軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

私の女子力は53万です

というわけで善は急げだ、ビィラックの奴がフリーズしてしまったので奴とアラドヴァルを熱する為の種火が必要になったわけだ。流石に兎月でもない武器の整備をヴァッシュに任せるのはなんか怖い……いや信頼的な意味じゃなくて好感度的な意味で。

「というわけでエムル、久し振りにサードレマに飛ぶぞ」

「わぁ…………あんまりこれといった思い出がないですわ」

「到着して即 外道(ペンシルゴン) に追いかけられたりしたなぁ……」

やっぱあいつ、一度キッチリ天誅した方が……いや、幕末理論を他ゲーに持っていくのはマナー違反で切腹案件だ。ランカー複数人に囲まれて介錯されてるの、傍目から見ててもクソ怖いからな……

そんなわけで転移、最初は水晶巣崖に寄って女体化解除しようかと思っていたが新規が溜まっているサードレマを抜けるならこっちの方が都合が良かろう。

「よしエムル、ガールズトークするぞ」

この言葉を聞いた瞬間のエムルの顔をスクショし忘れた事を、俺は後々まで後悔することになる───

「エムル、女子力足りてないよブーストかけてギア上げてけー」

「サ、サンラ…… 子(コ) サンに言われたくないですわ……っ!」

シャンフロでは見た目をどれだけ取り繕っても声帯だけは誤魔化すことができない。故にこそ見た目も声も完全に逆転させる聖杯の力はカモフラージュとしては最強クラスだ。

例え名前が「サンラク」であったとしてもこれまで目立ってきた「サンラク(男)」の印象が俺を守ってくれるのだ。

「というかなんで女の人用の服持ってるですわ……?」

「そりゃあ性転換アイテムゲットしたら作るでしょ……当然」

男状態の時にビィラックへ頼んだからそういう ケ(・) の無い俺ですらちょっとゾクッとくるような目で見られたが、目の前で実演して謂れなき中傷は回避した。

「ほらほら女子力アゲてくわよー!」

「う、うぅぅ……サンラ子サンが普通に女の人してるのがすごい違和感ですわ……」

はーお前、サンラクさんはその気になれば幼女にだってなれるんだぞ?

「わ、見たことない装備……可愛いね、あれどこで入手できるんだろう」

「サンラクってあの……?」

「いや、確かあの人って男キャラなんじゃないっけ?」

「じゃあ名前被りしたのかな」

「……ていうかなんであの人 煙ってる(・・・・) の?」

「さぁ? そういうエフェクトの防具なんじゃない?」

「隣の子も含めてキャラメイクの完成度たけー……」

「声的にガチ女プレイヤーか、なぁおい声かけろよ」

「バカ言え、どう見ても高レベルプレイヤーだ。声かけてどうするんだよ」

「こう、手取り足取り……」

「逆ならワンチャンあったかもな」

これ、見た目反転してこの姿になった俺のキャラメイクを誇るべきか、それともクターニッドが結構アレな奴だったのか……真相は海の底か。

サードレマを出てしばらくした瞬間、オーバーフローで全力ダッシュ。エムルには悪いがまた痺れてもらった……あっ、お前兎の脚力で頬を蹴るのはやめろ死ぬ! 体力1しかないんだぞ余裕で死ねるわ!

「ササソサンラララクコココササササン……」

「まぁ落ち着いてこれ飲めって」

状態異常を回復させたところで、さてと振り向けばそこには活動を停止した…… と思われている(・・・・・・・) 火山がその姿を堂々と晒していた。

まぁこっちの大陸で一番高い場所は気宇蒼大の天聖地らしいが、高さとか抜きにやはり山というものは見る者にある種の威圧感を与えてくるものだ。

「まぁ尤も、威圧感を撒き散らしてるのは俺なわけだが」

「わぁ……随分と気楽な登山になりそうですわ……」

リュカオーンの刻傷による俺以下のレベルのモンスターが俺を忌避する効果によって、全くと言っていいほどモンスターとエンカウントしない……つまりマジで単なる登山というわけだ。

「でもでも、どうやって湖の底まで行くんですわ?」

「インベントリア連打」

「あっ……」

格納鍵インベントリア最強伝説がまた一ページ追加されてしまったな……いやこれどれだけ弱体食らおうが「一切の干渉をシャットアウトする別空間に退避できる」なんて最強能力が腐るとかあり得ないだろ。

