作品タイトル不明
第百二十話
肉の焼ける音が響き、煙が宙を 揺蕩(たゆた) う。
特にアクシデントに見舞われることもなく、地上へと帰還した俺たちは、素材の売却など諸々を済ませ、近場の焼き肉屋へと足を運んでいた。
「そろそろ、焼けそうだぞ」
ちなみにここの焼き肉屋で出される肉は、当然のことながら、ワイバーン肉である。
数十年前は牛の焼肉がメジャーだったそうだが、ワイバーン肉の普及によって、焼肉の定番もワイバーンの肉に置き換わっていた。
(楽しみだな)
ここのワイバーン肉は、かなり品質の高いものを仕入れているらしい。
元々、ワイバーンの肉は大好物である。あの肉々しさは勿論、脂の味も良い。
一体どんな味がするのか、俺はかなり気になっていた。
「先に乾杯でもしましょうか」
東雲の言葉に、俺とヴァルが頷くと、各々がジョッキやグラスを手に取る。
「「「かんぱーい!」」」
ジョッキが心地い音を響かせた後、俺はビールを呷った。
「ぷはぁ…結構高額で売れたな」
最高の一口を味わった俺は気分よく、言葉を発する。
例に漏れず、探索者協会の支部で素材を売却したのだが、ユニークモンスターである、ハイ・ライカン・スケルトンの骨は、粉々になっていたにもかかわらず、かなり高額で売れた。
なんとその額、800万円。
ユニークモンスターの素材は希少性が高く、かなりの値が付いた結果であった。
「早速食べてみるか…うっま!?」
ヤバいな。美味すぎる。
肉の風味もそうだが、普段食べるワイバーン肉よりも脂の甘さが上質であった。
なにより、舌で押しつぶすようにすると肉の繊維がほどけるようにして、溶けてなくなるのが印象的であった。
「ユニークモンスターの素材はかなり高額で売れますからね。むしろ安いくらいですよ」
東雲はジンジャーエールの入ったグラスをテーブルに置きながら、軽く息を吐いた。
俺はワイバーン肉の世界から一旦離れ、思考を先程の話題のものに戻す。
(ただ、天井は低いんだよな)
ユニークモンスターの素材は、装備に使ったとしても広く普及させることが困難であり、大抵が研究に使われてしまうため、実は下限が高いものの、天井は思ったよりも低い。
その辺りは前職の関係上、多少は知っている。
そんな雰囲気を出していたから、東雲は再び口を開いた。
「ですが、ユニークモンスターの場合はオークションに掛けられるので、最終売却額が大きく上回った場合は追加で報酬もありますから」
「そうなのか、初耳だ」
俺はビールを再び呷り、肉を網の上に乗せていく。
「普通は耳にしないですからね。私が伝えなくても協会側から連絡が入っていたと思いますよ」
意識は再び焼肉に…戻ることなく、東雲に視線を向けたままだ。
「それもそうだな……。東雲はやけに詳しいが、やっぱり倒した経験があるのか?」
妙に詳しいというか、言葉に実感がこもっているので、俺としては少し引っ掛かりを覚えた。
「ありますよ」
(実体験が元なら、言葉に重みがあって当然か)
東雲一花の探索者としての経験は、俺よりも圧倒的に上であり、踏んできた場数も桁が違う。
むしろ、ユニークモンスターと戦った経験がない方が、怖いまであった。
「だいぶ前のことですけどね。モンスターを倒しまくってたら、妙に強いのと当たりまして、売却時にユニークだと判明しました」
「そう…なのか。いや、普通は戦う前に気づかないか?」
ヴァル然り、ハイ・ライカン・スケルトン然り、ユニークモンスターは明らかに異様な存在である。
普通に対面すれば、他のモンスターとの明確な格の違いから、瞬時に気づくものだ。
「かなり集中していましたし、ちぎっては投げみたいに、向かってくるモンスターを一方的に倒してましたから」
「……恐ろしいな」
それはモンスターがではない。東雲がだ。
どれだけの集中力を持って戦っていれば、そうなるのか。
当時の光景はイメージでしかないが、まさに蹂躙と言っても差し支えないありさまとなっていたことだろう。
「その時はソロで活動していましたし、チーム適正のモンスターを狩ってましたから、油断していると逆にやられる可能性もあったので」
(それをねじ伏せていたわけだから、自然と強くなるのも道理だな)
一般的に探索者協会が公開しているモンスターの情報は、チームで討伐する際の難易度だ。
ソロでの難易度はワンランク上になるので、例えば、Bランク探索者がソロで活動する際には、Cランク探索者に推奨されているモンスターを狩ることになる。
才能のある人間が、厳しい環境で鍛錬をしているわけだから、常人では追いつけない領域に行くのも当然である。
(だが、そんなことよりも今は肉だ)
ちなみにヴァルであるが、無言でひたすら肉を食べまくっている。
今日ばかりは俺もヴァルには負けてられない。
そんなことを考えつつ、俺は焼けた肉を口に入れ、舌鼓を打つ。
(うまい)
こうして、焼肉パーティーはつつがなく進んでいった。