軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

色々あるのです

「……これがツナマヨサンドですか……物凄く美味しいですね……」

久々に館にやって来たキャンベル商会のサイモンに、お茶と共にサンドイッチを出す。

一緒に、茹で卵を潰してマヨネーズで和えた定番のたまごサンドイッチと、ハムとレタスとチーズのサンドイッチも供される。

王都で服飾系の商会の会頭をしている彼は、まだマグノリアが実家に居た頃に出会い、ひょんなことからマグノリアの作る製品のやり取りをする間柄となったのである。

子どもにもきちんと対応できる紳士な会頭であるが、その実、女傑と名高い彼の義姉よりも強力な人物になりそうなマグノリアに、戦々恐々とする日々である。

「パッチワークは秋頃に売り出す予定なのです。そしてこちらが今回納品分の巾着です」

ドドーンと目の前に積み上げられ、彼は茶色の瞳を瞬かせた。

ドレス巾着は元々、マグノリアが実家を出奔するための逃走資金(?)を用立てるべく考案されたものである。

紐を引き絞るとドレスの様に見える巾着なのであるが、可愛らしさと実用性から、今王都で大人気となりつつあるのだ。

かつて地球で見たタオルドレス――手拭きタオルをドレスのように仕立てたものがヒントになっている。

そしていつの間にかドレス巾着は『ドレスポーチ』という名前をつけられていたそうだ。初耳。確かに売るのに巾着よりポーチの方が手に取ってもらえそうである。

人気の反面、マグノリアと侍女のリリーとで細々と少量ずつ作っていたのだが……そんな時間はほぼほぼ無くなってしまって困っていた。

そんな時、パッチワークの原料調達に協力してくれている工房の一つが経営が上手くいかず、苦慮しているという話を耳にしたのだ。

そこでマグノリア考案のドレスポーチを製作してもらえないだろうかと持ちかけた所、二つ返事で了承してもらい、安定供給が可能となったのである。

販売はサイモンのキャンベル商会に委託してある。

マグノリアの個人的な製品であるのと、過去に子どもと侮らずきちんと買い取りをしてもらった経緯から、アゼンダ商会を立ち上げた今もこの製品はキャンベル商会にお願いしているのだ。

港を持つアゼンダの方が輸出には都合が良いかと、一応海外向け分について製作をお願いしたアゼンダ領内の工房にも確認したが、製作に特化したいと断られてしまった。

アゼンダはその昔アゼンダ公国という小国であった。

周りを大国三つと小国二つに囲まれ、長く緩衝国として存在していた歴史があり、過去、様々な国の支配下に置かれたのだ。よって余り外の人と関わる事を好まない人が多い。

……商売を大きくするチャンスだと思うのだが……無理強いは良くないし、流通させる事に手慣れたサイモンに任せる方が良いだろうとそのままの形にしたのである。

「辺境伯の行なっている肥料の販売も素晴らしい売れ行きのようですね」

「……それよりも、アスカルド王国の加護の方が驚きですよ……羨ましいです」

アスカルド王国の守護神は『花の女神』

その加護で常に豊穣なのだそうだ。他の国からしたら羨ましくて仕方がないであろう。

国土は決して大きくはないが、様々な意味で非常に豊かな国であるが故大きな影響力を持っている。

「それに、珍しい金属も発掘されるのですよね?」

五歳の誕生日に、クロードから手甲の素材として『アダマンタイト』と『ヒヒイロカネ』を合わせた合金を貰った。

『アダマンタイト』も『ヒヒイロカネ』も、ファンタジーな世界で産出される特殊金属である。

もしかすると、ファンタジーな世界を舞台にした物語やゲームでは『ミスリル』や『オリハルコン』の方が有名かもしれないが……ともかく、そんなレアメタルが産出される土地柄なのである。

