軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

98話 おすそわけしてみた

ローナがおすそわけをすることを決めていた頃――。

「……さて、ここが調査しろと言われた屋敷ね」

焼滅の魔女エリミナ・マナフレイムは、“恐怖の館テラーハウス”の前に立っていた。

聞くところによれば、この屋敷は1か月ほど前に、なんかいきなり生えてきたらしい。

とはいえ、鍵もかかっているうえに扉も窓も壊せないため内部の調査はできず……ひとまず実害もなさそうだと放置されていたのだが。

『最近、裏で世界を滅ぼそうとしている邪教団の幹部みたいな集団が出入りしている』

『いきなり屋敷内に竜巻が発生したような爆発が起こる』

『封印されていないとまずそうな怪物が庭を徘徊している』

……などなど。

ここ最近、やたらと不穏なことになってきたらしい。

さすがに、放置しておくわけにもいかず、この屋敷の再調査をしようという話になったものの。

あきらかに強大な魔人みたいなのが庭を闊歩しており――。

そんなこんなで、おはちが回ってきたのが、魔人を倒した実績のあるエリミナというわけだ。

(いや、というか、なんで私がこんなことを……)

と、エリミナはここまでの経緯を思い出す。

『――うぅ、ローナ・ハーミットが人類に反乱を……はっ、夢!? あれ、私のパーティーは!?』

『おおっ! 目が覚めたか、エリミナ殿!』

『へ、へへ、陛下!? ご、ご機嫌うりゅわしゅっ!?』

『それより聞いたぞ、エリミナ殿。貴殿がまさか人類のために最前線で戦うことを望んでいたとはな』

『…………へ?』

『もともとは安全な内地で保護する予定だったが、そういうことならば希望には応えよう』

『……え? ちょっ、待っ――』

『うおおおおっ! エリミナ様こそが真の英雄だ!』

『人類の英雄エリミナ万歳!』

『魔族よ、恐れるがいい! 人類にエリミナあり!』

『……………………』

『ところで、さっそくひとつ依頼があるのだが……よいかな?』

『――いいですとも!』

そんなこんなで、国王からの覚えがめでたくなり、直々に依頼を受けるにいたったわけだが。

(ま、まあ……国王ともなると、私の内面からにじみ出るエリートさが“わかって”しまうのかしらね? それに、依頼も思ったよりも簡単そうだし――)

と、エリミナは改めて屋敷を見る。

そこにあるのは、とくに変わったところのない立派な屋敷であり……。

(な、なんか聞いてた話と違うというか……普通の屋敷っぽいわね。掃除もされてるし、普通に誰か住んでるんじゃないの?)

ここに来る前に、王宮学者たちが、

『古代の生物兵器研究所があった地かもしれない』

『世界を滅ぼせるほどの生物兵器が封印されているかも』

などと脅かすような話をしてきたせいで、

『な、なによ、このやばそうな案件はぁ!? ノリで受けちゃったけど、無理無理無理ぃっ! 私にできるわけないでしょぉっ! エリミナ、おうちに帰る!』

と、ちょっと涙目になったりもしていたが。

(ふ、ふふ……あははははッ! ないない! 冷静に考えてみれば、そんなやばいものが王都の中に堂々とあるわけないじゃない! そんなの放置してたら、とっくに国が滅んでるっての! どうせ、裏社会のごろつきがたむろしてるとか、その程度でしょ? ……まったく、こんな楽な仕事で陛下の覚えもよくなるなんて、ようやく私にも運が向いてきたわね)

