軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

大成の分岐路に立つ

鍛冶というものは要するに鋼を柔らかくして、ぶっ叩いて、冷やす、という三工程で成り立っている。厳密にはもっと複雑なんだろうがとりあえずこの三つのアクションは最低限行われるものだ。

だがアラドヴァルを復活させる今回の鍛冶は通常のそれとは全く異なる様相を呈していた。

「ぬ、ぉぉぉぉおどりゃあああ!」

燃やす、熱する、際限なく火力を高めて朽ちた刃を灼いていく。一瞬でも冷ましてしまえば全てが台無しになるとでも言わんばかりに火力を上げ続ける炉の中で、みすぼらしい刃が光の中に溶けてしまったのかと思える程の熱量が炉という牢獄の中で暴れ狂う。

「こん 剣(つるぎ) は……炎なんじゃ。じゃけん、目ぇ醒まさせるにゃあ……鈍って朽ちた鉄を焼き潰すほどの、熱が必要なんじゃ……っ!」

「つ、つまりとにかく温度を上げろ、と……」

ゲーム故の痛覚遮断してなおサウナの如き様相を呈してきたビィラックの工房、だがそれすらも足りぬとばかりに炉内部に宿った炎は光と熱を更に増していく。

「ぐ………ぉりゃあ!」

ビィラックが更に燃料を投げ込み、火勢が更に上昇する。あの時エックスブロッコリーに喰らわされた衝撃熱波を思わせる熱量が唯一の出口として設けられた炉の口から工房内へと吐き出され、そろそろアラミースが死にそうになっている。

「エムル、アラミースを連れて退避。あとついでに水持ってきてくれ」

「は、はいなぁ……」

「お、乙女の妹君よ……顔を、うぶぶ引き摺るるるのは……」

ズルズルとアラミースを引き摺って工房から出て行ったエムルを見送りつつ、俺は光で塗りつぶされそうになっている工房内に改めて坐り直す。

「ビィラック……いざって時は引き摺ってでも退避させるからな……!」

「へっへ……ワリャはそこで見ときぃ……っ! まぁだ、火力が足りんけぇ……本番はこっからじゃあ……!」

火力、火力ねぇ。

「時にビィラック、その宝石って何?」

「こりゃあ、キャッツェリアで加工された……火熾しの魔石じゃ」

要するに 使い捨て魔術媒体(マジックスクロール) の更に下位互換、魔法とすら呼べない現象の ばら撒き(・・・・) を行うためのアイテムであり、その中でも特に高い火力を熾せるものを起爆剤として炉に叩き込んでいるらしい。

「それってさ、 魔力なら何(・・・・・) でもいいのか(・・・・・・) ?」

「んぁ……? いんや、駄目じゃ。火の魔力が篭ったもんじゃないと…て待ちぃや、おどりゃ何して……」

持ってるんだよなぁ……「火属性」の鉱石。

「ローエンアンヴァ琥珀晶ってさ……よぉーく見ると、中に封じ込められたものが何なのか分かるんだよな……」

封雷の撃鉄・災に使用したものは琥珀の中で黒い 火花(スパーク) が散っていたし、今俺が握っている……そう、さっき水晶巣崖で採ってきた新鮮な琥珀晶の中では琥珀色に包まれてなお紅蓮に燃え盛る火が見えている。

特に使い道もないので結構な数の琥珀晶を持っているのだが、その中でもこの琥珀が一番すごそうな気配を漂わせている。

「ビィラック……ちょっと離れてろ」

確かローエンアンヴァ琥珀晶にはその質に応じたランク付けがあるらしいな。丁度いいじゃねぇか、クジ引きと洒落込もうぜ。

サウナ地獄と化した工房の中で、野球ゲーで培った豪腕の記憶が唸りを上げる。

「乾・坤・一・球!」

ゴルフボール程度の大きさに紅蓮を内包した琥珀が理想的な速度の後押しを受けて俺の手から放たれる。

我ながら喝采を送りたいくらいの見事なストレートで飛んで行った琥珀が光の中、熱に溶けて消え……

「おわ」

「んぎゃ」

次の瞬間、純白の光熱を放っていた炉の中が紅蓮一色に塗り替わる。琥珀の檻から解き放たれた炎が炉の口から余波を吐き出し、咄嗟にビィラックの盾となった俺の身体が木っ端微塵に砕け散る。

暗転からの明転。

「っは!」

リスポン! 兎御殿の方で一回セーブしといてマジ正解! でかした過去の俺ェ!

