軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

親愛なる我が黎明へ 其の十二

メイド服にマフラー、明らかに使い慣れていない双剣を握りしめながら少女は……ウィンプはその手を取る。

巨躯の鎧馬の背に跨りながら、ウィンプはふと何かを思い出したかのように慌ててベルトに吊るしていた剣を再び握り直す。

「えと、あの、えっと………」

ウィンプが持つ双剣は戦うためのものであるが、それと同時に戦うためのもの ではない(・・・・) 。

どれほど鍛えたところでウィンプはプレイヤーではなくモンスターであり、成長曲線はプレイヤーとは異なる。

さらに言えば、ウィンプは荒事のほとんどを今はもういない蛇に任せてきていた。それ故に元々のスペックが低いのだ。

だからこそ、この剣を作った者達は考えた。

───別に、後ろで応援してくれてるだけで良くね? と。

言ってしまえば「邪魔だから後ろで応援していてくれ」という残酷な結論ではあったが、彼らはそこで終わらせなかった。

いるだけで相手に害を齎す存在を呪いの石像と例えるならば、その逆を目指す……いるだけで味方を強くする祝福の偶像にしてしまえばいい。

幸いにも、彼らには「素材ならまぁいくらか出せるが」と いくらか(・・・・) では済まない素材を出す噂の"激つよパトロン"がいた。そして何より、そんなパトロンの他にも「ウィンプちゃんのためなら」と素材を集める高レベルのプレイヤー達も。

そうして完成した二振りの剣。

プレイヤー最高の鍛冶師がイムロンであるならば、NPCまで含めた至高がヴァイスアッシュであるならば。彼らが生み出したのは集合知の結晶。

あくまでも非力でしかないウィンプでも扱いやすいように細く短いそれらは、右剣を「 槍水仙(イキシア) 」、左剣を「 片喰(オキザリス) 」と名付けられた。

薄い紅色の 槍水仙(イキシア) と、柔らかな黄色の 片喰(オキザリス) 。その二つはどちらも”燃料”を使用してその能力を発揮する。

「えと………み、みんな!」

ウィンプの手が強く、双剣を握りしめる。彼女の手から分泌された「毒液」がグリップを通して吸収、 魔力(エネルギー) へと変換して刃に刻み込まれた 刻印式魔術媒体(マジック・スコード) が起動する。

「がんばって! わ、わたしまってるから!!」

槍水仙から放たれた魔法【イキシア・チアフライズ】がこの場にいる全プレイヤーへと範囲発動。一定時間のステータス上昇と状態異常耐性を齎す。

言葉の意味を完全に理解していなくとも、何故かウィンプが最前線のさらにその先に行こうとしている理由を知らずとも、応援されて期待されているという事だけで奮起することができる。

それはまさしく、わざわざオリジナルで魔法を編み出してそれをさらに剣に刻印して搭載する、という偏執的とすら言えるほどの「推し」への愛が生み出した武器の設計者達の 狙い(プロデュース) 通りの展開であった。

「そうまで言われちゃあここでまごついてる暇はねぇぞオメーらァ!!」

応、とプレイヤー達がサバイバアルの一喝に力強く応える。

それをわずかに目を細めながら……そして、素顔を隠す鳥の覆面の下で楽しげに笑いながらサンラクはサイガ-0へと顔を向ける。

「レイ氏、行こう」

「分かりました。捕まっててください、ウィンプさん」

「う、うん!」

サイガ-0のステータスに比例した強化補正を受けた緋鹿毛楯無が再び、本来の膂力を超えた跳躍で龍蛇の胴体を跳び越える。サンラクもそれに続く……前に、サバイバアルとヤシロバードへと話しかける。

「じゃあちょっと行ってくる」

「おーう。ったく、ここにいる全員踏み台かよ?」

「バカいえ、こんな超大規模イベントまで発展してて大ボスがプレイヤー数人で倒せるかよ」

確かにサンラクの当初の想定では「龍蛇や毒乙女を他のプレイヤーに押し付けつつ、本体である「無尽のゴルドゥニーネ」と少人数で決戦をする」という流れであった。だが、開戦からここまでの流れでサンラクもうっすらと自分の想定が若干間違っている、ということに気づいていた。

「こいつは思ったよりもジークヴルム戦みたいな超大混戦シナリオかもしれない」

「そうだとしても、そうじゃないとしても……これだけデカいモンスターにケンカ売れるのは案外、予行演習なんじゃないかな。ほら……ケット・シーのところで見たじゃん?」

がごん、がしゃん、と。誰よりも騒がしく、装備した 収納鍵(しゅうのうけん) チェストリアから明らかに「重火器」と呼ばざるを得ないような金属塊を次々と出しながらヤシロバードが笑う。

「アレ想定の銃は大量に作ったからね………テスト相手には丁度いいよね、この蛇」

「はいはい、楽しそうで何より………じゃ、俺からも。 待ってるぜ(・・・・・) お前ら! せっかくなら決戦にもツラ貸せよな!」

「ハッ! さっさと追いついてこい! ウィンプちゃんになんかあったら着せ替え隊の何人かはお前をぶち殺しに行くと思うぜ」

「脅しが嫌な方向にリアルで最悪なんだよバカ!」

そう返しながら、サンラクもまた先程の猛馬に劣らぬ……むしろ、勝っている跳躍力で龍蛇の胴体を跳び越えたのだった。それを見送り、サバイバアルは一層凶悪な笑みを深める。

「さァて………久々の 大蛇(だいじゃ) 狩りだ。腕が鳴るぜ」

蜷局(とぐろ) が回り、頭が近づいてくる。

「時にレイ氏! あっちの様子は!?」

「……あまり、良くはないです」

これでも一応 最大速度(スピードホルダー) 、何故か俺が並走すると噛みついて来ようとするイカレ馬にガンをつけられつつもレイ氏と並んで状況を聞く。だが、返ってきた答えはあまりよろしくないものだった。

「何かあった?」

俺の問いに、レイ氏は緋鹿毛楯無の手綱を握り直しながら答えた。

「ネームド級の強さの毒分身体が現れたんです」