軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

真相についてのシンキングタイム

悪役令嬢エカテリーナの罪は、ヒロインを殺害しようとしたことだった。人を雇って殺させようとしたんだから、罪名としては殺人教唆かな。

公爵令嬢だろうと、殺人教唆は重罪。まあ身分制社会のアレなところで、相手が平民ならば、罪というほどの罪にはならないと思われる。けれど、平民出身とはいえフローラちゃんは今は男爵令嬢で、れっきとした貴族。

公爵令嬢と男爵令嬢という身分差はあれど、貴族を殺害しようとすればさすがに罪に問われる。

そういえば前世でも、若返りのために女性を惨殺しその血を浴びるという残虐行為で血の伯爵夫人と呼ばれたバートリ・エルジェーベトは、平民の女性をどれだけ手にかけても放置されたのに、貴族の女性を殺害したことで罪に問われたのだったはず。

皇国も、そのへんの価値観は近いのだろう。

特に今は、魔法学園で机を並べる学友同士。学園内では身分に関係なく、平等に勉学に励むべしというのが建前で、どんな身分でも問題を起こした時の処分は同じ、ということになっている。まあ、裏ではいろいろあるのだろうけど、公式にはね。

それに、証拠を掴んで罪を問うてきたのは皇子で、公爵家の上をいく身分の相手だった。

ただ、これもおかしいんだよね。

お兄様はすでに公爵。対して皇子は皇位継承者とはいえ、今現在は私やお兄様を裁く権限なんて持っていない。なのにゲームでは、皇子が勝手に、処分を決めてしまっていた。

そしてお兄様は、そんなおかしなことには冷静に容赦なく反論するはずのお兄様は、何も言わずに妹を抱きしめているだけだった……。

だからやっぱりあれはゲームクリエイターの創作、乙女ゲームにありがちな悪役令嬢の末路を組み込んだだけなのかもしれないけど。

でも……。

男爵令嬢殺害を指示した公爵令嬢に下される罰として、一番考えられるものは。

……幽閉、なんだよね。

そこはやはり身分制社会で、公爵令嬢の待遇は、それほど過酷なものではないだろう。また公爵領の別邸で、誰とも交流せず閉じこもって暮らすというだけで、たぶん邸の中や庭くらいは出歩ける程度。衣食にこと欠くようなことはない、お母様と暮らしていた頃の最後の方よりはよほどましな暮らしができるくらい。そして数年したら恩赦がもらえて、幽閉を解かれる。それくらいが妥当なはず。

まあ、女性として花の盛りの時期が潰れることになるし、ろくな結婚もできなくなるだろうから、だいぶ人生を損するけど。

ていうか、ずっと幽閉されて生きてきたエカテリーナが、ようやく自由の身になったのに、すぐまた幽閉に逆戻り……あいたたた。

でも。

実際にエカテリーナを幽閉するのは、公爵家の当主なのよ。

罪人エカテリーナへこのような処置を行うこと、という指示が監督責任者である当主に対して出て、当主はその通りに実施する。そういうもの。

あのシスコンお兄様が、妹を幽閉するなんて。そんなこと、できる?

領地で皇子から聞いたお兄様との関係性から考えると、皇子はエカテリーナの犯罪の証拠を掴んだ時点で、お兄様に前もって話すのではないか。根回しをするとも言えるけど。君の妹を処罰する、と。

なんか……すっかり仲良くなったから、皇子に断罪とか処罰とかされることを想像するとあらためて辛くなっちゃうけど。前世の記憶がないエカテリーナだったら、皇子とは仲良くなっていない。

ゲームの中のエカテリーナは、ワガママで贅沢でヒステリックで……。

考えてみたら、 祖母(ババア) にそっくりだったかも。本来の令嬢エカテリーナの性格とは、かけ離れていた。

あれは、祖母の侍女ノンナとかが、貴婦人の振る舞いはこうだと吹き込んでたんじゃないか。ずっと引きこもって暮らしていていたエカテリーナは、学園でどう振る舞ったらいいか分からなくて、言われるがままの操り人形になってしまっていたような気がする。

だとしたら、ゲームのお兄様がエカテリーナを全肯定していたのは、操り糸が切れたら操り人形エカテリーナが舞台で崩れ落ちてしまうからなんだろう。引きこもったまま誰とも口もきこうとしなかった妹が、まがりなりにも公爵令嬢として学園生活を送れていたのは、操られていればこそだったから、ノンナたちから引き離すことはできなかった。そういうことじゃないか。

