軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

お披露目

緑茶を楽しみながら、大使夫人たちはそれぞれ話に花を咲かせていた。

彼女たちのメインの目的はマグダレーナ皇后との交流、皇国との外交に違いないが、お互い同士の交流もまたれっきとした外交なのだ。マグダレーナは主に、席が近い大国の夫人たちと語り合っているが、それとは別に隣同士で熱心に、また楽しげに、夫人たちは話し合っている。

エカテリーナはやはり控えめに、それに耳を傾けるだけに徹していたのだが、その場にいるだけで楽しかった。

歴女として。

ここにいるのは大使『夫人』たちであって、このお茶会も公式な外交ではないんだよね。公式記録では、外交を担っているのはあくまで彼女たちの夫である大使。

でも、こういう『女たちの外交』もまた、記録には残らない裏側で歴史を動かしてきたんだろうなあ。

前世でも、ソフト外交とかソフトパワーという言葉を聞いたことがあったけど、こういう集いはまさにそういうものだよね。

……と言いつつ、どうも夫の愚痴で盛り上がっている夫人たちもいるような。

それぞれ国が異なるとはいえ母国を離れて異国の地で奮闘している、同じ立場の女性たちなわけで、ある意味一番わかり合える者同士なんだろうな。でも国同士の利害関係を背負った者同士で……。

うーん、すごく複雑な人間模様が目の前に展開されているのかも。

などと考えているエカテリーナに、ラジャ夫人が声をかけてくれた。

「ユールノヴァ様のお召し物は素敵ですわね。そのように美しい青は、今までなかなかありませんでしたわ」

「まあ、ありがとう存じます」

もちろんエカテリーナは、今日も『天上の青』のドレスをまとっている。ガラスペンだけでなくこちらも、大使夫人を通じての他国展開に繋がればと、宵闇色とアイスブルーを組み合わせた、色で魅せるデザインをチョイスした。

とはいえ、がっついてはいけない。

「ですけれど、ラジャ様のお召し物には及びませんわ。そのように鮮やかなお色を組み合わせて着こなせる方、初めて拝見いたしました。素晴らしいセンスでいらっしゃいますこと」

「恐れ入ります」

人を褒める時はいつも全力のエカテリーナだ。社交辞令には慣れているに違いないラジャ夫人も、くすぐったそうな表情になった。

「ディンブレネアには、七色の羽を持つ鳥人の種族がおりまして、染色をたいそう得意としているのです」

「まあ……」

七色の羽を持つ鳥人……なんてファンタジー。

と言いつつ、染色が得意な職人一族とは。なぜ鳥人が染色?自分たちの羽を染めて、もっといい色にするために発達したとか?

しかし自国でそういう特産があるなら、『天上の青』にニーズはないかしら。

「ですが生産する量が少なく、高価なのです。皇都の社交界で流行の『天上の青』は、美しい上に多くの方が楽しめるようですね」

キター!

しかし、ここでむきつけに商売の話をしてはいけない。そう、ハリルさんから教わった。

「あなた様でしたら、さぞ美しく着こなしてくださることでしょう。よろしければ、『天上の青』の生地をお贈りしとうございます。いかがかしら」

「嬉しいことです。夫も喜びますわ」

よし。

夫、すなわち外交公式。そこに『天上の青』を繋げることができれば、まずはとっかかりになるはず。

ディンブレネアは、小国ながら富裕で文化的なお国柄と教わった。その先は、きっとハリルさんが開拓してくれるだろう。イイ笑顔で。

と、思ったところへ。

「あら、なんだか素敵なお話をされていますのね」

横からそんな声がかかった。

メタリックパープルの髪を高々と結い上げた夫人が、目をキラキラさせてこちらを見ている。

おお……『天上の青』に興味を示してくれたのか、お得な生地無料提供への反応なのか。

ともあれ、好意的な反応ありがたい!

