軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十話:運命の再会

聖暦1016年6月19日早朝。

ボク・ニア・エリザ・アレンの四人は、勇者の隠れ家を 発(た) った。

「みな、気を付けて帰るのじゃぞー!」

ラウルに見送られながら、 鬱蒼(うっそう) と茂った森を踏み分け、ハイゼンベルク家の馬車で王都へ戻り――それぞれの家の中間地点である、レドリック魔法学校で解散。

屋敷へ戻ったボクは、軽く昼食を済ませて、自室の椅子に腰を下ろす。

時刻は12時55分。

「……ふわぁ……」

大きな欠伸が自然と 零(こぼ) れた。

(うん、さすがにちょっと眠たいね……)

猛(たけ) り 狂(くる) う情欲を抑えながら、魔力操作を極めるのは、精神的な負荷が大きかった。

(軽く昼寝でもしたい気分だけど、もうすぐ 待ち合わせ(・・・・・) の時間だ)

ここは気合を入れて、もうひと頑張りするとしよう。

ボクが大きく体を伸ばすと、コンコンコンとノックの音が鳴り、オルヴィンさんの声が響く。

「――坊ちゃま、お客様がいらっしゃいました」

「通せ」

扉が開くとそこには――『第三章の特別クリア報酬』が立っていた。

彼女(・・) が恐る恐る部屋に足を踏み入れたところで、オルヴィンさんはお辞儀をして、静かに扉を閉めた。

「久しいな セレス(・・・) 」

ボクの部屋にやって来たのは、セレス・ケルビー、33歳。

身長167センチ、透明感の強い薄緑のロングヘア。

柔らかい緑の瞳・ 瑞々(みずみず) しく白い肌・均整の取れた顔、とても美しくて可愛らしい人だ。

何よりも特筆すべきは、その完璧なプロポーション。作中屈指の豊かな胸・健康的にくびれた細い腰・肉感のある 太腿(ふともも) ――驚くほどにスタイルがいい。

黒いシャツの上から清潔な白衣を 纏(まと) い、 縁(ふち) の細い眼鏡を掛けた彼女は、ロンゾルキアが誇る天才魔法研究者だ。

「この屋敷に呼び出されたときから、もしかしてと思っていましたが……やっぱりホロウ様だったんですね」

「あぁ、俺がボイドだ」

証拠に一瞬だけ仮面を出し、すぐに虚空界へ収納した。

「俺の正体を知るのは、極一部の限られた者だけ。念のために言っておくが、ボイドではなくホロウと呼ぶように」

「はい、かしこまりました」

自己紹介もそこそこに、セレスさんは深々と頭を下げる。

「ホロウ様、先日は私と 娘(リン) の命を助けてくださり、本当にありがとうございました。その後は 衣食住(いしょくじゅう) に加え、働き口や身の安全まで保証していただき、もうなんとお礼を申し上げればよいのか……」

「礼などいらん」

第三章の事件を経て、セレスさんは大魔教団から狙われる立場になった。

(何せ彼女は、たった一人で『魔王因子の 精錬(せいれん) 』を進めたからね)

向こうからすれば、喉から手が出るほどに欲しい 研究者(いつざい) だろう。

セレスさんはもはや、誰かの保護なしで普通の生活を送れない。

(だから、ケルビー 母娘(おやこ) をハイゼンベルク領へ呼び寄せた)

なんと言ってもうちの領地は、王国で最も安全な場所だからね。

ちょっとしたサービスとして、家具付きの住宅と1000万の生活費を渡したから、向こうの負担はほとんどない。

今は家族二人、極悪貴族のお 膝元(ひざもと) で、幸せな毎日を過ごしている。

ちなみに……もしも大魔教団の連中が、ケルビー母娘に手を出してきた場合は、半分こにした『 天魔(てんま) 』をさらに半分こにする予定だ。

「俺がセレスに求めるモノは一つ――『結果』だ。うちで研究に励み、確たる利益を 齎(もたら) せ」

「はい。御恩に 報(むく) いるためにも、頑張らせていただきます!」

「よい返事だ」

同級生の母親を、『未亡人の美女』を従えるこの感覚は、非常に クル(・・) ものがあった。

『 背徳感(はいとくかん) 』とも言うべき特殊な情欲が、腹の底をジワジワと焼き焦がすのだ。

(ふぅー……)

