軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二話:ショートカット

聖暦1016年6月2日23時。

ボクは自室の椅子に座り、グーッと体を伸ばす。

「ふぅ……疲れたぁ」

今日は朝から晩までずっと『イベント』続きで、なんともまぁ忙しい一日だった。

まずは朝、父ダフネスに闇の大貴族ヴァランを始末した 旨(むね) を報告しに行く。

「――このような形で、ヴァラン・ヴァレンシュタインを捕縛し、聖騎士エリザ・ローレンスへ身柄を引き渡しました」

「そうか、よくやった」

父は 言葉(ことば) 少(すく) なにそう言った。

正直、これにはかなり驚いた。

ダフネス・フォン・ハイゼンベルクは、原作ロンゾルキアで最も『不器用』な男。

そんな彼が、褒めたのだ。

捻くれた表現をまったく用いず、ただただ素直に『よくやった』と。

(これは紛れもなく『最大級の賛辞』!)

父の中で、ボクの評価が大きく向上したことは間違いない。

(ふふっ、このまま信頼を積み上げて行けば、レドリック在学中にハイゼンベルク家を継げるかも……?)

いや、さすがにそれはちょっと望み過ぎかな。

でもまぁ昔から、『夢は大きく』って言うしね。

次に昼は、『高利貸し』と面談の場を持った。

「急に呼び立ててすまないな。こちらから出向いてもよかったのだが……」

「いえいえいえ、滅相もございません! ホロウ様に御足労をいただくわけにはいきませんので、はいはいはい!」

超高速で 胡麻(ごま) をするこの男は、ローレンス夫妻とダンダリア孤児院を言葉巧みに騙し、泥沼の『借金地獄』に沈めた極悪人だ。

ボクは端的に伝えた。

そちらの利率が王国の法律に反したモノであること、後ろ盾のヴァランはこの手で始末したこと、本件に対してかなり不愉快な思いを抱いていること。

その結果、

「え、えぇえぇえぇ、大変申し訳ございません……っ。本当に本当に本当に些細な行き違いから、ローレンス夫妻には大変なご迷惑をお掛けしてしまい……ッ。なんとお詫びすればよいことやら……しくしくしく」

癖の強い高利貸しは、嘘くさい涙を浮かべながら、薄っぺらい謝罪を述べた。

最初、ボイドタウンに送る案も考えたんだけど……。

この男は、珍しい魔法因子を持っていないので、単純に労働力が+1されるだけ。

それよりも彼には、『もっといい使い道』がある。

「今ここで 惨(むご) たらしく殺されるか、超低利の金貸しとして慈善事業に励むか、楽しい 理想郷(ボイドタウン) で強制労働に勤しむか――好きな未来を選ぶといい」

恒例の『ドキドキワクワク三択アンケート』を取ると、超低利の金貸しとしてハイゼンベルク領で働く道を選んだ。

これでうちの領民たちに『もしものことがあった場合のセーフティネット』ができた。

(もちろんお金なんて借りない方がいいけれど……人間生きていたらいろいろなトラブルがあるからね)

こういう『万が一の命綱』は必要だろう。

当然ながら、高利貸しの利益はゼロに等しく、今後一生タダ働きになるけれど……。

彼は今まで多くの人達を騙し、借金地獄に突き落としてきた――『自業自得』というやつだね。

最後に夜は、聖騎士協会王都支部の重役三人を家族に加えた。

虚の構成員シュガーに監視と尾行をお願いして、彼らが 人気(ひとけ) のない路地裏に入ったところで連絡をもらい――お迎えにあがる。

「――お前たちが、王都支部の『腐ったミカン』だな?」

「あぁ゛ん……なんだ、てめぇ?」

「いきなり随分なモノ言いだなぁ……。わかってんの? 俺達の気ぃ悪くすりゃ、お前もその家族もみんな、 刑務所(ぶたばこ) 行きだぞ?」

「がっはっはっは、せいぜい身の回りに気を付けるこった! 明日、『不慮の事故』に遭っちまうかもしれねぇからなぁ!」

三人は酒に呑まれており、臭い息を吹き掛けてきた。

(なんとまぁ醜い奴等だね)

『品性下劣』とは、彼らのためにある言葉だろう。

でも大丈夫。

「――そう 怯(おび) えるな、俺達はもう『家族』じゃないか」

ヌポン。

事務局長が消えた。

それと同時、

「「……えっ……?」」

二人の顔から笑みが 失(う) せる。

どんなゴミにだって、使い道はあるものだ。

これから一緒に『まだ見ぬ自分の価値』を探しに行こう。

「お、おい誰か! こいつを殺せ! 金ならいくらでも払――」

ヌポン。

副支部長も消えた。

「ひ、ひぃ……っ。たす、たす、助け……お願い、命だけは――」

ヌポン。

支部長も消えた。

絶大な権力を誇り、私利私欲の限りを尽くした重役三人は、ボイドタウンの住人A・B・Cに生まれ変わったのだ。

(よしよし、『上の席』が綺麗に空いたね)

これでうちのエリザが、王都支部の新たな 長(おさ) に 抜擢(ばってき) されることだろう。

(ふふっ、そうなればもうこっちのものだ!)