「あなた様こそ素敵ですわ。『天上の青』、ぜひお使いくださいまし。きっとお似合いになりましてよ」

「嬉しいお言葉ですわ。どうぞこれから、仲良くお付き合いさせてくださいませ」

言葉と一緒に向けられた流し目に、エカテリーナは惚れ惚れした。髪型があまりに印象強いが、大きなアーモンド型の目も魅力的だ。

他にも乗っかってくる夫人が数名いて、エカテリーナはほくほくする。

隣でそんな様子を見守っていたマグダレーナが、夫人たちを見渡した。

「それでは、わたくしのガラスペンをお披露目しようかしら」

ガラスペンが入った箱は、侍従がうやうやしく押すワゴンに載って登場した。絹の敷布に載せられ、周囲には花が飾られている。貴重な冬の花だ。

さすがロイヤル、演出はバッチリだとエカテリーナは思う。

なおそのワゴンには、エカテリーナが持参した青薔薇のブレスレットが納められた箱も載せられていた。

ガラスペンの箱を無造作に手に取ったマグダレーナが、箱を開いてペンを夫人たちに示すと、一斉に感嘆の声が上がる。

「なんて美しいのでしょう……!」

「まるで宝石ですわ」

「見た目だけでなく、筆記具としても優れているそうですわね」

皇后の歓心を買いたいだけではなさそうな声が、次々にあがる。マグダレーナが実際にペンを使って書いてみせると、欲しいわ……という思わず漏れたような呟きが聞こえた。

大使夫人は本国などに手紙を書くことが多いに違いない。良い筆記具が欲しい思いは、切実なのだろう。

よっしゃガラスペンの宣伝バッチリ!とエカテリーナは内心で拳を握る。

まるでその拳が見えたかのように、マグダレーナが言った。

「皆様もご存じの通り、ガラスペンはここにいるエカテリーナが作らせたものですのよ」

夫人たちの視線が、一斉にエカテリーナに集まる。

ビビりそうになるのをこらえて、エカテリーナは微笑みを返した。

「最初は、アレクセイへの誕生祝いとして思いついたそうね」

「はい、左様にございます。良い職人に巡り会えたおかげで、わたくしの想像を超えた作品が生まれましたの」

最初は本当に小さな思いつきだったんだよねえ……それが今やこんなことに。

それもこれも、レフ君の才能が凄すぎるせいですね。

「その職人の才能、皆様にご覧いただいて」

マグダレーナにうながされて、エカテリーナも持参した青薔薇のブレスレットを披露した。

箱を開いてブレスレットを取り出すと、夫人たちは揃って息を呑む。

「なんという……本物の薔薇と見まごう精緻さですわ」

「この色が素晴らしいですわ、きらめくような青……!」

「この大輪の青薔薇を身に飾るのは、さぞ素敵なことでしょう。皇后陛下のガラスペンもこちらも、同じ職人が手掛けましたのね。確かにたいそう腕の良い者に違いありませんわ」

反応が大きいのは、ガラスペンよりもブレスレットのほうが大きくて見えやすいし、やはりアクセサリーのほうがいろいろ滾るせいだろう。エカテリーナがブレスレットを身につけて見せると、ため息のような声が上がった。

「わたくしの兄ドミトリーもその職人を気に入って、 巨匠(マエストロ) と呼んでおりますのよ。最近の作品、等身大のガラスの女神像がたいそう美しかったそうですわ」

マグダレーナの言葉は、何かのとどめになった感があった。こういうものを欲しいと思う気持ちに、どうやら無理と諦めがついてしまったような。

よし、ここだ。

エカテリーナは、軽く咳払いする。

そして、にこやかに言った。

「実は、ガラスペンを制作できる職人は他にもおりますの。わたくしのガラス工房には腕の良い職人が揃っておりまして、今では皆ガラスペンの制作方法を身につけておりますのよ。それぞれ、得意な形や意匠がございますの。ご興味がおありでしたら、その職人たちの作品をご覧になれるよう、手配させていただきますわ」

夫人たちの目が、『爛』と光ったような気がした。