軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第91話 マザースフィア3

影一が虎子とともに、玉竜会の手下をあしらっていた頃。

マザースフィア分裂体に攻勢を仕掛けていた綺羅星は、ふっ、とひとつ息をつきながら汗をぬぐっていた。

「っ、仕留めきれない……!」

敵のスフィア攻撃はすべて見切った。

アタックスフィアは厄介だが、立ち回り方を固定化すれば誘導は容易い。

むしろ仲間がいたり、中途半端な位置で避けたりすると複数のスフィアの軌道がブレ、ばらついて襲いかかってくるためやりにくいと感じた程だ。

ガードスフィアも同じく、フェイントを仕掛ければ簡単に撒ける。

モンスターは学習をしない。

冷静に立ち回ればノーダメージも難しくないし、弱点もついている。なのに――

攻撃をあててるのに、敵の魔力が減ってない……!

というかむしろ、回復している――自動再生。

迷宮庁の後藤や先生なら仕留めきれるが、敵の攻撃を回避しつつ殴るスタイルの綺羅星では、押し切れないのだ。

かといって攻め急げば、スフィアの餌食だ。

防御を捨て攻撃に特化できるほど、綺羅星の耐久は高くない。

(先生が戻ってくるまで、耐久戦をする手もあるけど……)

それは面白くない――と、綺羅星が浮遊するボスを睨みつつ、せめて自動回復ぶんぐらいは削り続けてやる、と再度突撃した瞬間。

にゅっ、と。

星型の外郭下部より、白い触手のようなものが生えた。

「何それ!?」

うわあ、と攻撃をキャンセルし、横っ飛び。

その影を貫くように触手が通り過ぎ、綺羅星はひやりとしながら再度観察する。

……攻撃パターンが変わった?

マザースフィア分裂体の攻撃方法は、爆撃用のアタックスフィアと防御用のガードスフィアの二点のみ。迷宮庁の説明会でもそれ以外はなかった。

とすると、何か特殊な条件を満たした可能性が――と、睨む前で、現れた触手がうにょうにょと這い回り。

やがて、地面に落ちたそれを掴む。

影一がぶん投げ、花火として散った男の死体だ。

魔力を全損したまま動かないそれを触手が這いずり回るように舐め、やがて、ずずず、と自らの元に……取り込んでいる?

「うわ、気持ち悪い……って、もしかして。魔力を吸収しようとしてる?」

……魔力を消耗した状態で、長期戦をしすぎたか?

後藤や先生は長期戦をしておらず、しかも元のモンスターである”マザースフィア”本体は魔力が50%以下の時点で爆発するため、この攻撃方法を見なかったのだろう。

待てよ?

あのボスが、魔力を吸収しようと行動しているなら。

綺羅星はふと閃き、インベントリから回復ポーションを取り出す。

コロンと地面に転がし、僅かに距離を取る。

ポーションの存在に気づいたボスが、ふわり、と移動を始めた。

先程までは滞留、或いは逃げるしか能の無かったボスが、初めて……ゆっくりとだが、こちらに移動をはじめた。

――誘導、できる。

それなら……

綺羅星は一旦ポーションを拾い、部屋の左隅へと転がしていく。

ボスは相変わらずアタックスフィアをけしかけてくるが、魔力減少の影響か、ダミーも多い。

綺羅星は回避に専念。

ボスモンスターが指定位置に移動してくるまでじっと耐え、……やがてボスが、中央から大分外れた小部屋の左端――先程、影一が別個体と戦っていたあたりまで移動。

床に落としたポーションに向かい、ゆっくりと触手を伸ばし始めたところで、

「――いま!」

いきなり地を蹴り、ボスへと接近。

反応した分裂体が慌ててガードスフィアを集合させるが、もう遅い。

唇を噛みしめながら、ガードスフィアの真横をすり抜け、突進。

そのまま力強く、大地を踏みつけ、

ピピッ

影一が先の戦闘中、マザースフィア退治のため仕掛けていた地雷の余りが炸裂。

「――っっっ!」

自分の足ごと触手を吹っ飛ばし、ダメージを与えながら爆風とともに舞い上がる。

魔力が全損しなきゃ、ダメージなんてただ痛いだけ――!

涙目になりながらも根性で耐え、綺羅星は空高くに拳を構え、重力落下とともに拳を打ち下ろすフルスイング。

痛烈な一打を頭上に受けたマザースフィア分裂体が、

ビ――――ッ!!!

と警報音を鳴らしなて大きく震え――全身にミシリと亀裂が走る。

卵の殻に走るような、小さな亀裂ではない。

脳天から股下、一直線に星を割るかのような一打に、マザースフィア分裂体が大きく震え、その外郭が地についた。

打ち落とした。

紫色の煙が吹き出し、ダメージを確認した綺羅星はすかさず回復ポーションを口に挟み、がっと飲み下しながら接近。

逃さない。

叩き込め。

虐めた相手に、反撃の手なんて与えるな――自殺するまで、一気に追い込め!

足の傷をしっかり回復しながら、綺羅星は怒声をあげて乱打を叩き込む。

ふらつきながらもガードに現れるスフィアを回避し、ぐるぐるとボス周囲を旋回しながら徹底的に打ち込んでいく。

殴る、殴る、ひたすら殴る。

一撃の威力も高くなく、必殺技も固有スキルも持たない彼女には、通常攻撃を丁寧に刻んでいくことしかできない。

でも、攻撃とはそういうもの。

毎日欠かさず嫌がらせをし、相手を追い詰めるねちねちとした呪いのような執着こそ、綺羅星の戦闘スタイルの一つでもあるのだから。

「っ……せいっ!」

幾度となく乱打の嵐を浴びせた瞬間、ふと、綺羅星の手に手応え。

分裂体が、紫色の煙を激しく噴出し――その姿が幻のように消滅した。

コロン、と魔石の転がる音を耳にし、けれど油断せず彼女は周囲に巡らせた”察”を一段強めて警戒する。

……得物を倒した直後、ハイエナを狙う狩人がいてもおかしくない。

小部屋を改めつつ、よし、問題無し。

けど――

「……先生わざと、地雷残してましたよね、これ」

ホント、抜け目ないなあと思いながら、綺羅星はようやくひとつ息をつくのだった。

それから――すこしの時間、反省に費やした。

今のボス。もし地雷がなかったら、他にどんな選択肢があった?

自分の攻撃は、安全に偏り過ぎて日和ってなかったか?

安全マージンを極端に取り過ぎていなかったか。インベントリに使えるものは、なかったか……?

考え込む綺羅星に、勝利の余韻はない。

今のボスで、B級中位。

一般的な狩人と呼ばれるB級なら、今のボスすら初見で倒してしまうのだろう。

しかも先生や、迷宮庁の後藤や虎子はそれらを遙かに上回る化物だ。

修行不足だな、と反省しつつ……

次は上手くやるぞ、と気合いを新たに通路に出ると。

先生と――……並んでいた虎子と、鉢合わせした。

「ああ、綺羅星さん。お疲れ様でした。その様子だと何とか勝てたようですね」

「先生が他の女といる……」

「うん?」

「い、いえ何でもありません。はい、勝てました。でもまだ、分裂体はいますよね。なので次の……」

「その件ですが」

影一が残念そうに首を振り、やれやれと溜息をついて。

「マザースフィア攻略戦は、急遽中止になりました」

「――え?」

「迷宮庁職員の前で、米国産ライフルを振り回す馬鹿がいたようなので、安全のために、ね」

……は?

え、何それ!?