ゆっくりと時間を掛けて、聖騎士協会を内部から乗っ取り――ゴホン、『浄化』していくとしよう。

っとまぁこんな感じで、朝から晩までイベントをこなし、今ようやく一息ついたところだ。

(明日は学校があるから、今日はもうゆっくり休みたいんだけど……)

残念ながら、そういうわけにもいかない。

まだ『残業』があるのだ。

「さて、もうひと頑張りっと」

紙と羽根ペンを取り、机に向かう。

(第二章の後片付けも終わったし、明日から本格的に『第三章』が始まる……。今回はこれまでと『毛色』が違うから、どんなルートでクリアするか、きちんと考えておかなくちゃね)

第一章は『 大翁(おおおきな) 』ゾーヴァの 目論見(もくろみ) を潰し、第二章は『闇の大貴族』ヴァランの 国家転覆(クーデター) を未然に防いだ。

二つともこちらから能動的に動いて、大ボスの邪悪な野望を阻止する――というストーリーラインだ。

(でも第三章は、これまでと打って変わって、敵がこちらへ攻め込んでくるタイプ……)

ずっと同じパターンを繰り返していると、プレイヤーもちょっと飽きてくるので、『変化球』を織り交ぜてきたのだ。

原作ロンゾルキアは、この辺りの 塩梅(あんばい) が絶妙だね。

(そしてこの第三章のメインは――『学校パート』)

今まで大貴族の陰謀とかハイゼンベルク家の闇の仕事とか、ちょっと『黒いシナリオ』が多かったので、レドリックの明るいイベントは清涼剤& 味変(あじへん) になるだろう。

しかし、しかしだ。

『謙虚堅実』を 標榜(ひょうぼう) するこのボクが、のんべんだらりと学校で過ごすことは――決して許されない。

(原作ホロウは世界に中指を立てられた存在、 僅(わずか) かな油断や慢心が命取りになる……)

ボクは誰よりも修業に励み・誰よりも思慮を重ね・誰よりも準備をして、『抜きん出た存在』にならなくちゃいけない。

そうして主人公を周回遅れにするぐらいの――『圧倒的な大差』を作るのだ。

(ここで問題になるのが、どうやって周囲と差を付けるか……)

これを解決する鍵は――『受験勉強』だ。

入試直前となる三年生の夏休みは、みんな多かれ少なかれ勉強する。

だから、その期間にどれだけ努力しても、あまり大きな差はつかない。

であれば、いったいどこで『大差』が生まれるのか?

(答えは簡単! 他の受験生が勉強をしていないとき――つまり、第三章の学校パート、まさに今ここだッ!)

みんながゆっくりまったりするであろう、この 穏(おだ) やかな時間を利用して、ボクは築き上げる!

圧倒的な力を!

万全の備えを!

周囲との関係性を!

(ひたすら努力し続けて、圧倒的な 大差(リード) を作ってやる!)

もちろん、自分が強くなるだけじゃ駄目だ。

『真・主人公モブ化計画』をきちんと動かし、アレンへの『妨害工作』も手抜かりなく行う。

(そのためにも第三章は、いつもより丁寧に進めないとね!)

羽根ペンを動かし、今後のイベントを紙に書き出していく。

(明日から『聖レドリック祭』の準備期間だ、どこかで『第十位』と軽く関係を持って……。後はそう、エインズワース家の地下から運び出した『例のアレ』は、ゾーヴァに解析を急がせよう。あ゛ー、『紫色のボロ雑巾』も近日中に回収しておかなきゃ。商店街のイベントは……うん、自然に組み込めるな)

頭の中にある原作知識を引っ張り出し、『最高効率の攻略ルート』を組んでいく。

そうして順調にレールを 敷(し) いていく中で、一つ問題が浮上した。

「…… この(・・) 『 母娘(おやこ) 』、どうしよう」

リン・ケルビーとセレス・ケルビー、天才的な魔法研究者だ。

リンとセレスさんは『ヒロイン枠』ではなく、あくまでも『便利なサポートキャラ』という位置付けであり、メインルートの攻略において『回収必須』というわけじゃない。

(ただ……二人を仲間に加えられるのは、第三章のこのタイミングだけだ)