結局のところ、迷信のせいで必要以上に恐れられていただけなのだろう。

あるいは、『英雄エリミナに安全に実績を積ませよう』という国王の配慮なのかもしれない。

なにはともあれ、エリミナの調子も出てきたところで。

「ふふふ……さて、まずは 挨拶(ノック) 代わりに、玄関に獄炎魔法をぶちこんであげるわ。焼け滅びなさい――エリミネイトフレイ……」

「――あっ、エリミナさんだぁっ! こんにちはーっ!」

「ムぶふぅううううううぁあああああああああああああ――ッ!?」

「わぁあっ!? エリミナさんが爆発した!?」

いきなり玄関から出てきたローナ・ハーミット。

びっくりした拍子に暴発する獄炎魔法。

とっさに魔法の軌道を地面にそらした結果、爆発するエリミナ……。

それが、今の一瞬に起きたことであった。

そんなこんなで、エリミナが爆発したあと。

エリミナはボロボロの姿で正座しながら、ローナと改めて向き直った。

「あ、あのぉ、エリミナさん? どうして、うちの玄関で急に爆発したんですか?」

「い、一発ギャグですぅ……」

「なるほど! とても面白かったです!」

「お、おもしろ……? いや、というか……え? 今、ここを“うち”と言いました?」

「え? あっ、はい! ここは私の家なんですよーっ!」

と、どこか得意げに答えるローナ。

ここでエリミナは、これまで見聞きした情報を思い出してみた。

――世界を滅ぼせるほどの生物兵器が封印されている家。

――王都商人の間で噂されている『ローナ=最終兵器説』。

――(ローナは)『人類に反乱を起こそうとしている』『世界を5回は滅ぼせる』とか言っておったの!

「…………なるほど」

エリミナの中で、今――全てがつながった。

「? エリミナさん、どうかしましたか? なにか、『知ってはいけないことを知ってしまった』というような顔をしていますが……」

「……私はなにも知りません。ローナさんは裏表のない素敵な人です」

「ありがとうございます?」

きょとんと首をかしげるローナ。

「あっ、それより。もしかしてエリミナさん、この家になにか用が?」

「い、いえ、ただ通りかかったついでに、玄関先で爆発しただけですぅ……」

「そうでしたか! それならよかった……というのも変ですが、今はちょっと“掃除”の途中でして。まだ家の中に血のシミとかがたくさん残ってて汚いので……また今度遊びに来てください!」

(…………こ、怖いよぉ……)

と、なごやかに話をしていたところで。

ローナはなにかを思い出したように、「あっ!」と声を出した。

「そうだ、ちょうどよかったです! エリミナさんにも野菜のおすそわけしたいなって思ってまして」

「お、おすそわけ?」

「えっと、どこにしまったかな……アイテムボックスそろそろ整理しないと……あれでもない、これでもない――あっ、これです!」

「!?!?!?」

「あっ、間違えて“無”をタッチしちゃった……えっと、エリミナさんにわたしたかったのは、これです!」

なんか一瞬、見てはいけないものを見てしまった気もするが。

とりあえず、ローナが虚空から取り出したのは、人間の頭ほどもある瓜のようなものだった。

(……えっ、なに? 見たことないものだけど……本当にただの野菜? 隠語とかじゃなくて? それか賄賂かなにか? エリミナもうわかんない……)

と、ひたすら困惑するエリミナ。

「えっと、これをどうして私に?」

「ああ、それは……えへへ。この綺麗な赤い色が、エリミナさんにはお似合いだと思いまして!」

「赤?」

「あっ、その状態だとわかりませんよね。えっと、この“すいか”はこうやって……棒で割って食べるんですよ!」

ローナはそう言って“すいか”を地面に置くと、棒を振り上げ――。

「え~い♪」

――――ぱんッッ!!

と、人間の頭ほどもある“すいか”が、勢いよく破裂した。

「…………ぇ……?」

――ぴしゃっ、と。

真っ赤な果肉がしぶきのように爆ぜ散り、エリミナの頬に付着する。

(わ、わぁっ!? 力加減、間違えちゃった!? そっか、またレベルが一気に上がっちゃったから……うぅ、この世のものはもろすぎるよぉ……っ)

と、ローナがあわあわしている一方で。

「………………」

エリミナは改めて“すいか”を見る。

いや、そこにあるのは、先ほどまで“すいか”だったものだ。

人間の頭ほどの果実が、ローナの怪力によって情け容赦なく叩き潰され、綺麗な赤い果肉をのぞかせており――。

『――えへへ。この綺麗な赤い色が、エリミナさんにはお似合いだと思いまして!』

「…………なるほど」

エリミナは、全てを理解した。

この“すいか”は、エリミナの未来を暗示しているのだと。

つまり、ローナ・ハーミットは、『“すいか”=エリミナ』と言っているのだと――。

「……うーん、この“すいか”はもうダメそうかな」

「え?」

「代わりはたくさんあるし……これはうちのペットに食べてもらって、新しいものと交換を……」

(交換される!? ペットのエサにされる!?)

