作品タイトル不明
第二百二話
「伊藤さん!おはようございます!」
日向さんが、探索者として鍛えられた身体能力を惜しげもなく使いながら、こちらに駆け寄ってくる。
下手すると抱き着いてきそうなほどの勢いに、俺は一歩、後ずさりしつつも、笑顔を浮かべた。
「おはようございます、日向さん」
(やけに、なつかれているんだよな)
距離が近いとか、気に入られている……というか、なつかれている。
動物が心を許して、至近距離で接してくるような感じであった。
「はいはい、さっさと行きますよ」
こんな中でも、自身のスタイルを崩さない東雲。
そもそも、Sランク探索者に食って掛かれるだけの胆力があるのだから、当然のことではある。
それが彼女の良いところでもあるので、俺としては今後もその調子のままでいてくれたほうが、助かるのだが。
(チームだから、むしろそっちのほうが、いいよな)
こうして、俺たちは東京にいた頃と変わらない雰囲気で、トレーニングルームを出るのだった。
◆◆◆
四駆に乗って、俺たちは攻略間近の【北海道第七ダンジョン】という、中堅下位クラスの探索者が主に探索しているダンジョンに向かっていた。
ダンジョンにはモンスターが存在しているわけであるが、当然、モンスターの強さもダンジョンによって違う。
北海道第七ダンジョンのモンスターは、レベル100~300程度の探索者が相手できる水準に収まっており、レベル的にはそれよりも遥かに高い俺たちの連携には持って来いだ。
あまりにもモンスターを乱獲していると、探索者協会にそのダンジョンへの立ち入りを制限されたり、探索者としての資格を一時停止させられることもあるので、自身のレベルに対して、低い水準のダンジョンを探索する際には注意が必要である。
だが、それは問題はない。
ストッパーとして、東雲のような存在がいるし、こういった探索で必要以上に狩りをする質の人間はいない。
「残り三階層、頑張りましょう」
東雲の言葉に、俺を含め他のメンバーは頷く。
ダンジョン攻略という面では、このチームは問題なく進められていた。
個の能力もそうであるが、性質が個人向けであることが、逆にそれなりに上手い連携として機能していたこともある。
戦えば戦うほどに、呼吸は合っていくし、チームとしての強さは日を追うごとに増していっていた。
(あとは、ちゃんと連携できるようになれるかだな)
強さが増しているものの、一般的なチームの戦術的な、理論化された戦術を上手く適応できているかというと、そこまでの領域にはいない。
現状は、あくまでも経験の蓄積に伴う、感覚的な連携が実戦でなされているにすぎない状況なのだ。
(これをどこまで上げれるかだ)
経験的なモノをより引き上げていき、戦術的な連携に変えていきたい。
それはチーム全体の気持ちであるが、はたして上手くいくのかは分からなかった。
(全員、感覚が強すぎるんだよな)
俺を除き、全員が天賦の才を持っている為、なんだかんだ上手くいってしまうのである。
経験的なモノによる連携が悪いと言ったら、そうでもないのだが、明星では、理論的、戦術的に確立された連携をこなせるようになることが求められていた。
(日向さんのためにも……俺のためにも、頑張らないと)
折角与えられた役割をできる限り、上手くこなしたい。
そして、少しでも恩を返したい。
そんな気持ちが、俺の中で小さくではあるが、渦巻いていた。