……大国として君臨するには、それなりの理由がある訳なのだ。

「そうですね。他にも色々とありますが……鉱物資源にはそこそこ恵まれているかもしれませんね」

「……なるほどねぇ」

そう言えば、ともう一つの素材を思い出した。

「黒竜……ドラゴンもいるのですね?」

「えっ!? ドラゴンに遭遇したのですか!」

何気なく呟かれた言葉に、サイモンが酷く驚いたように声を上げた。

マグノリアは首を緩く傾げる。

「いいえ、私は遭遇していないのですが……祖父と冒険者、騎士達が合同で討伐してきたのです」

初めて見ました。と言われ、サイモンは毒気を抜かれる。

「そうでしょうね……私も未だ見た事はありません。そういう強大な魔物や魔獣はモンテリオーナ聖国近くにいるので、こちら側には来ない筈なのですが……」

「……やはり土地や人などの、魔力のある無しに関係があるのですか?」

……セルヴェス達が限りなく森の奥深くに潜り込み、モンテリオーナ聖国に近いねぐらに潜り込んで捕獲してきた事は伏せておく。

「そうだと言われています。残念ながら詳しくは解りませんが……それにしても魔力があっても大変だと言われている竜の討伐……良くご無事でしたねぇ」

流石『悪魔将軍』と言った所なのか。

サイモンは人間離れした、ゴリゴリのマッチョな辺境伯を思い起こす。

目の前の少女とは直系の肉親であるのだが、ウソとしか思えないような見た目の違いである。

「何か、尻尾を持って振り回して、岩に叩きつけたとかで……」

「…………」

「その後、みんなでこう。でも、ドラゴン、凄く美味しかったです!」

にこりと目の前の幼女は可憐な微笑みを浮かべた。

こう、と言いながら物騒な手の動きを見せ、挙句の果てに美味しかったと言う。

そう、ドラゴンはかつてマグノリアが地球で食べた、ワニの唐揚げに似たお味であった。

見た目に似合わず、癖や臭みの無い、鶏肉のような淡白な味。

だがしかし鶏肉よりも上品な味で、ジューシーで大変、大変美味だったのである。

その際とれた革――もとい、鱗付きの革?は全てマグノリアのものとなった。

討伐に出たセルヴェス以外のみんなが羨ましそうにしていたので、手当は出ているらしいが、剥がれ落ちた鱗を一枚ずつ渡したらとても有難がっていた。

大変貴重なものである事が察せられる。多分、とんでもないものを渡されたクサいが……聞いてしまったら恐ろしいので、考えない事にしている。

手甲どころか全身鎧が数着出来上がりそうな量なのであるが。

竜は何色かの種類がいるそうで、赤い竜は火に強く、青い水竜は水に強い……と色々特長があるらしく、全ての色を合わせたとも言える黒竜はオールマイティーの防御力を発揮するらしい。

幼女の安全は、物凄い強固に護られようとしている。

今、魔法ギルドにお願いをして、スペシャルな手甲を絶賛製作中である。

牙や爪など幾つかを手元に残し、残りのおどろおどろしい素材は冒険者ギルド長であるヴィクターがホクホクとした顔で買い取っていった。

「ドラゴン、召し上がったのですか……?」

「はい」

「…………。それはようございました」

もう何も言うまい。サイモンは穏やかに微笑んでツナサンドを口に運んだ。

出来る会頭は、作り笑いも一級品である。

「マグノリア様、ご相談したい事があるのですが……」

サイモンに会った翌日、パッチワークに関してもう少し詰めておこうと、マグノリアは手芸部隊に顔出しをした。

すると孤児院のまとめ役をしていた子で、成人したばかりにもかかわらずアゼンダ商会の総務・庶務部門の代表者となったエリックが、神妙な顔で頭を下げた。

料理が好きで時間があれば調理の手伝いをしていた孤児がいたのだが、来年成人するにあたり、食事処を開きたいと思っているそうだ。ほうほう。

「マグノリア様のお料理が美味しく珍しいので、是非沢山の人に食べてほしいそうで。作る許可を頂きたいと言うのです」

エリックの後ろにいる、年若い男女ふたり組がそうなのだろう。

大変硬い表情で頭を下げた。

取り敢えず話を聞くと、当たり前だが資金もそれ程ない。カツカツだ。

お互い見習い期間の数年、領都の食事処で働いた分の貯金と、アゼンダ商会での手伝い分の貯金で挑戦しようとしているらしかった。

見習い期間は下働きが主で、男の子の方は仕込みの一部を最近任せてもらえるようになったのと、従業員の賄いを作っているらしい。女の子も似たような感じで、給仕の仕事もたまに手伝うそうだ。

アゼンダ商会の手伝いの際も主に賄い作りを手伝っており、時には丸々作る事もある。

ニュータウンでは比較的安く開業出来るのと、これから事業がより大きくなるなか、他領や隣国からの往来も増えて行くだろうから、勢いのある今がチャンスではないかと考えたそうだ。

