作品タイトル不明
第百一話
ごたごたがあった次の日の朝、俺たちはホテルの近くにある喫茶店で、打ち合わせも兼ねて朝食を取っていた。
「伊藤さん、それでは少なくないですか?」
俺はコーヒーを啜りながら、東雲の視線の先にある、先程運ばれてきたトーストとゆで卵を見る。
「そうか?これからダンジョンに潜るんだから、こんなものでいいと思うが?」
俺はプレートにあるジャムを塗ると、そのままトーストにかじりついた。
ジャムのほどよい甘さが口の中で広がり、しっかりと焼き目のついたトーストとよく合っている。
「もしかして、ヴァルを見て言っているのか」
ヴァルはこれからダンジョンを探索するにもかかわらず、朝からサンドイッチを五つ注文していた。
「?」
視線を受けて、ヴァルがキョトンとした表情を浮かべながら、サンドイッチを吸い込むようにして食べていく。
「流石にこの量は多いぞ」
「そうですね、流石に多いですよね」
俺と東雲が顔を見合わせている間に、皿の上から凄い勢いでサンドイッチが消えていき、俺がトーストを再びかじる頃には、残すサンドイッチは一つとなっていた。
「美味しいか?」
やや唖然としながら出した俺の言葉に、コクコクと何度も頷くヴァル。
長野に来てから、ヴァルは食に興味を持ち始め、魔力以外を摂取する以外に、食事を取るようになった。
おそらく、レベルか何かが一定の水準に達したのだと思うが、推測の域を出ない。
(ただ、魔力は欲しがるんだよな)
これだけ食べても依然として魔力は欲しているので、依然として俺は魔力に余裕を持つ必要がある。
正直、取らなくても良さそうなものだが、本人のモチベーションにも繋がるので、食事は特に止めてはいない。
(金もあるしな)
今日も長野第五ダンジョンを探索する予定であるが、ダンジョンに生息するCランク相当のモンスターも最近は狩り始めている。
そのため、ホテルに滞在しながら探索をこなしていれば、貯金ができるほどには稼げる見込みがあった。
討伐するモンスターの数によるが、今日も諸々を差し引いて数十万は稼げそうである。
「ん」
俺がコーヒーに再び口をつけようとした瞬間、ヴァルがタブレットを見せてきた。
そこには既に五つ注文したサンドイッチが映っている。
「頼んでもいいけど、今日の探索、頑張れよ」
俺がヴァルにそう言うと、彼女は鼻息荒く頷いた。
「それで伊藤さん、今日の方針ですが、第十五階層までを探索しようと思っているのですが良いですか?」
「うーん、そうだな。出てくるモンスターもそこまで強くないし、それぐらいでいいんじゃないか。もし、厳しそうなら撤退すればいい話だし」
俺と東雲が今日の方針を決める中、ヴァルはタブレットを通してサンドイッチを注文している。
「ヴァル、それを貸してくれ」
注文を終えたヴァルが、タブレットをこちらに渡してくる。
俺はヴァルが頼んだサンドイッチを一つ、追加で注文した。