作品タイトル不明
新たなる年の夜明け
皇都を、新年最初の陽光が照らしだした。
今日から年があらたまり、新たな一年が始まる。
時間と運命を司る神の神殿から、新年初の日の出を告げる鐘が厳かに鳴り響いた。雪化粧の街並みが、まぶしいほどに輝いている。
皇都は、まだ静けさの中。
その中心にそびえる皇城は、数多い尖塔に青い旗を掲げて、淡い冬の空に彩りを添えていた。その姿はいつもにも増して、絵のように美しい。
しかし皇都のそこここで、慌ただしく動き出す人々がいた。
年の始まりは、皇国の貴族たちが最も多く皇城に集う日。
新年祝賀会のために、貴族たちが装いをこらして、皇城へ向かおうとしていた。
「お待たせいたしました」
玄関ホールで待っているアレクセイにそう声を掛け、ドレスの裳裾を引いてエカテリーナがしずしずと階段を降りてゆくと、こちらを見上げたアレクセイのネオンブルーの瞳に賛嘆の色が浮かんだ。
「私の夜の女王」
久しぶりにそう呼びかけて、アレクセイは微笑む。
「夜でありながら、まさに光だ……今のお前は、陽光よりも絢爛たる輝きを身に纏いながら、全てを包み癒やす夜の慈愛と神秘を兼ね備えている。我が妹エカテリーナ、月よりも星よりも太陽よりも、お前こそが美しい」
「お兄様ったら」
いつもの言葉を返して、エカテリーナはにっこり笑った。
新年初シスコンですね!明けましておめでとうございます。
私も、今年もブラコン頑張ります。お兄様のシスコンに負けないように!
うむ、書き初めとして心に貼っておこう。
早速、新春初ボケをかますエカテリーナである。少し緊張しているので、若干テンションがおかしいかもしれない。
しかしアレクセイの言葉は、シスコンの発露であるのは間違いないとはいえ、今日のエカテリーナの装いを確かに言い表している。
皇国の貴族たちが集う新年祝賀会のためにあつらえたエカテリーナのドレスは、いつもの『天上の青』をあしらいながらも圧倒的に金色が輝く、エカテリーナ史上最も豪奢なものになっていた。
通常は青が高貴な色とされる皇国だが、新年を祝う際には、太陽の色である黄色を身に着ける風習がある。
そして、皇国の全土から貴族たちが集う新年祝賀会では、三大公爵家は皇室の同族として、貴族たちに対して一族の威信を示す立場だ。
ゆえに皇室と公爵家の女性たちは代々、富と権勢のほどを明らかにするような、黄金をふんだんにあしらった衣装で新年祝賀会に臨んできたのだそうだ。
それを知って、めっちゃ燃えました。デザイナーのカミラさんが。
『お嬢様は新年祝賀会で初めて貴族の皆様の前にお出ましになるのですから、お嬢様のお美しさと高貴なご身分を、しっかりと知らしめなければ!』
と言いつつ、いつも私がなるべくシンプルにとか富を見せびらかすのは控えたいと要望するせいであまりできない、きらびやかなデザインがやり放題!という内心ががっつり見えてましたが。
カミラさんのセンスは最高なので、ありがたくお任せしました。
そしたらカミラさんが、ハリルさんを召喚しました。『天上の青』のプロモーションで、かなり親しくなっていたようです。
そしてハリルさんは、森林農業長のフォルリさんを召喚しました。フォルリさんは、ユールノヴァ領内で産出する稀少素材で織った布と共にやってきてくれたそうです。
その稀少素材は、「金羊毛」。
ユールノヴァでは、変わり種の羊や牛がよく生まれる。魔獣の血が入るためだそうで、すごいツノとか生えて武闘派になってしまう場合もあるが、全く病気をしなくなるとか、羊毛がほのかに光るとか牛乳に薬効が生まれるとか、いい変化が生じる場合もある。
「金羊毛」はその最たるもので、ほのかに光る 金色(こんじき) の毛をもつ羊が、ごくまれに生まれてくるのだそうです。しかもこの羊毛、とても軽い。織ってもふんわり軽い生地になる、超優良素材。
