軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第53話 私が知っているかもしれない

アシュリーがひと通り話し終えると、しばらく間があった。

ロドリクとヴェルナーは受け取った情報を整理しているようだった。机の上の書類が少し動いた。ヴェルナーが何かを確認しているようだった。窓の外では曇りが続いていた。光が平らだった。時刻を計りにくい空だった。

「問題は分かりました」

ヴェルナーが言った。ロドリクではなく、どこかに向けて言ったような言い方だった。

「席次を組み直す必要があります。ただ——」

ヴェルナーが一度止まった。

「カリアスへの返答文を作らなければなりません。席次の変更を伝えるだけでなく、今回の組み方の誤りについて説明し、先方の儀礼慣習を尊重するという意向を正式な形で示す必要があります。儀礼文書の表現に踏み込める人材が、今この城館にいない」

ロドリクが頷いた。

「王都の宮廷書記局に問い合わせるのが筋です。しかし——」

「使者を往復させると十日かかります」

ヴェルナーが先を引き取った。

「儀礼まで三ヶ月あります。十日は取れなくはない。しかしカリアスへの返答をそこまで遅らせると、先方は正式に参加辞退を出してくるかもしれない。非公式の意向が公式になると、他の参加国にも話が広がります。合同儀礼全体の話になってきます」

ロドリクの指が机の上で一度動いた。それだけだった。表情は変わらなかった。しかし問題の深刻さを分かっていた。分かった上で黙っていた。

アシュリーはその会話を聞いていた。

自分はこの場にいる必要はないかもしれないと思った。情報の提供は終わった。あとは二人が判断することだった。しかし席を立てなかった。立つべき間がうまく分からなかった。それだけだった。椅子の上で台帳を膝に置いたまま、二人の言葉を聞いていた。問題の輪郭が見えていた。王都に頼む時間がない。かといって適切な人材がここにいない。その二点が問題だった。アシュリーはそれを聞きながら、自分の頭の中にある情報の棚を確かめていた。

ヴェルナーが続けた。

「王都から書記局の人間を呼ぶことも考えましたが、呼び出しから到着まで、これも一週間以上かかります。書記局は忙しい時期です。すぐに動いてもらえるかどうか」

「人は出せても、カリアス向けの儀礼文書を書ける人間が来るとは限らない」

ロドリクが言った。

「そうです。一般的な書式は書けても、カリアスという特定の国への書式となると、専門の知識が必要です。宮廷書記局の中でも担当が分かれているはずで……」

ヴェルナーが溜め息をつくような間を置いた。溜め息ではなかったが、そういう息の動き方だった。重さを感じているときの呼吸だった。

「早くても五日、下手をすると二週間かかります。その間にカリアスが公式に辞退を出してくれば、文書で説明するより使節を送る話になってきます。そうなれば規模が変わります」

そこで、アシュリーの口が動いた。

「……儀礼文書の表現、というのは」

二人が同時に向いた。

アシュリーは少し止まった。言いかけて、引っ込めるタイミングを逃した。続けるしかなかった。

「儀礼文書の書式は、宮廷書記局の定めた形式があります。挨拶文の序文の組み方、敬語の層の使い方、国ごとに異なる呼称の規則。そういった決まりがあって、正式な儀礼文書はその形式に沿って作ります。カリアスに向けた文書の場合も、特別な慣習書式があるはずです」

「ご存知なのですか」

ヴェルナーが聞いた。声が少し変わっていた。先ほどまでの報告者の声ではなかった。何かを確認しようとしている人の声だった。

「書き方の基本は台帳の付録に載っていました。各国別の書式の一覧が。私は儀礼の準備のたびにそれを参照していたので、大体の形は頭に入っています。序文の組み方、敬語の格、カリアス向けに使う主君への呼称。完全ではないかもしれませんが、骨格は出てくると思います」

アシュリーは言った。言いながら頭の中で確かめていた。あった。確かにあった。台帳の末尾の付録。薄い紙が数枚綴じられていた。年季が入っていた。最初の担当者が書いたのか、さらに前の誰かが書いたのかは分からなかった。しかし内容はあった。自分は毎年参照していた。

「……私の頭の中に残っているかもしれないので、試してもいいですか」

言ってから、少し迷った。出すぎた提案かもしれないと思った。しかしヴェルナーが困っていた。ロドリクが問題の深刻さを分かっていた。自分に使えるものがあるなら、使わないでいる理由はなかった。うまく出てこなければ、出てこなかったと言えばいい。記憶は試してみるまで分からない。

ロドリクがアシュリーを見た。

少しの間があった。アシュリーはその間に何かを言うべきか迷った。できると言ったが、完全ではないかもしれない。頭の中にある記憶は、実際に書いてみるまで形が分からない。失敗するかもしれなかった。それでも言いかけた言葉を引っ込めた。試してみなければ始まらなかった。

「……ぜひお願いします」

ロドリクが言った。

短い言葉だった。しかし断らなかった。ためらいも見せなかった。アシュリーができると言ったなら、できるのだろうという受け取り方だった。それがアシュリーには少し重かった。信頼されているというより、重さを受け渡された感覚だった。

ヴェルナーが机の隅にある予備の紙と筆を出した。

「使えるものは何でも使ってください。この机の端を使っていただいて構いません。あるいは隣の部屋も使えます」

「ここで構いません」

アシュリーは言った。

机の端に紙を置いた。筆を持った。体が向いた。頭の中で棚を開ける感覚があった。台帳の付録。各国別書式。カリアスの頁。

アシュリーが書き始めた。四年間の記憶が、少しずつ言葉になっていった。