軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

12月15日:甘きは甘くなく

「いやいやいや、罠エグない!?」

ばっ! とベッドから跳ね起きたぱやぶさの第一声はそれであった。

元より帰路を考慮しない突撃という名の特攻、大した装備もつけていなかった事もあって不意打ちの爆炎壁に呑まれたぱやぶさの体力は瞬く間にゼロとなっていた。

「成る程ね、敵本陣まで切り込んで二十分かぁ……」

今回のイベントにおいて死亡した場合、プレイヤーには一定時間本陣たる街から出られない「 治療時間(リスタートペナルティ) 」が課される。

瞬殺されたとはいえ、サードレマまで肉薄していたぱやぶさに課せられた治療時間は二十分。決して短くはないが、王国騒乱イベント全体を通して見ればそう長い時間でもない。どちらにせよ装備を整えたり、対策を考える時間、そしてそれらを配信で流すことを考えればむしろ短すぎると言えるだろう。

「とりあえず電撃戦は失敗だね! ありゃ本格的に攻城戦仕掛けないとダメだなー……あはは、とりあえず作戦タイムかな!!」

プレイヤーであるぱやぶさがゲーム内で死亡したとしても、ぱやぶさの配信まで止まったわけではない。ふわふわと目の前に浮かぶ鏡に笑いかけながら思考は配信に映らない……否、 映さない(・・・・) 「影」を思う。

(さぁーて……二日くらい"潜伏"するんだっけ? 凄いなーあの人達。やってるゲームカテゴリが違うんだよなー)

新王陣営電撃戦。

それを率いたのはぱやぶさ、それに付き従ったのはリスナーと───

◇◇

サードレマ地下水道。

犬が辛うじて通れるかどうかという、狭い水路を這うようにして進む影が三つ。

『応答求むアップルパイ。こちらバタースコッチ……チョコレート、ハニートーストと共にDルートから潜入成功。キル0』

随分と美味しそうな名前が無線に乗って伝達され、サードレマに密やかに迫る彼らは異なる場所から発せられた言葉を遠隔で共有する。

『こちらアップルパイ。ドーナツと一緒にBルートに到着、二人見張りがいる……プレイヤーだな、キルする。オーバー』

『あーごめんこちらエクレア。ジンジャーエールとフィグと一緒に今Bルートに向かってる、Aルートヤバすぎ、毒が流されてやんの』

『こちらバタースコッチ。ははは、やっば』

ぱやぶさの突撃は、単なる特攻ではない。

『了解エクレア。こちらアップルパイとドーナツは五分待ってから制圧する』

『引き続きエクレア〜。なんなら入り口から狙撃するけど?』

『こちらドーナツ。もう試した。傾斜で射線が通らない、潜入で手榴弾使うとか言い出すなよ?』

重要なのは「配信者が率いるプレイヤーの集団が全滅する」という事。何人、何十人がサードレマの城壁を越えられずに散ったとして…… 何人中何人(・・・・・) が死んだのかを正確に把握することなど不可能に近い。

『エクレア~。フラッシュバンでいいじゃん』

『こちらアップルパイ。もう投げる準備できてるからはよ来いって話ですよ。オーバー』

『エコー了解了解、あと一分……あ、間違えたエクレア』

例えばそう、もしもサードレマに突撃を仕掛ける一団から十人程度が離脱していたとしたら?

規律はないが、統率は取れているぱやぶさ率いるプレイヤー集団そのものがカモフラージュ。派手に死んだからこそ、派手に殺したからこそ、その事実に気づくまでに僅かな空白が生まれる。

『こちらフィグ。なんか俺だけ名前に若干の疎外感を感じるんだけど』

『こちらチョコレート。だってフライドチキンもフレンチフライも嫌って言ったの君ですやん』

『みんな甘味なのに俺だけ塩分じゃん、断固拒否だよ』

『うーい、エクレア合流〜』

サードレマ地下水道の一角にて一瞬の閃光と二発の銃声、それに気づいた者はもういない。的確に額に叩き込まれた銃弾によって、抵抗する暇もなく息絶えたが故に。

『こちらアップルパイ、制圧完了。オーバー』

『こちらバタースコッチ。早くない?』

『こちらアップルパイ。エクレアがノンストップでダッシュしたから即フラバンぶん投げて終わり。オーバー』

『こちらエクレア〜。二人くらいなら一秒見れれば目ぇ瞑っててもヘッショ余裕ですよ』

『ん。というわけでこちらアップルパイ。ドーナツ、エクレア、ジンジャーエール、フィグと一緒にBルートから潜入する。オーバー』

『こちらハニートースト。激しく腹が減ってきたでありますどうぞー』

『こちらドーナツ。この後 ログアウト(・・・・・) したらコーラ買いに行く』

サードレマ陣営の実質的なブレインを担うRPAの面々が「そういえばGUN!GUN! 傭兵団を見ていない」という事実に気づいた頃には。

地下水路を見張っていたRPAメンバーが不意打ちの射撃でキルされたという事実が明らかになった頃には。

『それでは甘々な諸君。今は息を潜めて潜伏の時……"祭りの日"にまた会おうか……アップルパイ。アウト』

『あ、そうだ フィナンシェ(Financier) とかあるじゃん。エクレアアウト〜』

『こちらフィグ……ねぇそれなんでキャラメイクする前に思い出してくれなかったん?』

銃火器で武装した潜入部隊は、サードレマの各地に散って潜伏を完了していたのであった。