仮に戦闘中使用できなくなったとしても、今回のように息継ぎ目的でも有用……個人的には物理演算による運動エネルギーをリセット出来ることが最高にぶっ壊れだと思うぞ。

「………んゅ?」

「どうしたエムル」

「もしかして……アタシまたお留守番ですわ?」

「…………………………………………………………………………………………………………気づいて、しまわれましたか……」

俺、顔をそらす。

エムル、頬を膨らませる。

いやだってこのインベントリア一人用だし……そもそもシャンフロのシステム的に水中ってどういう判定なのかイマイチわかってないし……

「なんか最近都合のいい転移要員としか扱われてな気がするですわ!」

「いやだってさぁ、水晶巣崖一緒に行ったら死ぬじゃん?」

「嬉々として通い詰めるサンラクサンがおかしいんですわーっ!」

袋叩きの生態がクソ過ぎて実質俺が独占してる、ってのが気分良いよね。最近オイカッツォの奴がそれとなく攻略法聞き出そうとしてるけど誰が教えるかよ、テメーも蠍の袋叩きで吹っ飛ばされるバレーボールの気持ちになってから自分で考えろ。

「というかだなエムル」

「はいな」

「よくよく考えたら目的のブツを回収したら多分 自殺転移(デスポーン) するからどちらにせよラビッツに戻ぶべるっ!?」

「ここまでの苦労の八割が無駄ですわァーっ!!」

「仰る通りでぇぇぇー………」

跳躍からのサマーソルトが俺の顎に命中し、バランスを崩した俺はそのまま十メートルほど転がりながら山を降りる羽目になったのだった。

「分かっちゃいたが重い……つーか湖の上から更に機獣纏うとか機動力死に切るんじゃないか……?」

ゴリラと、アメフト選手と、重機を混ぜてロボにしたかのようなこれ以上ないほどに明確な「重量級」……日陰に繁茂した苔のような深緑と漆黒の二色を主とした重装甲、それこそが規格外特殊強化装甲【富嶽】の姿であった。

富嶽……富嶽……脳裏に浮かぶ苦行じみた挑戦の記憶がよみがえるがあの剣豪は関係ないのだろう、恐らく正しく「山」としてのネーミングだ。

だがそれならそれで 別の疑問(・・・・) が出てくるのだが、ユニークシナリオを通して割と世界の真実に足を踏み入れている俺としては大体答えは見えている。

結局のところ、認識の問題だ。超すげぇ科学は魔法と同じと言うがあれ厳密には違う、正確には「タネを明かさなければ科学を魔法と思わせられる」と言うべきだ……そしてこのゲームの世界観もそう言うことなんだろう。

「よし、行くか!」

「行ってらっしゃいですわ! じゃあ先にラビッツに戻ってるですわ!」

「骨折り損させて悪いな、あとでなんか買ってやるよ」

何せ大金持ちなので、な。

「じゃ、じゃああのクソ高い魔法も……」

「お前あれプライスの桁がイかれてる奴だろ……」

単なる魔道書が一億って、てかあれを買えと? もしかしてまだ怒ってます?

まぁ普通に買えるのでどうせなら久々にエムル強化計画再始動するか、なんて考えながら俺は栄古斉衰の死火口湖……その山頂に在る巨大な湖へと飛び込む。

ヴァッシュが語ったこのエリアの真実、虎をバターにするのと同じ感じの謎パワーで先々代「赤竜」を物理的に蓋として火山活動を停止させたのだと言うこの死火山には浅瀬というものが存在しない。

言うなれば巨大なクッキー生地の塊に指を突き刺してまな板まで押し込んだようなものだ、シャンフロってシステム的な物理法則は完璧だけど世界観的な物理法則はガバガバだからな……コップが光るだけで性転換されるんだから細かいことは気にしていられない。

沈みゆく【玄武】は稼働の光を宿してはいない。当然だ、リアクターはオイカッツォが保有しているのだから正真正銘ただ重いだけの鎧でしかない。

無論水中で酸素を供給するシステムがあるはずもなく、一分もすれば窒息死するわけだが……

「自分で縛りを入れてもいいレベルで便利過ぎる……」

格納空間に転移、存分に空気を吸い込んだらMP回復ガチャをぶん回し、再び潜行。

あとはもう単なる作業だ、浮力をねじ伏せる重量で底へ底へと沈み、定期的に格納空間で酸素と魔力を補充し……そして遂に現実空間で俺の足が何かを踏みしめた。

「悪いな、踏みつけちまって」

ヴァッシュの言葉が正しければ、今俺が地面として踏みしめているものこそ、はるか太古にジークヴルムによって屠られた「赤竜クレプトクルム」の成れの果てだ。