作品タイトル不明
第百八十四話
半ば放心状態に陥っていた俺であるが、現在は【摩天楼】の探索に移行していた。
先程の衝撃はかなりのものであったが、よくよく考えてみると、割と理不尽な攻撃手段を持っているのは俺も同じだと思ったからだ。
そもそも、汎用性を考えると、魔術というのは理不尽の極みである。
ゆっくりと体をダンジョンに馴染ませるように、行進していくことで、緊張をほぐしていき、戦える身体に戻していく。
(圧巻だったな)
前に進みつつ、篠森さんの方をちらりと見る。
Sランク探索者、篠森葵の強さの一部を垣間見ることができたのは、非常に貴重なことであった。
これまでの印象では、強烈な性格の部分が印象深かったが、あそこまで圧倒的な強さを保持しているのであれば、あのような性格も納得である。
東雲然り、桁外れに強い人間は、その分、ねじの外れたような性格を持っている。
俺の中で、篠森葵の性格と実力が完全に一致していた。
「なんか、ごめんね」
よそよそしい態度を見せている篠森さんに、手ぶりで問題ないことを伝える。
【魔術】というスキルが見せた記録の中には、先程見せつけられたスキルと同程度のものも多く存在しており、それ自体に驚いたわけではない。
勿論、衝撃がなかったわけではない、というか、明確に衝撃を受けた点が一つあった。
(俺が驚いたのは、スキルの掌握具合なんだよな)
スキルは、スキルオーブを使用することによって得ることができる。
ダンジョン発生前であれば、超能力や異能と呼ばれていたソレは、現在では探索者に必須な重要な技能となっていた。
スキルを持っていない探索者などいないし、スキルの強さは探索者の将来に大きく影響する。
(あんなに完璧に操れているのは、本当に一握りだからな)
当然、スキルの使い込み具合によって、同じスキルであっても、その強さに違いが生まれる。
既に保有しているスキルを取得することで、スキルが同化し、スキルの効果が上昇するケースもあるが、それとは別にスキル保持者の経験は効果の汎用性や増減に大きく作用していた。
俺が使う魔術は、それこそ史上最高峰の使い手の経験・技術を模倣しているようなものであるが、篠森さんが先程使ったスキルは、それと遜色ない水準のものであった。
つまり、それだけの修羅場を潜り抜け、スキルの有効性を検証し、把握、更に更新するといった過程を果てしない数でこなしたということになる。
「篠森さんに聞きたいことがあるんですが」
「なになに、スリーサイズ?」
「そうではなく、スキルについてです」
篠森さんが声を弾ませて、俺の頭が痛くなりそうなこと言ってきたが、それをスルーし、質問する。
こうした返答に困る返しをしてくるので、本当に気が抜けそうになるが、相手はSランク探索者である。
日本最強の探索者なので、気を抜きすぎないようにしたい。
「どうやったら、あそこまでスキルを使えるようになるんですか?」
その言葉に篠森さんは目を細めた。
雰囲気が重くなり、ゆっくりと視線が俺の目に当てられる。
(切り替わりがエグイんだよ)
常にSランク探索者の見本のような姿勢であって欲しいのだが、ストレスも凄そうなので、そうもいかないのか。
俺はそんなことを考えて気を紛らわせながら、圧力に心が委縮しないようにする。
「生き残ること」
ただ、静かに彼女は言った。
答えは実にシンプルであり、誰でも思うことである。
なんてことない、軽いトーンであったが、それは短期間で強くなった俺でも身に染みていることである。
だが、その重みは明確に違う。
彼女と俺では出せる言葉は同じでも、伝えられた時に感じさせる重みは明確に違っていた。
「それに関しては私も同意見ですね」
隣を歩いている東雲も感慨深げに頷いている。
きっと、東雲もその言葉に重みを持たせられる一人なのだろうと思った。