軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

呪い返しの秘密①

それから数日が経っても、実行犯たちの自白は始まらなかった。

ルシアンは定期的に自白を促す闇魔法をかけ直しに行っているが、残念ながら今のところまだ効果は出ていない。

一方のリーナは闇魔法による自白とは別の方向から彼らの交友関係を調査しているようだったが、そちらの成果もまだ上がっていないということだ。

一点だけ、彼らの頬や足などに不思議な引っ掻き傷があることが共通点だったのだが、それも多くがこの数日のうちに自然に治癒し、消えてしまった。

消えたということは、特定の組織の印というわけではないことになり、調査はまた振り出しに戻ったのだという。

(スレヴィの誕生日パーティーの夜を乗り切ることはできたわ。でも、黒幕について何の手掛かりも掴めていないとなると、リーナ様も不安なことでしょう)

そのリーナは、誕生日パーティーの夜以来ずっと、聖女の部屋から王城内の客室に移動して暮らしていた。

闇魔法を流して浄化に使う噴水まで持ち込み、聖女としての任務を遂行できるように環境を整え、長期戦に備えているらしい。リーナの部屋には常に実行犯五人と衛兵たちがいて、自白を促す闇属性魔法をかけ続けているためだ。

ということで、自然とエステルたちもその客間に集まることになる。その客間で猫の姿になり、ルシアンの肩の上でお腹を出してひっくり返ったクロードが、これ以上ないほど暇そうにしている。

「暇だにゃーっ。いつになったらオレたちはオリオール王国に帰れるんだ? この国寒いんだよ。猫は寒いのだめだから、そろそろいい加減帰りてえ」

「もともとこの魔法は時間がかかるものだと知っているだろう。当然だが、人は隠したいことほど外から見えない心の奥に置いておくからな。特に今回は黒幕への忠誠心が厚いようだ。どちらにしろ、黒幕がわかるまでは帰らないぞ」

ルシアンの言葉に、クロードは肩の上で器用に寝返りを打つ。

「こうなったらやっぱり拷問かにゃ」

「リーナが過去の死に戻りで失敗したと言っていただろう。拷問は最終手段だ」

「意外とやる気はあるんじゃん。王子様こええ」

完璧な婚約者と自由すぎる使い魔の物騒な会話を聞きつつ、エステルはただ大人しく紅茶を飲むしかない。

そして、スレヴィがフリード国に留まることが決まったにもかかわらず、まだリーナたちに協力をしようとしているルシアンの姿が意外だった。

(ルシアン様はもともとお優しい方ではあるけれど、スレヴィ絡みになると妙な本音がだだ漏れになってしまっていたのよね。でも、実際には最後まで力を貸してくれそうでよかった)

一方、リーナとスレヴィは向かいのソファに二人で座り、本を読みながらなんだか楽しそうに顔を寄せ合って話している。

「リーナ、これは?」

「スレヴィにはこちらの方がいいと思うけど」

「でも、これならリーナと同じデザインにできる」

二人は、結婚式に備えて指輪のデザインを選んでいるようだ。想いが通じ合ってからの二人は、見ているこちらが恥ずかしくなってしまうほどに仲がいい。

(これまでは喧嘩ばかりだったのに、驚いてしまうわ)

リーナに甘えるばかりだったスレヴィがしっかりしてきているのも微笑ましくて、エステルの頬は緩む。そこへ、初々しいカップルの姿を見たルシアンのうっかり気味な本音が聞こえてくる。

「いいな……」

「…………」

また、とんでもないものを聞いてしまった。フリード国での、クールで頼り甲斐あるルシアンのイメージが一気に砕け散る気がした。

しかしルシアンも自覚はあるようだ。平静を装いつつも、どこか死にそうな瞳で聞いてくる。

「俺は、今、何を、言った?」

「……何も、仰って、いま、せん、ね……」

これ以上エスカレートしてほしくないので、触れたくない。必死で目を逸らしたエステルだったが、クロードは容赦がなかった。

「このお子様二人が楽しそうにしてるのを見て、『俺もエステルといちゃつきたいうらやましくて死ぬ』って言ったぜ」

「⁉︎ そこまでは言っていないだろう⁉︎」

「言った言った。俺にはそう聞こえた」

正直なところ勘弁してほしい。

パタパタと顔を両手で扇いだエステルは、ルシアンから目をそらす。けれど、案の定ルシアンは止まらない。

「だって、仕方がないじゃないか。俺はエステルが好きだ。世界一かわいいと思っているし、実際にそうだし」

「⁉︎ どこからどう考えてもそんなはずはないです⁉︎」

慌てて否定すると、ルシアンの瞳が真剣なことに気がつく。一点の曇りもない、真っ直ぐなまなざしに絡め取られそうだ。

(これは本気だわ……)

恥ずかしさはあるものの、うれしくもある。けれど、ここでルシアンのペースに飲まれるわけにはいかない。

正面からエステルたちの会話を聞きつつ、こっそり様子を観察していたらしいリーナは手に持っていた本をパタンと閉じた。

「やっぱり そ(・) う(・) なのね。それで、ルシアン殿下のその呪い返しは一体何なのかしら?」

「――!」

一瞬、ルシアンに緊張が走ったような空気を感じた。