軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

秋冬新作の打ち合わせ

「お久しぶりです、ジゼル様」

微かに秋の気配を感じさせる夏の終わり。その日、ラベル商会のナタリエ夫人とケティが屋敷を訪ねてきた。新婚旅行前から「秋冬の新作をどうします?」と訪ねてられていたが、まだ夏物を売り出す前でそれどころではなかったのだ。

「ナタリエ夫人、ケティ様、お待ちしておりました」

「少し会わないうちに、なんだか変わりましたね」

「え、そうでしょうか?」

「なんとなくですが、佇まいといいますか、雰囲気がこう貴族然として」

「ほ、本当ですか? 侯爵夫人っぽく見えますか?」

ジゼルはケティの感想にパッと表情を明るくする。

王国には侯爵家が八つあるが、ジゼルが一番若く一番権威が上だ。だからこそ、威厳を持ち、それなりに見られたいという思いがあり、意識して努めているが自分では分からない。

エリオットはジゼルに甘いので、ジゼルの態度や姿勢に苦言を呈することはなかった。

「顔芸はまだまだ難しそうですね。でもそれがジゼル様のいいところですわ」

「そうですのよ。あーんな能面たちと一緒にならなくてもよいのです」

ナタリエ夫人の冷静な意見にケティも同意する。

ジゼルはしゅんと落ち込んだものの、二人が想像以上に貴族にいい感情を持っていないことはわかった。

「でもお二人も貴族ですよね?」

「ええ。でも末端の末端ですもの。気楽なものです」

ジゼルも本来ならそちら側だったのに、こちら側に来てしまった。

でも後悔はない。この家で過ごせることやエリオットと出会ったことはとても意味のあることだったから。

「ではおしゃべりはこのあたりにして、早速本題に入りましょうか」

フリージアは一時期の盛り上がりが落ち着き、品切れや入荷待ちといった状況はなくなった。客にとっていいことではあるが、ナタリエ夫人やケティにとって心許ない。

下着は月に一度新作を出しているので、流行り物や限定商品が好きなマダムは月に一度必ず顔を出す常連になってくれている。また、メンズ商品もじわじわと盛り上がりを見せているが、貴族には付き合いのある商会が他にもあるので、そこそこといった具合だ。

「まず、秋冬の新作あったかパジャマです。エレガント、ナチュラル、スイート、クールシリーズの見本デザインです」

フリージアには現在大きくわけて四つのシリーズがある。

それが、エレガント、ナチュラルは女性向けのライン、クールは男性向けのラインだ。

これは機能性は同じだが、デザインが異なるものだ。ナチュラルはフリルやレースの装飾を控えめにしているので、値段もリーズナブルになる。一方エレガントはフリルやレースで美しいデザインをあしらっているので、貴族のご婦人方にはとても人気だ。

一方スウィートは機能性を度外視したものである。もちろん布やデザインにこだわっているが、恋人や夫と共に甘い時間を過ごす前提でありセクシーを売りにしていた。

「引き続きシルクは必要ですが、綿、羊毛、ベロア素材を使った温かい商品を作りたいと考えています」

ナタリエ夫人とケティはジゼルの落書きのようなデザイン画を見てふんふん頷いている。

「お二人からスイートシリーズがとても好評とのことを聞き、その原因を調べていました」

夜着という薄くてスケスケの、それこそ初夜に着るようなランジェリーはこの世界にもある。だが、どうしてそのスイートシリーズが人気なのかと言えば、これを着ただけで意中の人がもれなくメロメロになってくれるからだと言う。

ある貴族夫人は最近夫が冷たかったっが、この下着を身につけて披露しただけでベッドに連行されたという。その夜はとても濃密で甘い時間を過ごし、その日を境に夫婦仲が改善したと言っていた。

「それならとナチュラルラインをベースに甘い雰囲気を作り出せないか考えた結果、こんなデザインが出来上がりました。ーーこちらです」

それはもこもこ素材のパジャマだった。ただし足元はショートパンツだ。同じ素材でワンピース型も作っている。

「〝旦那様のおみ足〟シリーズです」

「「旦那様のおみ足〟シリーズ」」

「ええ。普段隠している足を曝け出すのは、親密な証拠。スイートはセクシー過ぎて勇気がなくても、このぐらいなら勇気の出せる女性陣も多いのではないかと思いまして」

ドレスで胸元を強調するので、貴族の男性たちはあまり胸に興奮しないらしい。もちろん人によって性癖は異なるので一概には言えないが。

「こう、下半身のラインがわかるデザインの方がムラムラするかと思いまして」

ワンピース型はお尻がすっぽり隠れる長さだ。エレガントラインでは一応くるぶし丈も作る予定である。

売れると思ったことが実際売れなかった……と言う話は往々にしてあるものだ。

だからこそ、必ず売れると思う新作も揃えていた。

「あと、最後になるのですが、これは秋冬の新作というより、アクスバンのマスコットを作りたいと思いまして」

「「マスコット?」」

「はい。イメージみたいなものです」

貴族にはそれぞれ家紋があるが、それを平民たちは知るよしもない。それ以上にわかりやすく親しみやすいマスコットキャラクターがほしかった。

「これは、その、恥ずかしながら自分で作ったものですが……」

先日ファッジ領で購入した羊毛を使い、暇を見つけて作っていたものだ。

ジゼルはナンシーからひと組のぬいぐるみを受け取るとそれをテーブルに乗せる。

高さ五十センチ程度のデフォルメされたくまのぬいぐるみはお行儀よくちょこんとテーブルに座った。この世界にも人形はあるが、どれも精巧な作りでリアルに近い。夜に見かけると少々怖くて、ジゼルはずっと気になっていた。もっとかわいいものがあればいいのに、と。

「アクスバンベアです。この子たちのお洋服をたくさん作りたいのです」

「触っても?」

「ええ、どうぞ」

前世の夢の国にいるネズミたちのお友達のくまさんをモデルにした。

おとこのこはエヴァン、おんなのこはリリアンと命名した。

くまたちはアクスバン商会で作るので、その洋服をナタリエたちにお願いしたいと思う。

「……す、素晴らしいですわ!」

ケティがエヴァンを抱えたまま、立ち上がり拳を振り上げる。

声高らかにその素晴らしさを褒め称えた。

「まず、このかわいらしさ! なかなかこのようなかわいらしいぬいぐるみはございません! 触り心地もよく、ずっと抱きしめていたい……!」

「ええ、それを目指しました! 子どもの贈り物にもいいですし、お洋服を着せ替えして遊ぶのも楽しいでしょう? エヴァンやリリアンたちと同じデザインのお洋服を作ってお揃いにするのも」

「まぁ! それはいい考えですわっ」

そこにナタリエ夫人が食いついた。彼女はリリアンをぎゅっと抱きしめたまま少女の顔をしていた。

「ーー失礼します、ジゼル様」

そこへ、トマスが来客を知らせる。立ち上がっていた二人は「こほん」と咳払いすると静かにソファーへ腰を下ろした。

ジゼルはトマスに頷きかける。彼はわかっている言うように頷いて部屋を後にした。

「すみません。お二人に実は会っていただきたい人がおりまして」

「あら、わたくし達に?」

「どなたかしら」

二人はエヴァンとリリアンを抱っこしたまま顔を見合わせる。

ジゼルはそんな二人ににっこりと微笑んだ。

「この度、アクスバン商会が後ろ盾となり劇団員を支援することになりました。今後舞台衣装のことでご相談させていただきたいのです。本日は簡単なご挨拶と顔合わせをお願いしたく思います」