軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第60話 それが本来の姿だ

「それが、本来のあなたの姿だと思います」

ロドリクが言った。

アシュリーは少しの間、その言葉の意味を受け取っていた。

本来の姿、という言い方だった。今夜、仕事が終わって疲れていて、でも怖くなかった、その状態が本来の姿だと言った。つまり以前の状態が本来ではなかったと言っているのだった。四年間、毎晩のように怖かったことを、この人は「おかしかった」と言った。おかしかったのはその四年間の方だった、と。

「……本来の」

アシュリーは繰り返した。

「仕事が終わって疲れていい。恐れなくていい」

ロドリクが続けた。声は変わらなかった。感情的ではなかった。ただ、事実として言った。

「あなたがそうでなかった四年間の方が、おかしかったのです」

石畳の上に二人は立っていた。月が出ていた。風がなかった。アシュリーはその言葉を聞きながら、何も言わなかった。言葉を探していなかった。ただ聞いていた。

四年間の方が、おかしかった。

その言葉を、誰かに言ってもらったのは初めてだった。仕事が終わるたびに怖かったこと、眠れない夜があったこと、翌朝書類を読み直してからでないと落ち着かなかったこと。もっとうまくできたはずだという声が仕事の後にいつも頭の中に残っていたこと。それらを「おかしかった」と言う人が、今まで一人もいなかった。誰かに話したこともなかったから、言われるはずがなかった。でもこの人は言った。

自分だけが思っていることと、誰かが声に出して確認したことは、重みが違う。「おかしかった」という言葉が、これまでの四年間を外から見た言葉として届いた。今夜のアシュリーの状態が本来の姿だということは、以前のアシュリーが本来でなかったということだった。そういうことだったのか、とアシュリーは思った。

「……」

アシュリーは黙った。泣きそうではなかった。泣くという行為とは少し違う何かが、胸の中で静かに動いていた。何かが落ち着いていく感覚だった。長い間張り続けていたものが、少しだけ緩んでいくような感覚だった。外に出るでもなく、内に引っ込むでもなく、ただ、静かに落ち着いていった。

ロドリクがそれ以上何も言わずに待っていた。この人はいつもそうだった。言葉を埋めようとしない。沈黙を壊そうとしない。相手の時間を持てる人だった。

「ロドリク様は、なぜそれがわかるのですか」

アシュリーは聞いた。

なぜわかるのかという問いを、この人に向けたのは初めてだった。問いを向けることができたのは、信頼しているからだと思った。信頼していない相手には、こういう問いを向けない。信頼していれば正直な答えが返ってくる。それがわかっているから、聞いた。四年間、こういう問いを向けられる相手が一人もいなかった。

ロドリクは少しの間を置いた。

「見ていたから、です」

それから、もう少し間を置いた。

「……ずっと」

その言葉を聞いた時、アシュリーの中で何かがわかった。

見ていた。ずっと。それは宮廷儀礼の場でアシュリーが台帳を整理していた時のことだった。誰も気にしない場所で仕事をしていたアシュリーを、ロドリクは何年分も見ていた。その視線に、アシュリーは気づいていなかった。台帳に名前を書いて、補記を加えて、各国の慣習を記録して、誰にも気づかれないまま問題を防いでいたあの仕事を。見ていた。価値を知っていた。だから台帳の緊急通知が届いた日に、三日待って来た。

しばらく、二人とも何も言わなかった。月が木々の間を動いた。遠くでシエルの衣ずれの音が届いた。

今日のことを考えた。

交渉の場で使節の長に紙を差し出した時、アシュリーの中に怖さはなかった。提案が通るかどうかを心配してはいたが、それは仕事としての緊張だった。以前のような「失敗したら何かを失う」という種類の怖さではなかった。今日の仕事は、誰かに怒られないためでも、役に立たなければならないからでもなかった。カリアスとノルディアの関係が悪くなってほしくなかったから動いた。ここにいる人たちのことを守りたかったから動いた。そういう理由だった。

四年間、そういう理由で仕事をしたことがあっただろうかと思った。たぶん最初の一年はあった。婚約したばかりの頃は、本当に好きで台帳に向かっていた。でもいつからかそれが変わった。役立たなければ、ミスをしてはならない、という方向に変わっていた。どこで変わったのかは覚えていない。気づいた時にはそうなっていた。

受け取っていいのだ、と今は思う。

アシュリーは内心でそう思った。言葉には出さなかった。まだ言葉にするところまで来ていなかった。でも思った。この人が見ていてくれたことを。この人の言葉を。大切にされることを。受け取っていいのだ、と。以前はそれがわからなかった。大切にしてもらえるという事実を、受け取る方法を知らなかった。でも今は、受け取っていいのだとわかった。

「……ありがとうございます」

アシュリーはそう言った。自分でも少し驚いた言い方だった。

「何への」

「見ていてくださったことへ、です」

ロドリクは何も言わなかった。ただ、小さく頷いた。

夜の庭が静かだった。二人はそのまましばらく立っていた。石畳が月の光を受けていた。足元が少し明るかった。どこかで夜の虫の声がした。春にはまだ早い季節だったが、確かに聞こえた。それでよかった。

翌月、王都から正式な書類が届いた。