「サ、サンラクさん! 何だかやばい音がしたですわ!?」

「ビィラックの安否確認が先だ、行くぞ野郎ども!」

「乙女の危機だとぅ!? 我が旋風よ哮り舞ええええ!」

言葉通りに猛烈な速度で走って行った走って行ったアラミースに追走してビィラックの工房へと戻ると、そこには熱波の余波で吹き飛ばされたのか工房前の廊下で目を回すビィラック。そして先程までの猛威が嘘のように普段通りの光量に戻った工房があった。

「とりあえず生きてるか……」

適当に燃料入れたら暴発して娘さんがお亡くなりになりました、とかケジメじゃなくて 処刑(ケジメ) 案件になりかねない。ある意味では助かったが……

「おぉ乙女よ、ここはやはり愛する者のキスで……」

「死にや!」

「アゴァ!?」

兎の脚力でキックアッパーはあかんて……美しい軌道を描いてノックアウトされたアラミースに合掌しつつ、目を覚ましたビィラックに手を貸して助け起こす。

「ワリャ、なんちゅーもんをぶち込んでくれとるんじゃ……」

「いや俺もびっくり、まさかあんなに火力が増すとは」

「増すどころか 倍増(・・) しとったわ……じゃけん、朽ちた刃は完璧に蘇ったけぇ」

先程までの光と熱が嘘のように消失した炉の内部、全てを焼き潰したかのように思えたあの猛威の中でただ一本の剣だけがぽつんと残っていた。

「ついに真なる姿を取り戻した 英傑武器(グレイトフル) ……アラドヴァル・リペアってとこじゃな」

「おぉ……」

木の葉に走る葉脈の如く「火」を脈打たせる穂先の剣。冷静なようで呆けていたのか、重さと釣り合わない腕の力で持ち上げたためにふらついた刃が振りの力を感じさせない単なる落下で金床に……

じゅっ

「嘘ぉ」

熱した鋼を受け止めるだけあって、生半可な固さではないはずの金床がまるでチーズを溶かすかのように溶け落ちた。いやいや、刃じゃねーぞ剣の「腹」が当たってコレ?

「わぁぁたわけぇ! 床に置くな床にぃ!」

「うおお!?」

気づけば床を溶かしてズブズブ沈み始めていたアラドヴァルを慌てて持ち上げる。このまま持っていては危険と判断し、炉の中に戻してようやく全員が息を吐き出して肩の力を抜いた。

「なんたる熱量……まさか、先の劫火を全て一身に喰らったとでも言うのか?」

剣の形に溶け凹んだ床を眺めながらアラミースが呟く。

「流石の俺もこれを扱うのはちょっと厳しいぞ」

大剣ってのは盾として運用したり打撃武器として扱ったりもできるわけだが、そう言う運用をする場合は結構刀身に触れることが多い。だがこの剣でそれをやったら手が溶け落ちてもおかしくはない。まぁ尤も、敵に叩きつけても極めて有効な一打にはなりそうだが。

「わぁっとるわ……こりゃあ「鞘」無しにゃあ扱えん」

成る程、下手にインベントリアに突っ込んで大惨事になったら笑うに笑えないし、この極悪刀身を包み込む鞘があるならそれに越した事はない。

「でもでも、こんな熱々の剣をしまえる鞘とかあるんですわ?」

「それな、流石に剣より重い鞘はキツいぞ」

だが流石は「名匠」ビィラック、アラドヴァルの本質を見抜いた鍛冶師としての目は既に答えを導き出しているらしい。

「確かにこん熱に耐える鞘を拵えるにゃあ、あの炉を鞘に改造するくらいせんといかんじゃろうが……世ん中にゃあ魔法っちゅー便利なもんがあるけぇ、何とかなるじゃろ」

「具体的には?」

「エフュールの奴に手伝わせて水の力ぁ持つ鞘を作る、そん為には強い水の力を持つ素材が……」

ゴロゴロゴロ

・スレーギヴン・キャリアングラーの素材(余り)

・スレーギヴン・キャリアングラーが眷属にしてたモンスターの素材

・カイセンオーの素材

・アトランティクス・レプノルカの素材(余り)

・アルクトゥス・レガレクスの素材(余り)

・なんかもう大量にあるルルイアス産の海産物

「…………」

「…………」

にこぉ……と鼻から下が焼け落ちた凝視の鳥面で笑みを浮かべた俺に対してビィラックは長い長いため息をつくと……

「とりあえずはそん覆面の修理からじゃな」

「よろしくお願いしまーす!」

耐久がやばいんだよ。