたると思う。
身内ならではの気安さは家庭の外では通用しないだろう。
「妹のような、て身内扱いってことでしょう?姉も妹も生まれた順番しか違いはないんだし。ルシウス様ってば、お義姉様に対して随分と甘えん坊なのねぇ」
「……………しないです、ごめんなさい」
「あら、しないの?それじゃあ『妹のような』は間違いね。ただの他人と寄り添ってたのね」
「寄り添うって言うか、その……」
「ノア。ちょっと来なさい」
片膝をついたままのノアを呼び、扇で隣の席を示す。
今度はノアが硬直した
「若奥様、あの」
「罰の先取りよノア。従いなさい」
貴族スマイルで命令すると、ギクシャクと歩み寄りギクシャクと座った。
すごい、背中に定規が入ってるみたいにピンとしてる。
そこからは動きそうにないので、自分で距離を詰めてノアにくっついた。
「ミュー!やめて!」
ルシウス様が悲痛な声を上げて立ち上がる。
ノアはガチガチだ。そりゃそうだ。主人の奥様にここまで寄り添うことなんてある訳ない。
「サリー、さっきはこれくらいだった?」
「もう少し内側かと」
「若奥様、勘弁してください!」
サリーのアドバイスを聞いた途端、ノアがパッと立ち上がって土下座した。
それを見て今度は妹さんが立ち上がる。
「兄さん!ルシウス様の奥様と浮気してるの?!」
ノアとルシウス様、再び凍り付く。
私は扇を開いて妹さんに笑顔を向けた。
「先程目撃した二人の寄り添い方を再現したのよ?それで貴女が浮気と判断されるなら、お二人も浮気してたと言うことね。違う?」
凍りついたままだったルシウス様が、その場で土下座した。
「ミュー!ごめんなさい!浮気はしてない、でもごめんなさい!」
応接室内、六人中三人が立ってて二人が土下座。
うむ、シュール。
「何を謝罪なさってるの?ルシウス様」
「い、嫌な気持ちにさせてごめん。あと、僕が分かってなくてごめん……」
うん、やっと分かったか。
ルシウス様が浮気するなんてこれっぽっちも思ってないけど、不快なものは不快だ。
そして、幼馴染だろうが成人した男女である以上、浮気に見えたらアウトなんだってことを理解してないのは、跡継ぎとして不足だ。
「油断し過ぎです」
「はい……」
「このことが外に漏れたら、ルシウス様は結婚半年で愛人を家に引き込むクズ、わたくしは早々に浮気された嫁と噂されます。そうなったらすぐさま撤収しますよ」
撤収、の言葉にガバっと頭を上げた。
「撤収?!」
「離縁して実家に帰ります。残っててもいいことないし」
「嫌だ!」
「こっちがヤですー」
ツンとしてそっぽを向く。
ついに涙腺が決壊したルシウス様は、泣きながら私の足にすがりついた。
「なんでもするから捨てないで!」
「離縁」
「しない!」
「別居」
「嫌だ!」
「じゃあわたくしも火遊びしてきます」
「ダメーーー!」
なんでもしてないし。
涙がドレスに染みるなぁ……。
後ろを振り仰ぐと、サリーもナンシーも呆れ顔になってた。
氷点下よりはマシかな。
「……やっぱり」
私達のやり取りに、妹さんが呟いた。
「やっぱり!ルシウス様、奥様に 洗(・) 脳(・) されてるのね?!許せないわ!」
はい?
キョトンとしてしまう。
私の膝で泣いてたルシウス様も、ちょっと泣き止んで彼女を見た。
「洗脳?」
「だっておかしいじゃない!ルシウス様がそんな風になるなんて、今まで見たことなかったもの!みんなには冷たくて、 私(・) に(・) だ(・) け(・) 優しかったのに!」
「ミア!」
土下座していたノアが妹さんに掴みかかる。
「お前、誰に対して物言ってんだ!公爵家の奥様だぞ!?」
「兄さんだって知ってるでしょ?!ルシウス様は私にだけ優しかったって、私だけが特別なんだって!」
兄妹の言い合いに、私達はポカンとしてしまった。
呆然としているルシウス様の頬に涙が溢れたので、条件反射で拭う。
そのことに気付いたルシウス様が、こちらを見て嬉しそうな顔をした。
「……ルシウス様」
「うん」
「彼女、〝特別〟なんですか?」
「特別……いや、ノアの妹だから気負いなく話せるのと、昔から知ってるって意味ではそうかもしれないけど」
ルシウス様も困ってる。
まあ他の女性たちとは付き合い自体がない訳だし、そういう点では『特別』と見てもいいのかしら?
「ノアの妹、と言う点で特別なら、私の従姉であるマリーは?」
「あぁ、同じ立ち位置かも」
パァっと顔が晴れた。
身内とも違う、他の女性とも違う、少し特殊な分類にいたのが一人だっただけ。そういう『特別』である、と位置付け出来たので納得したのだろう。
頬を撫でた私の手に、自ら擦り寄ってる。
「……僕の『特別』は、ミューだけ」
「知ってます」
「だから捨てないで……」
「さぁどうしましょう?」
「お願い……」
また涙ぐんでるし。スリスリしてくるし。
「お義母様と相談します」
「母上……どうしよう、本格的に捨てられるかも」
「ルシウス様ならすぐ拾われますよ」
「ミューがいい……」
人の膝の上でメソメソしてる次期公爵、なんだかなぁ。
そうこうしてるうちに、ノアたちの兄妹喧嘩はますますヒートアップしてる。
「あの姿を見ろよ!こんな修羅場でもイチャイチャしてるんだぞ、お前の入る隙間なんてないだろうが!」
「だから、ルシウス様は洗脳されてるのよ!解放されれば元に戻るわ!」
「なんだよ洗脳って……」
ついにノアが匙を投げた。
うん、本当に何だ、洗脳って。
どうやるの?
言い合いの隙間で、聞きたいことを聞くことにした。
「ノアの妹さん。そもそも、あなたどうしてここに?」
ビク、と体を震わす。
私のことはまだ怖いらしい。
ノアに目線を向けると、彼は少し目を逸らしがちで答えた。
「……元々、領地のアイゼンバーグ邸でメイドとして働いていたんです。こちらの人手を募集したのに乗じて来たそうです」
「ノアは知ってたの?」
「募集されてて、こちらに来たいということは聞いてましたが、俺は反対してました。見てわかるとおり、幼馴染としての振る舞いが抜けなかったので」
「そう」
ルシウス様は入学前まで領地で過ごしてた。
その頃の幼馴染なんだろう。
疑問が解消されて、私はニッコリ笑った。
「振る舞いが改善されないにも関わらず、この屋敷に来てルシウス様と二人っきりになったの。シルクエン子爵家は、主たるルシウス様を 籠(・) 絡(・) しようと謀ったのかしら?」