軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第57話 交渉の場(前半)

三日後の朝、カリアスの使節団が辺境城館に到着した。

馬車が二台。随行の者が数人。正門の前に停まったとき、アシュリーは玄関の廊下からその到着を確認した。三人の使節が馬車から降りた。

中央に立った人物がいた。

年配だった。動きが落ち着いていた。周囲に先に目線を配った。それから建物の正面を見た。視線が建物の上のほうを一度確認してから、入口に向かった。他の二人は少し後ろについていた。自然な位置取りだった。誰かに指示された並び方ではなく、習慣として身についた動き方だった。

それだけで分かった。長老格の人物だった。

アシュリーは静かに息を吐いた。

準備した通りだった。

三日間で整えたものがあった。迎えの間の卓上の布は深い緑にした。白も薄灰色も紫も使わなかった。花の飾りは省いた。席の配置は長老格の人物を正面に、他の二人を左右の斜め後ろに置いた。横並びにならないように間隔を取った。迎えの言葉はロドリクが読み上げる形にして、上位敬称のみを使った文案をアシュリーが準備した。部屋の調度品についても確認した。壁掛けの布地の色を確かめ、問題のある色は外した。

細部に穴がないかを昨夜も確認した。シエルが確認のたびに茶を持ってきた。ヴェルナーが配置の図面を描いた。三人で繰り返し確認した。アシュリーは夜遅くまで文案を書き直した。上位敬称の組み立てが一箇所だけ不安だった。カリアスの古い書式では序文の語順が逆になることがある。その点だけは補記に根拠が薄かった。昨夜の確認で不安を口にすると、ロドリクは「分かっている範囲でやる」と言った。それで十分だった。準備できることを全て準備した。それ以上のことは、場に入ってから判断するしかなかった。

玄関の扉が開いた。

使節団が入ってきた。

ロドリクが正面に立って待っていた。アシュリーはその斜め後ろに控えた。ヴェルナーはさらに後ろに立っていた。

使節の長が部屋に入った瞬間、立ち止まった。

周囲を見た。卓の色を見た。席の配置を確認した。それから、正面に置かれた席に視線を止めた。自分に宛てられた席だと分かったはずだった。他の二つの席の位置も見た。横並びではなかった。少し斜め後ろになっていた。

長老格を正面に据える配置。横並びを避ける形。カリアスの慣習そのものだった。

「……ヴァルディアにこの慣習を理解する者がいるとは」

使節の長が言った。

表情が変わっていた。硬さが少し溶けた。驚きでも感嘆でもなかった。ただ、予想と違ったときの人間の顔だった。それは不快な方向ではなかった。想定していなかったことが目の前にある、という顔だった。

ロドリクが前に出た。

「ようこそ、辺境城館へ。カリアスの皆様をお迎えできたことを、このノルディアの地においてまことの光栄と申し上げます」

上位敬称を使った正式な挨拶だった。

アシュリーが準備した文を、ロドリクは自分の言葉として読み上げた。棒読みではなかった。自然な声で言った。練習したわけではなかったが、ロドリクには言葉の重さを扱う力があった。

使節の長が頷いた。

「此方こそ。辺境の地でこれほどの誠意を見ることになるとは、予期しておりませんでした」

静かな言い方だった。硬い礼儀ではなかった。少し温度のある言い方だった。

着席が始まった。

アシュリーはロドリクの横に座った。ロドリクが使節の長に向けてアシュリーを紹介した。

「儀礼に詳しい方です。今日の場を整えたのも、この方の知識によるものです」

使節の長がアシュリーを見た。

アシュリーは目礼した。

「カリアスの慣習には以前から関心を持っておりました。至らぬ点があれば、お知らせいただければ幸いです」

「いいえ」

使節の長は言った。

「あなた方が整えたことの意味は分かっています。敬意として受け取ります」

場の温度が変わった。固かったものが少し柔らかくなった。

三人の使節の間にも変化があった。長老格の人物の後ろに座っていた二人が、わずかに表情を緩めた。場の緊張が最初から高かったわけではなかったが、それでも慣れない土地に来たときの構えというものがある。それが少し解けた。

交渉の本題に入るまでにそれほど時間はかからなかった。

ヴェルナーが書類を取り出した。今回の交渉の主題は合同儀礼の席次を巡るものだった。昨年の式典でカリアス側の長老格に対する席次の扱いが適切でなかったという不満が、水面下でずっと続いていた。正式な抗議にはなっていなかった。しかしこのまま放置すれば関係に傷がつく。ロドリクはそれを早い段階で察知していた。

「昨年の席次については、こちら側の確認が不十分でした」

ロドリクが言った。迷いのない声だった。弁解を加えなかった。事実だけを言った。

使節の長は少し間を置いた。

「その認識は正しい。ただ我々が求めるのは謝罪ではなく、次の式典での対応です。同じことが繰り返されないための仕組みを求めています」

要求は明確だった。過去を責めるのではなく、先を見ていた。その言い方にアシュリーは少し安堵した。話せる相手だった。

「その対応について」

アシュリーが口を開いた。

ロドリクが横から目を向けた。目で「どうぞ」と言っていた。静かな促しだった。アシュリーはロドリクの視線を受けてから、使節の長に向き直った。

「……提案があります」

使節の長がアシュリーを見た。その視線に圧はなかった。ただ、聞く用意があるという目だった。

アシュリーが提案した内容を、使節の長は少し考えてから、頷いた。