また、マグノリアの料理は珍しく美味しいがつくり方は簡単なので、自分達にも充分調理が可能だという事であった。

……うーむ。

マグノリアはクロードの様に眉間に皺を寄せながら考えていた。

「……私のレシピを使う事は全然問題ないのですけど……自分達のお店をというのは、もう少し待ってからの方が良いのではないですか?」

ふたりはマグノリアの言葉を聞いて、びっくりしたような傷ついたような表情をしている。二つ返事で応援してもらえると思っていたのであろう。

いや……応援はするが。

マグノリアは小さく息を吐くと、三人の顔を順番に見た。

「お店はふたりでするのですか?」

「……はい」

ふたりの内、男の子が返事をした。

「……資金もふたりのお金を合わせて使うのですよね?」

ふたりとも頷く。

「開店後の生活資金はありますか? 予期せぬ出来事があった時に対応できそうですか?」

――共同経営というのは、思うよりも案外難しい。起こすのは簡単だが、上手に持続させるのが困難なのだ。

友人や身内と一緒に会社や商売を始める人は地球にも沢山いたが、意見が食い違い破綻する事が結構な割合で発生する。金銭が絡むので尚更だ。

若くても年取っていても、同じように問題が発生する。

味方であれば心強いのだが……あんなに仲の良かった人間が敵になるというのは、メンタル的にも結構辛い。

「手持ちに余裕がある訳ではないのでしょう? 商売を始めてすぐ上手く行く場合もありますが、普通は軌道に乗るまで少し時間が掛かるものなのです」

彼等はアゼンダ商会の成功例を見ている。しかし、他の例を見ていないのだろう。

特に目の前にいる三人は若い。

その上孤児で頼る伝手も無く、成人後は自分達で生きていかねばならない身の上だ。

物事には確かに勢いやタイミングも大切ではあるが、確実さもとても大切だ。技術職ならなおの事だ。

「まずは何処かで数年料理の腕を磨いて、色々な料理や技術を習得する方が良いと思います。資金もある程度……少なくとも数か月は暮らせるぐらいまで貯めなくてはなりません。人脈を作って、色々な経験を積んでからの方が。それからでも遅くはありません」

彼等が食事処の子どもなら、多少は無理を押し進める事も可能かもしれない(それでもすぐは勧めないけど)。

調理だけでなく経営から客あしらいまで、考えたり対応したり、慣れたりが必要であるのだ。

……意地悪で言っている訳ではなく、幾らマグノリアの調理が簡単とは言え、プロとしてやっていくのに素地が無いのは良くない。万一の際潰しが利かなさ過ぎる。

この世界の孤児院出身は虐げられる立場ではあるものの、逆に世間の様々なものを見る機会が少なく、ある意味純粋培養されて育つ場所であるとも言える。

色々なものを見て、感じて、体験してからの方が良いとマグノリアは思うのだ。

どうしてもそうしなければ生きていけないという状況なら別であるが……彼等の現状であれば、最低限の準備と段階を踏んでほしいと思う。

ふたりが友人なのか仲間なのか、はたまた恋人なのか解らないが……

人生はまだ、始まったばかりだ。

「もう一度、ゆっくり考えてみて下さい。自分達のお店を持つのに、今の考えと計画で大丈夫なのか」

「…………」

「……開業が駄目だという訳ではないのです。ただ、料理人は腕が必要なお仕事ですから見習い仕事だけでは正直、難しいと思うのです。

……どうしても開業したいのならば……例えば、お休みの日に露店を借り、自分がしてみたい料理を出してみるという方法もあります。働くお店の定休日に貸していただいて、一日店舗をしてみる方法もあるでしょう。そうやっていく内に自分の腕やお客様の反応、おおまかな売り上げも解るでしょう。それで上手く行くようなら、実際に開業をすれば良いと思います。ふたりのお店が上手く行くように、研鑽が積めるようまだまだ出来ると思うのです。よく考えて、頑張ってみてください」

多くの人は、開業するのは人生の一大事だ。

……もし本当に困ったら、マグノリアが手を貸すのもお金を貸すのも可能だ。

だけど、そうじゃない。

(焦るな、ふたりとも!)

「わかりました……」

ふたりの内の女の子が静かに頭を下げた。慌てて男の子も隣で頭を下げる。

静かに去っていくふたりの背中をエリックと共に見送る。

「……マグノリア様。ありがとうございました」

暫くしてエリックは、安心したような悲しいような、複雑そうな表情でマグノリアにお礼を言った。

マグノリアは教会を出た。

ちょっと散歩をしようと、馬車には乗らず広場の方へと足を向ける。

今日は陽気な変人護衛のガイがマグノリアに付き従っている。

ディーンはお勉強、リリーは秋のお披露目に向けて色々とレクチャーを受けているらしい。

「……お嬢、いつの間にかでしゅましゅ言葉がなくなりやしたね」

「……。今頃?」

「年齢不詳の怪しさが薄れていたのに、それじゃあ完璧不審な幼女じゃねぇですか」

「……。不審じゃないし。健気な勤労幼女だもん」

「幼女は普通は勤労しないっすけどね」

「確かにねぇ。じゃあ幼女らしく買い食いしようっと」

「いや……侯爵令嬢は買い食いしねぇですからね?」

そう言いながら、中央広場の露店へと足を向けた。

何を食べようかと周りを見渡す。

……なんだかんだと言って付き合ってくれるイイ奴である。変人だけど。

「ねぇ! ちょっと、あなた。辺境伯家の人よね?」

いつかどこかで聞いた事がある声が聞こえてくる。

串焼きをお行儀悪くも立ったままガイと齧りながら、ぎぎぎぎと顔と首を動かすと。

腰に手を当て、仁王立ちしたモブーノ伯爵令嬢がいらっしゃいました。

(おおぅ……)