金羊毛の羊が複数生まれることはほぼなく、一頭しかいないその羊から衣装一着分の羊毛がとれるまでに、五~六年はかかる。他所へ流通することはない、ユールノヴァ公爵家だけが用いることのできる素材。
ユールノヴァ公爵家は代々、新年祝賀会の衣装にその羊毛を使用してきたそうで……。伝統と格式の素材ですよ。
ただし、今回はその素材がわりと豊富にあったそうです。なぜなら、祖母アレクサンドラが金羊毛のドレスを身に着けようとせず、皇室伝統の別の素材でドレスを作らせ続けたから。
まあ、普通の 羊毛(ウール) はこの時代で最も一般的な素材で、庶民が普通に着るものですからね。皇女たるわたくしがそのような下賤なものを身に着けるなどあり得ない!とか言うでしょうよ、アレは。
羊毛(ウール) 素材のドレス、温かいのにねえ。新年の衣装がこれなのは、ありがたいです。
なお、金羊毛を私の衣装用に織らせて準備してくれていたのは、ユールノヴァ領の本邸の執事となったライーサさんでした。金地に金で薔薇が浮かび上がる、ユールノヴァ公爵家伝統の織物。惚れ惚れするほど美しいです、ありがとうございます。
この稀少素材の織物をカミラさんは本当に贅沢に使って、長く裳裾を引く上に袖はエンジェルスリーブ(天使袖)と呼ばれる肘から先が大きく広がった、中世テイストがある古風なデザインに仕上げてくれました。
そして胸元やエンジェルスリーブからのぞく肘から手首までの袖は別布で、『天上の青』の宵闇色のベルベット。
その宵闇色の胸元には金糸で大きく黄金の薔薇の刺繍がされていて、そこにダイヤモンドとサファイヤがちりばめられてキラッキラしております。
袖にも薔薇の刺繍が施され、袖口にはびっしりダイヤモンドが縫い付けられていますよ。キラッキラです。
おまけに襟元や天使袖の袖口は、 星月狐(せいげつこ) の毛皮で縁取りがされています。正装感が爆上がり、格式高い。
さらにアクセサリーとして、アレクセイから誕生日祝いに貰ったブルーダイヤモンド(確定済)のイヤリングを着けている。
無料広告塔として皇都のファッション界に宝石ブームを起こす狙いがあるとはいえ……今の私、総額、おいくらなんでしょうか!
「今日のお前は、黄金の薔薇だ。その衣装は、ユールノヴァの女主人たるお前の威厳を引き立てている。お前をいっそう輝かせているよ」
「お兄様のお眼鏡に適って、嬉しゅうございます」
兄に褒められたとたん、総額への懸念をお空に放り投げるエカテリーナである。
「お兄様もたいそう素敵ですわ。ユールノヴァ公爵にふさわしいお姿でございます」
華美を好まないアレクセイだが、この新年祝賀会では三大公爵家の責務として、金羊毛を織った生地で仕立て華麗な金の 飾緒(モール) や 房飾り(タッセル) そして宝石で飾られた上衣を着用している。その上に、豪華な白銀の毛皮の肩掛けがついたマントを羽織っていた。毛先が氷の結晶のようにきらめく毛皮は、アレクセイ自身が仕留めた氷狼のものだ。
上衣の下にのぞくベストは、『天上の青』の宵闇色。そこに金糸で薔薇が刺繍されているところが、エカテリーナの衣装と響き合っている。
お兄様ほどイケメンでスタイル良くて高身長な美丈夫が身に着ければ、着こなせないものはないですけどね。
でもこれはすっごくお似合いです。素敵!
「行こう」
アレクセイが、エスコートの手をエカテリーナに差し伸べる。
「お前の美しさは、諸侯らをたちまち征服するだろう。我ら一族に彼らが従い、皇国の平和が完成する。今日を平和の記念日とするために、彼らに姿を見せてやりなさい」
「お兄様ったら」
二度目のこの言葉を笑顔で言いつつ、エカテリーナはアレクセイの手に己の手をゆだねた。
……今日これから、皇城に三大公爵家が集い、ユールノヴァとユールマグナが間近に居並ぶことになる。
それをプレッシャーに感じるまいと、エカテリーナは背筋を伸ばした。
恐れるものはなにもない。
お兄様が一緒に居てくれるのだから。