軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

12月15日:個々に輝く、故に開拓者

セカンディルから至るサードレマは、そこからさらに三つのルートに分岐する。

地底の樹海、滅びた くろがね(・・・・) の遺跡、そして焔蝶の座す死火山。彼らがやってきたのは樹海からであった。

「樹海窟から突撃! ぱやぶさ率いる敵軍!!」

「フォスフォシエが落ちたのか!?」

「違う! あいつら制圧せずに突破してきたのよ!!」

「クッ、どいつもこいつも焠がる大赤翅に流れたから守りが手薄になってんのか……!!」

敵陣営から真っすぐに、向こうから見て敵陣営であるサードレマ側に与する街をノンストップで突破してきたぱやぶさ率いる 配信戦線(ライブライン) 突撃組は、今まさにサードレマの外壁へと到達しようとしていた。

「おーおー、ここからでもよく見えるねぇ」

「同志! どうする?! 魔法防御は破壊されてるぜ!?」

「ちなみに復旧までどれくらい?」

「聞いてきた! 半日だってさ!!」

「大赤翅のクールタイムが一日であることを祈るしかないね、さて………」

可能性と一つとして考えてはいたが、あまりに早すぎる本陣決戦の構図にペンシルゴンは僅かに目を細める。さしものプレイヤー達も目の前まで敵プレイヤーが迫っているともなれば迎撃の意思を見せてはいるが………今のサードレマは焠がる大赤翅によって魔法防護結界を破壊されている。つまり城壁への魔法攻撃を防ぐ手段がない。

だがそもそもの話。

「バカ正直に籠城戦なんてするわけないじゃない」

「何する気?」

にやぁ、と捕食者の笑みを浮かべたペンシルゴンにオイカッツォが若干 引(ヒ) きながらも問いかければ、ペンシルゴンが返した返答はいたってシンプルなものであった。

「何する、っていうか…… もう仕掛けた(・・・・・・) 」

突撃する集団の先頭、他者から認識されやすくするためか派手な赤い鎧を纏った男が何か大声を上げながら剣を掲げた瞬間。

「魔力を込めると紐に触れているアイテムに魔力が伝導する 魔力伝導糸(マジック・ホットライン) をこう、地面に真っすぐ引いてさ……そこに爆炎系魔法の 使い捨て魔術媒体(マジックスクロール) を載せて土で埋めた第二の城壁、名付けるならそのまんま「ファイアウォール」かな?」

ペンシルゴンたちがサードレマ外壁から見下ろす眼下、千紫万紅の樹海窟からサードレマに続く道の左右に潜んでいたプレイヤー達によって一斉起動された爆炎が壁を形成し、先頭を走っていた配信者と思しき人物を含めた先陣を炎が焼き焦がす。

さしもの新王陣営プレイヤー達も、テンションだけで轟々と燃え盛る炎の壁に突撃するほど狂奔に取りつかれていたわけではないらしい。

「あれ多分配信者じゃないの?」

「あーっはっはっはっは! 私に向いてないカメラなんて全て壊してくれるーっ!!」

「まぁお茶の間に流せないタイプの高笑いではあるね、発禁スマイル?」

そっとオイカッツォの背中をペンシルゴンが押し出し、バランスを崩して外壁から下へと落ちていったのを目だけが笑っていない笑顔で見送ったペンシルゴンはさて、と今度はちゃんとした笑顔を見せながら後ろに控えていたプレイヤー達へと指示を出す。

心なしか彼らからの視線に恐怖の色が混ざっているようにも見えるが、統率に必要なものは結束力と恐怖であることを重々承知しているペンシルゴンは構わずに炎の向こうで突破方法を探しているのだろう敵プレイヤー達へと槍の穂先を突き付ける。

「ゲームに化学兵器禁止条約は無ーい! 野郎ども! ぶちかましちゃいなさーい!!」

サードレマにやってきた錬金術師を目指す薬剤士プレイヤー達に依頼することで数を揃えた「錬成毒」。

通常の状態異常とは別枠判定で状態異常を付与することが可能な、DOTをメインとするプレイヤーからすれば必須のアイテムだが所詮は 錬金術師(最上位職業) にも至れていない駆け出しの薬剤師が作ったもの。

レベル50もあればよほどVITが低くない限りは解毒の必要もなくレジストが可能なものだ。

だがこのゲームはシャングリラ・フロンティア。現実ですら極めようと思えば果ての無い薬学、この世界においてただテキストに書いてあることだけを信じることはあまりにも愚かだ。

「毒ガス!?」

「いや、大した毒じゃない! 炎の壁も消えたし突撃だ!!」

「ぱやぶささん死んだけど!?」

「背中見せて逃げたら射かけられるだけだろ!!」

「あれこれ、「毒蜥蜴の肝練り粉」じゃ……あっやばこれ可燃せ───」

サードレマ城門前。先導する旗頭が爆炎の中で焼け消えたことで指揮系統が消失。一瞬混乱が起きかけるも、先導者がいようがいまいがやることに変わりはないと 大した毒ではない(・・・・・・・・) 緑の粉塵の突破を始めた新王陣営プレイヤー達は、城壁の縁に立ってこちらを見下ろす、どこかで誰もが見た覚えのある黒い長髪を風に流す女性の姿を見た。

「着火!!」

錬成毒「 毒蜥蜴の肝練り粉(可燃性の粉塵) 」が充満した眼下に次々と放たれる上位クラスの火炎魔法。最初にファイアウォールを構築するために潜伏していたプレイヤー達も参加したことで左右と上の三方向から浴びせられた炎は粉塵に着火し、連鎖し………大爆炎がプレイヤー達を吞み込んだ。

「これで全滅してくれるなら苦労はないんだけどね………」

常人なら断末魔を上げることもなく焼け死ぬであろう大燃焼の海を見下ろしながら、しかしペンシルゴンの笑みには苦笑が混じっていた。

このゲームはシャングリラ・フロンティア、そして開拓者は火に巻かれた程度では死なない者もいる。爆炎の中に防護魔法の輝きが混じり、なんらかの耐熱スキルで耐えたと思しきタンク達が爆炎に熱せられた道を踏みしめながら前へと前進を開始。いくらかのプレイヤーは炎によるダブルコンボで仕留められたようだが、やはりNPCを処理するのとは訳が違うらしい。

「だったら次だ、さぁアツアツの油を鍋ごと投下だーっ!!」

新王陣営のプレイヤー達へと襲い掛かる第三の熱。電撃戦を仕掛けた彼らが全滅するまでにそう長い時間はかからなかったが、戦いはまだまだ序盤も序盤である。

「………初っ端から飛ばしてるなぁペンシルゴン。とりあえず許さん」

その光景を城壁に開けられたのぞき窓の縁に掴まって眺めていたオイカッツォは、飛んできた矢を片手で弾きながら突き落とされた恨みを晴らすべく登攀系スキルを起動して壁を駆け上がり始めるのだった。