軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百八十三話

未踏破ダンジョン、摩天楼の中は意外にも居心地のいい空間であった。

どこまでも続く草原と暖かな風によって、ビルとダンジョンに囲まれた東京とは異なる、清々しさを覚えるような場所である。

「どう、結構いいでしょ」

篠森さんが自信ありげに言う。

実際、空気の美味しさは内部が森林であった、長野第五ダンジョンほどではないが、無限とも思えるような草原に立つというのも、これまた別種の気持ちよさがあった。

これまでは、世界中を旅しないと味わえない、もしくは世界中のどこを探しても体感することのできない、風景、空気をダンジョン内で味わえる。

モンスターを討伐することで利益を得ている俺たちであるが、探索者という名称は思ったよりも正しいものなのではないかと感じていた。

(モンスターがいなければ、入場料を取れるかもな)

だが、ここはモンスターが生息する、ダンジョンである。

それも、プロと認識される、Bランク探索者でも命の危険があるほどに強力なモンスターが当たり前にいる空間だ。

Bランクになりたての俺が油断していい空間ではなく、先程までの弛緩していた意識を引き締める。

「伊藤さん、モンスターの情報は頭の中に入っていますか?」

東雲がスッと隣に立ち、聞いてくる。

摩天楼、第一階層は十種類ほどのモンスターが生息しており、ダンジョンの入り口付近に生息するモンスターは三種類ほどであった。

「ワイバーン、ゴーレム、ゴブリン・ウォーリアーだったよな」

どれもファンタジーにおける代表的なモンスターであるが、これらのモンスターはどれも群れを成して生息している。

このダンジョンの恐ろしい側面として、階層内で生存競争が行われていることだ。

一般的なダンジョンはモンスターと探索者は敵対関係にあるが、モンスター同士では敵対関係にはない。

モンスターは、ダンジョンという城を守る兵士であり、探索者という外敵を排除するだけの存在だ。

しかし、摩天楼では、ダンジョン内の各種モンスターが対立しており、争っている。

ゴブリン・ウォーリアーは探索者の排除だけでなく、ワイバーンを弓矢で狩ったりするし、逆にワイバーンはゴブリン・ウォーリアーを捕食したりする。

ゴーレムは基本的には中立的であるが、縄張りに入られることを嫌っており、他のモンスターが近づいてくると攻撃する習性があった。

モンスター同士が共存しているのではなく、敵対する中で生存しているのが、このダンジョンのモンスターの大きな特徴だ。

(だからと言って、探索者と敵対関係にあるのは変わらないがな)

モンスター同士が敵対関係にあるからと言って、探索者を見逃すわけではない。

当然、探索者とは常に敵対関係にあり、邂逅した際には戦い以外の道はなかった。

「あと、厄介なのがレアモンスターだよな」

生存競争によって、他のダンジョンとは異なるタイプのレアモンスターが生まれることがある。

一般的なレアモンスターは通常種とは別種のモンスターであるが、ここでは長く生存することで個としての能力を高めていき、レアモンスターに変異するケースがあった。

生き残った結果として変異したモンスターは、狡猾で残忍で、生存する能力が高い。

逃亡を前提にした戦いや特定の探索者を覚え、観察し、有効な戦法を取ったりもする。

摩天楼のレアモンスターは高い報酬以上に危険性の高い存在とされていた。

「じゃあ、そろそろ、気を引き締めて行こうか。モンスターも来ているし」

そう言った篠森さんの視線の数百メートル先には、武器・防具を装備したゴブリンの集団がいた。

「あっ、でも、私の実力を伊藤君やヴァルちゃんは知らないんだよね」

篠森さんが手のひらをゴブリンの集団に向ける。

「【深淵】」

突如、靄がかった闇がゴブリンの集団を包み込み、たちまち収縮していった。

「グロテスクなのは苦手だよね。じゃあ、少し時間をかけてっと」

篠森さんは日常会話のようなトーンで言うと、更に闇を圧縮させた後、霧散させる。

そこにはゴブリンの肉体も、武器や防具も、闇の残滓すらない。

「ざっと、こんな感じかな。どう?凄いでしょ」

篠森さんが摩天楼に入った時と同じように自信ありげに言うが、俺は目を見開いたまま硬直していた。

「あの、貴方は伊藤さんにどんな反応を求めてるんですか?」

呆れたトーンで発された東雲の言葉も、俺の耳にはまともに入ってこない。

それほどまでに、俺はSランク探索者の強さに、ただただ圧倒されていた。