軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

音楽の夕べ(終わり)

まだ鳴り止まない拍手の中、マリーナがオリガに駆け寄って抱きついた。

「素晴らしかったですわ、オリガ様!これほどの才能をお持ちだったなんて!」

仲のいい二人だから、我慢できなかったのだろう。仲がいいというか、クラスの人気者マリーナがおとなしいオリガを保護しているような関係のようだが、それだけに嬉しい驚きだったようだ。

エカテリーナもオリガに駆け寄りたくなったが、いかんいかん、と自制した。マリーナに続いて自分がそれをやってしまうと、聴衆がオリガに殺到してしまいそうな群集心理を感じたので。

代わりに、エカテリーナはパンパン!と手を叩いて注意を引き付けた。

「本当に素晴らしい歌唱に、すっかり聞き惚れてしまいましたわ。皆様、我がクラスの歌姫、オリガ・フルールス様にもう一度盛大な拍手をお贈りくださいまし!」

もちろん大きな拍手が起きて、オリガは傍らのマリーナに促され、恥ずかしそうに一礼した。

あ、そうだ。

「そしてもうお一方、本日の最大の功労者に拍手を」

エカテリーナの言葉に聴衆は、え、誰?という雰囲気になる。

「この音楽の夕べは、マリーナ・クルイモフ様のご発案により始まりましたの。マリーナ様のお言葉がなければ、この素敵なひとときを味わうことはできなかったのですわ。どうか皆様、マリーナ様へ拍手を!」

謎が解けた聴衆からは、やはり温かく盛大な拍手が起きた。

言われたマリーナは一番驚いていたが、そこは有力伯爵家の令嬢。母親直伝の『猫瞬間五枚かぶり』を発揮して、なかなか優雅に淑女の礼をとる。

「本日の演目は、すべて終了いたしました。お越しくださった皆様、ありがとう存じますわ。クラスの皆様、学園からお借りした音楽室、綺麗に元通りにしてお返しいたしましょうね。すべての皆様のおかげで、本当に楽しいひとときでしたわ。心より御礼申し上げます!」

エカテリーナの仕切りに、もう一度拍手が起きた。

なんとも温かい拍手だった。

というわけで、撤収準備。

エカテリーナは椅子とか片付ける気満々だったのだが、フローラと一緒に近寄っただけで「いやそれは僕が!」と男子に持ち去られてしまった。

前世からの働き者としては物足りない気分だが、それならそれでオリガに祝意を伝えよう、と思って振り返ったのだが。

オリガは、レナートに独占されていた。

「――僕もあの歌を、 黒蝶琴(こくちょうきん) の伴奏で聞いたことはあったんだ。でも、君が歌ったあれは、まるで違った。独特の味わいを残しながら、今の時代に合わせて新しく生まれ変わっていて……本当に素晴らしかった」

「あれは、おばあちゃんから教わっただけなんです……」

勢い込んで話すレナートに、恥ずかしそうに答えているオリガは、顔を赤らめて嬉しそうだ。

オリガとレナートは、以前からセレズノア家の臣下同士ということで付き合いがあったはずだが、レナートは今夜初めてオリガの歌声を聞いたのだろう。それで、ころりと態度を変えたと思われる。

レナートは音楽馬鹿というか、彼にとって音楽が一番価値があるがゆえに、音楽に秀でた者を無条件で尊重し、その他をその他大勢扱いしてしまうのだろう。

スタンディングオベーションをもらった二人だから、声をかけたそうにしている人々が周囲にいるが、レナートは気付いてもいないようだ。

そんな二人の側では、マリーナが兄ニコライに頭をグリグリされている。マリーナがオリガに駆け寄ったのが、聴衆がオリガに殺到する呼び水になってしまいかねなかったのを怒られているらしい。マリーナはキーキー言っているが、仲良し兄妹のじゃれ合いだ。

そんな光景を見て微笑ましい気持ちになったエカテリーナだったが、自分のことはわかっていないのはいつも通りと言うべきか。

自分もスタンディングオベーションをもらった身であることを、忘れていたのである。

「エカテリーナ様、片付けは終わりました」

「まあ、ありがとう存じますわ」

クラスメイトの女子が声をかけてくれて、エカテリーナは笑顔で礼を言う。

その時には、周囲を取り巻かれていた。

「あらためて、お二人が最初にお歌いになった歌は、たいそう素敵でしたわ」

「本当に。わたくしも歌ってみたいのですけど、歌詞をお教えいただけません?」

「作曲をたしなんでおられるのかしら。他の曲も聴いてみたいですわ!」

ひ、ひえー!

最初に報告を受けていたこの状況では、身分の低い側から話しかけてはいけないというマナーは無効になっている。そもそも学園では、そういうマナーはゆるくなりがちなようだ。一斉に話しかけられて、エカテリーナもフローラもたじたじになっている。特にエカテリーナは、前世の世界的大ヒット曲をどういう扱いにすればいいのかという悩みがあるせいで、あわあわしてしまった。

が。

周囲を取り巻いていたクラスメイトたちが、さっと顔色を変えると一斉に身を引く。

モーセの前の紅海のごとくに割れた空間に、現れたのはもちろんアレクセイだ。

気配だけで引かせる……なんという上級対応。さすがお兄様。

わーいお兄様が助けに来てくれた!

「エカテリーナ」

「お兄様!」

エカテリーナは兄の腕の中に飛び込んだ。

「素晴らしい会だった。お前が手掛けるものは、すべてが輝いてしまうようだ」

さすがシスコンお兄様。今日もシスコンフィルターがパワフルです。

「皆様の技量ゆえですわ。わたくしも本当に楽しゅうございました」

「ああ、私はあまり芸術を解さない人間だが、今夜は技量のほどに驚いた。だが彼らが力を発揮することができたのは、お前の影響だよ。お前の気高く温かい心は、他者の能力を引き出す導きになるようだ」

「お兄様ったら」

レナート君はもともと神童だし、オリガちゃんだって本人の力量なので。私は無関係です。

「だが私にとっては、お前の歌声こそが最上だったよ、私の妙音鳥。お前の歌声の美しさは、私の心を愛と幸福で満たしてくれる。なんと幸せなひとときだったことか」

聴覚装備のシスコンフィルターも絶好調です。

「お兄様に楽しんでいただけたなら、わたくし、何より嬉しゅうございます」

仕事を離れて音楽鑑賞で楽しんでもらえたんだもの、過労死フラグ対策的に、かなり良かったかも。

お兄様のためになるなら、これからも音楽イベントやってみようかしら。楽しかったし!

そんな風に、イベント大成功にうきうきのまま寮に帰り、ベッドに入ったエカテリーナだったが。

どういうわけかそのタイミングで、レナートについてもやっとしていたことを思い出して、飛び起きた。

思い出した!配信で人気者ってことで引っ掛かったの、乙女ゲームの声優さんの一人だ!

お兄様が攻略できないか調べた時、声優さんの一人が歌手としても人気があって、配信している曲の再生回数がすごいっていう記事を、ちらっとネットで見たような。

でもって、その声優さんが声を当てていたキャラ、多分、レナート君だよ!だって、「音楽に秀でたキャラ」だからその声優さんを起用した、って話だったもん!

ぎゃー!

同じクラスに攻略対象者がいたー!