軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百十八話

「ヴァル、どうしたんだ?」

俺の呼びかけにもヴァルは答える素振りを見せず、彼女が手にぐっと力を込めると、丈夫なはずの魔核は木端微塵になった。

(おい……?)

ヴァルの行動にあっけに取られたのも束の間、破片となった魔核は輝き出すと、彼女へと吸い込まれ、霧散していく。

突然の現象に、驚き疲れた俺は黙って成り行きを見ていた。

10秒ほど経過すると、破片は跡形もなく消え去っており、そこにはヴァルだけが残っている。

「うん。これでしゃべれる」

「は?」「え?」

耳が溶けてしまいそうなほどの美声が、森に響く。

俺の記憶が正しければ、ヴァルは少しずつ言葉を喋れるようになっていたが、ここまで流暢には話せないでいた筈だ。

「ごしゅじん、よろしく」

(いや、ちょっと待って。ご主人ってなに?そんな風に呼んでたの?)

戦闘後の高揚感も相まって、頭がおかしくなる。

俺が口をポカーンと開けたままにしていると、ヴァルがこちらにトテトテと近づいてきた。

「ごしゅじん、ぎゅ~」

ヴァルが少し屈むようにすると、下から、ぎゅっと抱き着いてきた。

「え?」「は?」

東雲が滅茶苦茶低い声を出していたような気がしたが、それよりも、突然ヴァルに抱きつかれ、俺の脳が完全にフリーズする。

そこから、数十秒か数分か、もしくは10秒も経っていないかもしれないが、時間が経つとともに思考が戻ってきた。

(柔らかっ、温かいし…って、あれ?)

思考が戻ったからこそ、ヴァルの異変に気付く。

ヴァルは元々自動人形のユニークモンスターが変異した存在であり、人肌のような感触はしていなかったはずだ。

体温も低く、人間というよりも人形に近い存在であった。

しかし、今のヴァルから感じられるソレは、完全に人間のモノである。

「うれしい?」

ヴァルが上目遣いでこちらを見る。

想像以上の破壊力に、俺は思わず目を背けた。

「あの~親睦を深めてもらっているところ、悪いんですが、壊した魔核、どうするんですか?」

「え…?」

魔核……?

そういえば、魔核を壊して、ヴァルが喋れるようになったんだったか。

思考が戻っていたと思っていたが、俺の頭は湯上がっていたようだ。

「え?じゃないですよ。ユニークモンスターの魔核なので、一個で一千万は超えます」

(いっせんまん?)

金額が金額なだけに、再びフリーズしかけるが、心を落ち着かせ、何とか冷静さを取り戻す。

Bランク相当のモンスターは素材の売値も高額であり、Cランク相当のモンスターよりも遥かに高い。

(その上、ユニークモンスターともなれば…)

俺はヴァルをどかすと、速攻で頭を下げた。

「すみませんでした!」

俺に続いて、ヴァルも頭を下げる。

「ごめんなさい」

流石にことの重大さが分かっているようで、ヴァルが申し訳なさそうなトーンで謝っているのが聞こえた。

「分かりました」

東雲は少し逡巡した後、謝罪を受け入れてくれた。

「ありがとう」「ありがとう、ございます」

東雲はAランク探索者並みの実力だそうなので、はっきり言って俺たちとの探索では小遣い稼ぎ程度にしかなっていないだろうが、持っている金の価値が下がるわけではない。

それに何より、一緒に戦って得たものを勝手に使ったのだから、怒って当然なのである。

割とあっさりと許してくれたのは、俺たちに心を許しており、彼女自身が優しい心を持っているからに過ぎない。

と、俺は東雲の心に感嘆していたのが、次の言葉に背筋が縮み上がる。

「ただし、今度二人で出かけてもらいますからね」

「ヴァルと二人でか?」

それなら納得である。

ヴァルと東雲は二人でショッピングもしていたし、壊した張本人だからな。

「違います。伊藤さんとです」

(ですよね~)

実のところ俺の方を見て、はっきり言っていたので、流石に分かっていた。

ただ、現実逃避をしたかったのである。

一見すると可愛らしい少女にしか見えないが、実際には泣く子も黙る鬼すら討伐する、探索者である。

俺も散々ボコボコにされてきたのだ。

そんな相手と二人っきりでどこかに行くことを誘われれば、嬉しい感情よりも先に恐れが出る。

「いや、俺なんかと出かけてもつまらない「つべこべ言わない」はい…」

(役得と考えるか)

美少女である東雲と二人で出かけられるなんて、昔の俺では考えられないシチュエーションだ。

(まあ、鬼よりも恐ろしい存在だが)

「なんですか?」

東雲が俺の邪念を感じ取ったのか、ニコニコと凄味のある笑みでこちらを見てくる。

ヴァルの時とは別の意味で、俺は目を背けた。

「ナンデモナイデス」

こうして、俺はヴァルが魔核を壊したことを不問とする代わりに、東雲と二人で出かけることになるのであった。