昨夜から続く 怒濤(どとう) の『情欲ラッシュ』。

睡眠不足と精神的な疲労も 祟(たた) って、理性は既に限界ギリギリ。

(落ち着け落ち着け、セレスさんに手を出すのは、本当にマズイんだから……っ)

彼女は同級生の母親であって、 攻略対象のキャラ(ヒロイン) じゃない。

(それに何より、ボクはあくまで『ノーマル』。エリザのような『特殊性癖』を持っていない)

眉間(みけん) に右手を添え、呼吸を整えていると、

「ホロウ様、どうかなされましたか?」

セレスさんは、こちらの顔を覗き込むよう 前屈(まえかが) みになり、可愛らしくコテンと小首を傾げた。

(……この人、いちいち色っぽいんだよなぁ……)

頭を軽く左右に振って、 煩悩(ぼんのう) を弾き飛ばす。

「なんでもない。それよりも、うちの研究所へ案内しよう」

「はい、お願いします」

自室を出て、屋敷の廊下を歩く。

道中、無言でいるのもアレなので、ちょっとした話を振った。

「研究に必要な資材や設備は、一通り揃えているつもりだが……。何か必要なモノがあれば、遠慮なく言うといい」

「ありがとうございます」

小さくお辞儀したセレスさんが、今度は逆に問い掛けてくる。

「ホロウ様、一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「あぁ、なんだ」

「以前結んだ 就業規則(けいやく) に、『明るい先輩のいるアットホームな職場です』とあったのですが……。いったいどんな人なんでしょうか?」

「優秀な研究者だが……人格面に『巨大な問題』を抱えている。毒されんように注意しろ」

「は、はい、わかりました……っ(うぅ、ちょっと怖いなぁ、仲良くできたらいいんだけど……)」

屋敷を出て少し歩き――特別棟に到着。

ここは四年前、ボクのポケットマネーで建てた研究所であり、今は借金馬女が一人で使っている。

コンコンコンとノックするが……返事はない。

まぁいつものことだね。

「――邪魔するぞ」

そう断りを入れてから、扉をグッと押し開ける。

研究所の中は、

「……酷いな」

「う、うわぁ……っ」

めちゃくちゃ汚かった。

脱ぎ捨てられた衣服・空っぽのカップ酒・よれた競馬雑誌などなど、フィオナさんの私物が散乱している。

(こんなのでも一応、『ヒロイン枠』なんだよなぁ……)

なんならセレスさんの方が、ヒロインとして……いや、これ以上は何も言うまい。

(しっかし、さすがだね。あんなこっぴどく負けて、まだ 懲(こ) りないのか……)

研究所の壁には、『必勝! 王国 記念杯(きねんはい) !』という垂れ幕が掛かっていた。

王国記念杯は、うちの競馬場で開催される、七月最大のレースだ。

どうやら、リベンジマッチに燃えているらしい。

(何度負けても立ち上がる不屈の闘志。これは彼女のいいところ……なのかなぁ?)

複雑な気持ちを抱きながら、研究室の奥へ進んで行く。

(っと、いたいた)

一際(ひときわ) ごっちゃごちゃのデスク、そこにフィオナさんがいた。

「……」

彼女は黙々と手を動かし、魔法式を書き記している。

(まったくこちらに気付いていない……凄い集中力だね)

うっかりすると忘れがちだけど、フィオナ・セーデルはこれでも一応、『天才魔法研究者』なのだ。

「フィオナ、ちょっといいか?」

ボクがそう声を掛けると、彼女はクルリと振り返った。

「ホロウ様? 研究所(ラボ) に来るなんて珍し……あれ?」

「……」

「……」

フィオナさん(25歳)とセレスさん(33歳)、両者の視線が 交錯(こうさく) し、

「あっ、セレス ちゃん(・・・) だ」

「ふぃ、フィオナ 先輩(・・) ……!?」

二人は『運命の再会』を果たすのだった。