……ん?じゃあ殺人教唆も、ノンナたちがエカテリーナに勧めたんじゃ?令嬢エカテリーナは、そんなこと思いつきもしないぞ。

祖母(ババア) の侍女たちって、マグナと繋がってたり……あちらが裏で糸を引いて、兄妹を陥れた、とか……。

うわ、ありそう。お兄様が公爵を継いで、もううちからお金をかすめとることができなくなっていたはずだもの。お兄様を排除して、その隙に入り込もうとした?

うー!駄目だ、ここでは起きていない出来事だから、ただの想像にしかならない!

とにかく、ゲームでは皇子から見たエカテリーナは、ミニアレクサンドラだった。

領地での言葉の端々から考えると、皇子って 祖母(ババア) のこと嫌いだったぽい。アレみたいにいろいろな人の迷惑にならないうちに、エカテリーナを排除したほうがいいと思ったのかもしれないな。

けれど、エカテリーナを処罰する、君に幽閉してもらうことになる、と言われたお兄様は、どうするだろう。

そう考えていくと、可能性が見えてくる。あり得ないはずのゲームの断罪シーンが、現実になる可能性。針の先ほどの、ほんのわずかな可能性だけれど。

お兄様が、望んだとしたら。

爵位と財産を没収されて平民落ち。でもその場合、自由は――保たれる。

妹を幽閉に逆戻りさせないために、爵位も財産も投げ出して、どうかエカテリーナを閉じ込めないでほしいとお兄様が頼んだとしたら。昔からの友人の懇願に、皇子が心を動かされたとしたら。

二人で示し合わせて道筋を作り、あの断罪を……演じ、皇子が言った通りにエカテリーナを処分できるよう、周囲を動かしたのかもしれない。

本当にわずかな可能性だけど。

お兄様が身分を捨てるなんて、あまりにも突飛であることは変わらないんだけど。

皇子だって、爵位や財産なんかより、人材としてのお兄様のほうが価値があると思うはず……いや、だからこそ、だろうか。エカテリーナを常識的に処罰してお兄様との関係を悪くするより、お兄様の望みを叶えたほうがいいと判断した。

数年してほとぼりが冷めたら、兄妹とも恩赦で家へ戻すつもりだったとか?これも想像にしかならないけど。

埋まらないピースはまだあるけれど、それでも、あり得ないがあり得るに変わる。本当に針の先ほどの、わずかな、わずかなものだけど、けれど、可能性は「ある」に変わる。

妹のために自ら全てを投げ出す。

お兄様なら、できる。できてしまう。

うわーん!

思いついちゃったらもう、こういうことだったとしか思えないー!

お兄様のシスコンは天下一品だもん!褒めていいことか、よくわからないけど!

でも 妹(わたし) のために犠牲になんかなっちゃイヤーーーっ!

あの破滅には、裏があるのかもしれない。でも、妹エカテリーナのせいでお兄様がつらい思いをしたのは、間違いないんだもの!

イヤーーーっ!ダメ絶対!

だからやっぱり!

破滅フラグには最大警戒!悪いことなんか、絶対しません!

もしも破滅の黒幕がマグナだったとしたら、むしろ悪いことをしていなくても、隙を見せただけで陥れられる可能性があるってことなんじゃないの?隙がすなわち、破滅のフラグ。

やばい、難易度が上がった。

清く正しく美しく!

あ、これはちょっと違う?少女歌劇団のモットーだったかも。

と、とにかく!少なくともゲームの断罪シーンを乗り切るまでは、破滅もあり得るものと思って、フラグを立てないよう気を付けて生きよう。

最低でも今年度いっぱい、お兄様が学園にいる間は。

お兄様が学園を卒業したら、お兄様が抱きしめていてくれる、あの断罪シーンはあり得なくなるから……もう、破滅に怯えなくてもよくなるんじゃないかな。

それまでは、とにかく品行方正。

君子危うきに近寄らず、李下に冠を正さず。あ、皇子になるべく近寄らないのが、それに当たるかな?

すっかりグダグダな破滅フラグ対策だけど、学園に戻ったら、仕切り直して頑張るぞー!