所謂(いわゆる) 『取り返しのつかない要素』というやつだね。

(研究職は貴重だ、どれだけいても困らない)

なんなら百人でも千人でも欲しいぐらいだ。

(でも、このケルビー母娘を仲間に加えるイベント……。ちょっと『カロリー』が高いんだよなぁ……っ)

出会い→関係構築→自宅訪問→イベント発展→仲間に引き込む。

(……さすがに長い、どうやったって十日は掛かる……)

ここに大量のリソースを割くぐらいなら、他のイベントを三つこなした方が絶対にお得だ。

(あの母娘を引き入れられるのは、第三章のここしかないけど、優秀な研究職は確かに欲しいけど……仕方ない、ここは諦めよう)

あまり欲張り過ぎたら、他のもっと大切なモノを取りこぼしちゃうからね。

時には諦めも肝心だ。

そんな風にして、ルートを練ること一時間、

「――よし、できた!」

我ながら、中々にいい 絵図(えず) を描けたと思う。

(後は『死亡フラグの管理』だけど……今回はそこまで気を張らなくてもいいかな)

第三章の死亡フラグは、比較的わかりやすいモノが多いから、そんなに警戒しなくても大丈夫だろう。

一つ注意するならば、この章から『暗殺者』が解禁されるということ。

原作ホロウは至るところで恨みを買っている、そうでなくてもハイゼンベルク家は 疎(うと) まれている。

そのためこの第三章からは、『暗殺者イベント』がランダムで発生し、原作ホロウを殺しに来るのだ。

(……いったいこの世界は、どれだけボクのことが嫌いなんだろうね……)

わかってはいたことだけど、やっぱりちょっと悲しくなってしまう。

――さて、気を取り直して『最終盤面』を考えよう。

(今回の『大ボス』は、ちょっと面倒くさいんだよなぁ……)

もちろん単純な強さもあるんだけど、それ以上に『厄介だ』という印象が強い。

今まではボクが襲う側だったけど、今回は襲われる側になる。

向こうは『万全の準備』を整えたうえで、激しい総攻撃を仕掛けてくるため、最初からかなり不利な状況に置かれるのだ。

(それに何より……第三章の大ボスは『確保必須』)

第一章の大翁ゾーヴァは、300年と積み上げた知識に価値があった。

第二章の闇の大貴族ヴァランは、その巧みな情報操作が非常に魅力的だった。

そして第三章の大ボスは――『固有魔法』がめちゃくちゃ便利だ。

( 起源級(オリジンクラス) の アレ(・・) をゲットできれば、ボイドタウンの労働力問題は一気に解決する!)

さらには、 王選の(・・・) その後(・・・) を(・) 見据えた(・・・・) 計画(・・) が、完璧で盤石なモノになるだろう!

なんとしても『家族』に迎えられるよう、全身全霊を注がなくちゃいけない。

(来たるべき最終盤面に備えて、ボクもしっかりと 修業(レベリング) を……って、待てよ)

そこまで考えたところで、『とんでもないこと』を思い付いてしまった。

「これ……今から『大ボス』を狩りに行けばいいんじゃね?」

第三章のラストは、大魔教団の『幹部』がレドリック魔法学校を襲撃してくる。

先制攻撃を受けて不利な立場になるぐらいなら、逆にこっちから襲っちゃえばいい。

だって、ボクが転生したのは『主人公』ではなく――『悪役貴族』。

敵が変身中でも、必殺技の途中でも、準備をしている最中でも、容赦なく倒しに掛かっていい身分だ。

いや、原作ホロウのキャラ設定を 遵守(じゅんしゅ) するなら、むしろそうすべきだろう。

(もしもこの案が上手く行けば……第三章は開幕と同時に終わる!)

そうなれば必然、主人公の強化イベントは全て消滅!

アレンは経験値を一ミリも得ることなく、勇者因子を覚醒させられず、そのまま過酷な第四章へ放り込まれる!

つまりこれは、ただの時短だけでなく、最高の勇者対策になるのだ!

「くくっ……素晴らしい! 夢の『超絶ショートカット』じゃないか!」

そうと決まれば、善は急げだ。

漆黒のローブと仮面を身に 纏(まと) い、『お迎えの準備』を整える。

「さぁ、第三章の大ボスを狩りに行こう!」