エリミナは、がばっと“すいか”を背中でかばった。

「ま、待って……待ってください! この“すいか”はまだ頑張れます! この“すいか”だって……この“すいか”だって生きてるんです! だからどうか、この“すいか”にもお慈悲を! もう一度だけチャンスを――ッ!!」

「え? あ、はい」

なぜか、泣きながら“すいか”をかばうエリミナ。

(そっか……エリミナさんは、“すいか”のために涙を流せる優しい心の持ち主なんだね。やっぱり、エリミナさんは聖女みたいに優しい人だなぁ)

「えぐ、えぐ……はぐはぐ……“すいか”おいしいですぅ」

(えへへ、エリミナさんのこと、もっと好きになっちゃった!)

そんなこんなで、ローナのエリミナへの好感度がさらに上がり。

エリミナに“すいか”を追加でおすそわけして別れたあと――。

「――エリミナさん、ひとりで行ってしまったけど大丈夫かな。やっぱり、前衛はいたほうが……って、あれ? ローナさん?」

「あっ、ラインハルテさん」

エリミナと入れ違いに、雷槍をかついだ金髪の青年がやって来た。エリミナの付き添いで王都に来ていた、元衛兵で今は冒険者をしているラインハルテだ。

最近、屋台コンテストでかき氷の屋台を手伝ってもらったりもしたが――。

「まだ王都にいたんですね」

「はい。いい機会なので、僕も王都を拠点にすることにしまして。近くにダンジョンもたくさんありますし、冒険者としていつかは王都に拠点を移したいと思ってたので」

「なるほど」

「まあ、もともとは雷槍術と相性のいい港町アクアスを拠点にしてたんですが……いつの間にか現地の冒険者の面構えが変わっていたり、謎の城壁やトラップタワーというものができていたりで、よその冒険者には参入の余地がなくなってまして」

「そ、そうだったんですね……」

とりあえず、この話題はよくないなと、ローナは話を変えることにした。

「あっ、そうだ――これ、おすそわけです。うちで採れた野菜と……あとこっちのは“ばーべきゅぅ”です!」

掃除のあとの打ち上げで、つい焼きすぎてしまっていた“ばーべきゅぅ”の肉――を焼き網台ごとアイテムボックスから取り出す。

冒険者なら“ばーべきゅぅ”が好きそうだなと思ったが、それは正解だったようで。

「へぇ、これはいいですね! 意外とありそうでなかったというか……冒険者には絶対に流行りますよ、“ばーべきゅぅ”!」

と、ラインハルテは少し興奮気味に太鼓判を押してくれた。

「外でおいしいものを食べられるのは、やっぱり士気に大きく関わりますしね。あと“ばーべきゅぅソース”は風味も強くてなんにでも合うので、現地調達したものも食べやすくなりますし。それから宴会の形式としても流行りそうで――えっ、すでにドールランド商会が動いてる? あの大商会を動かすだなんて、さすがローナさんだなぁ」

(あいかわらず、すごい長文だなぁ……)

と、ちょうどドールランド商会の名前が出たところで。

「……ローナの家の庭に、謎の建造物ができたと聞いて」

「やっはー、ローナ。まーた、なんかやってんの?」

「あっ、メルチェちゃんにコノハちゃん! ちょうどよかったです!」

「ちょうどよかった?」

というわけで、メルチェとコノハにもおすそわけをする。

「あっ、スイカじゃん。これなら、あたしのデータにあるよ」

「えっ!?」

「……や、なんで驚くのさ。これって、あれでしょ? 最近、砂漠地帯にいきなり生えてきた新種の瓜だよね? この辺りじゃまだ珍しいし、かなりのレアもんだろうけど――えっ、1時間ごとに自動で収穫できる? 雷結晶回路? ま、待って、ストップ。それ以上は聞きたくない」

「……くすくす。やっぱり、ローナは最高ね。これは、いずれ電気の時代が……今のうちに、エレクの雷湿原の資源を独占しておけば……」

「あっ……僕、雷湿原なら探索経験ありますよ」

「……っ! なるほど、ローナは最初からここまで計算して……くすくす……いける、いけるわ……自動化……産業革命……発電所と送電網……やがては、“ローナ 電気動力株式会社(カンパニー) ”を創設し、この世界の 社会基盤(インフラ) の支配を――」

よくわからないけど、メルチェがいつになく楽しそうだったので、よかったなぁと思うローナであった。