軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

怪奇!サードレマの白布お化け!!

こういう時に限って、状況の天秤というものは向こう側に傾いてしまうものだ。明らかに張り詰めた様子のオルスロット君達を見下ろしながら、さてどうしたものかと屋根の上で思案する。

彼らの視線の先には露天で串焼き肉を買う一人の少女の姿、上後方から見える後ろ姿しか見えないが、パーマとも違う……なんというか、少し青味を帯びた灰色と言うべき物凄くモコモコした髪型の女の子が目当てのターゲットであるらしい。

「エムル、なんか聞き取れるか?」

「もう少し近くないと聞き取れないですわ……」

「そうか」

時にエムルさん、こんなところになんとなく買ったは良いが全く使い道がなくてインベントリアのリソースをコンマいくつか埋めてるだけのロープがあるんだけどな?

「でもですねぇ、真っ白お化けさんはあっちにいそうですしぃ……」

「い、いやいや、だからあっちで目撃証言があったんスよ!」

リアルな友人でもある斬龍焔月がNPC「サードレマ公女フレデリア」相手の交渉に苦心している中、オルスロットは安請け合いしたユニークシナリオが想像以上に難易度の高いものであった事に歯噛みしていた。

「なぁオルスロ、これ最悪失敗しねぇ? 公女、大概話が通じないんだけど……」

「見りゃ分かるよレザ、でもどうすんだよ? こんな大通りで担いで運ぶのか?」

人間一人を担いで追われても捕捉されないくらいの速度を出せるのならばその選択肢もあるかもしれないが、生憎オルスロット達は皆一様に素早さよりも頑強さにステータスを振っている所謂「斬り合い上等」のアタッカーだ。

PvPでは如何に相手の行動を封じるか、が重要となる。距離を取れば回復のチャンスになるのは自分も相手も同じというPvMとは異なる「常識」故に自然とPvPに慣れたプレイヤーのステータスは多少のダメージを無視できるような耐久と相手を追い詰める膂力に集約されていく。

中には「距離が離れていても相手が動く前に近づける速さがあれば装甲は紙でもいいですよね?」と言わんばかりの者や、「リアル技能で武芸に長けてるからむしろ防具は動きやすいほうがいい」とあえて軽装になる者もいるが、少なくともオルスロット達のステータスは一般的なPKのものだ。

「……最悪、裏路地に引き込めば」

「なぁ、なんかこう良心痛まねぇ? 斬龍(ザンリュー) 、さっきからずっとこっちに目配せしてるんだけど」

「ナンパなら任せろって言ったのあいつだろ、最後まで頑張らせよう」

「ナンパしたことないのにイキるから……」

ユニークシナリオ「公女誘導作戦」、簡単に言えばサードレマの出口にまで公女を連れて行くだけのユニークシナリオだが、特殊なユニーク故か話に聞いていた以上に公女フレデリアに話が通じない。

そもそも「サードレマの白布お化け」とやらがオルスロットの予想が正しければ忌々しい「奴」の事なのだから、いっそ二度と出現するなとすら言いたくなる。

………ほびゃぁぁぁぁぁ

「ん?」

「どうしたレザ」

「いや今なんか、後ろに毛玉が浮いてたような……」

「毛玉ぁ? 気のせいだろ」

「そっか」

思えばこんな、誘拐紛いのことをする事になったのも元を辿ればその「奴」も何割か関わっている。

無論オルスロットとて元凶が九割原因であることは分かっているが、それを差し引いてもあの姉を行動させたサンラクとオイカッツォの二人を無関係と考えられるほどお気楽な頭もしていない。

「くっ……」

今すぐ大公の城に乗り込んで姉に文句を言いつけてやりたい想いを抑えつけ、目の前の公女を如何にして誘導するかの思案に意識を割く。

いっそのこと斬龍焔月が気を引いている隙に自分かレザレットが白布お化けとやらに変装すればいいのでは、と思わなくもないがあの謎の装備は入手経路がいまだにはっきりしていないのだ。あくまでもゲーム的な装備行動が必要な以上、あんな風に体をすっぽりと覆う布装備は他に心当たりがない。

と、

「まぁ! 白布お化けです〜!!」

「そうそう、やっぱ俺の言う通り白布お化けいたでしょ………って、え?」

「何ィ!?」

見上げれば、そこには確かに奇妙な動きで屋根伝いに飛び跳ねる頭から目が描かれたシーツを被ったような謎の二本足の姿が………

「え、嘘。マジでサードレマ特有のレアエネミー? どうするオルスロ」

「いや公女が追って行っちゃっただろ! 追うんだよ!!」

「ちょっ、速ぇ!!?」

嘘から出た真か、それとも偶然か……サードレマの都市伝説になりつつある謎の白布お化けを追う公女をさらに追うオルスロット達、と言う奇妙な構図で「五人」はサードレマを駆け抜ける。

ロープに括り付けて吊るしながら下ろすことで盗み聞き範囲を広げていたエムルが見つかりそうだったので勢いよく引っ張り上げたらエムルに蹴り飛ばされた。

「思いやり! 思いやりを要求するですわっっ!!」

「脇腹蹴り飛ばす行為のどこに思いやりがあるんだよ……」

「必要悪ですわ! 吊るした後に思いっきり引っ張り上げるのはあまりに思いやりが足らんのですわーーーっ!!!」

はいはいすいませんねはい人参、とりあえず聞き取った内容を教えてくれ。

「あのモコモコした人はしろぬのおばけ? ってのを探してるらしいですわっ! んで、あの三人がしろぬのおばけがあっちにいる! って連れてこうとしてるですわ!!」

「白布お化け……一体誰なんだ……」

「目を逸らしても結果は変わらないですわ、サンラクサンのことですわ」

「なんでそんな悪目立ちしてるんだ、路地裏でピーツが売ってるんだからそんな珍しいもんじゃねーだろ……」

「あれ、知らないんですわ? ピーツは仕入れが下手くそだから数集められなかったのを人里で売ってるんですわ」

あれ在庫処分だったのか……知りたくなかった事実だ。

とはいえ大事なのはエムルが聞き取ってきた情報だ、あの公女サマは白布お化けの登場をお望みであるらしい。まるでサプライズ登場するアイドルの気分だ、見た目どう見ても不審者なのだが一体どこにニーズがあるんだ……ペンシルゴンに言えばサードレマのマスコット、ゆるキャラになれるんじゃないか?

「よしエムル、作戦はこうだ……まず俺が公女を人の多いところに誘導する」

「それからどうするですわ?」

「それから………どうしようか、あんまり目立ちたくないし」

あ、そうだ。どこか大通りに誘導しようと思っていたが、場所をこっちにすれば……

「作戦は決まったぞエムル、この作戦はお前が肝だ」

「ですわ?」

作戦名は……そう、親フラならぬ「姉フラ」だ。悪いなオルスロット君、俺はお前の姉を召喚するぜ!!