軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

アイディアは時に降って湧く

「お嬢様、急に出られると危のうございますよっ!」

護衛騎士さんが、鬼気迫る表情と頼み込むような様子で泣きついて来る。

ありゃりゃ。

「……ごめんなちゃいね。食べりゅ人達がどんな風に感じりゅか、実際に試ちてみたかったにょよ……」

言ったら反対されるからね……スミマセン。

もうしないです……多分。

持参していた濡れ手巾で顔を拭き、手櫛で髪を整える。

計画的犯行だろうってツッコミを入れたそうな三人の視線を感じる。

「本当に、危ないですよ?」

リリーが困ったように念を押すと、マグノリアは頷く。

「あい。気をつけましゅ」

「…………。」

ディーンが微妙な顔でマグノリアを見ているが……多分、しない、とは言わないんだなとでも思っているのだろう。

……そうである。出来ない事は言わない。心がけはするけど、嘘はいけないのだ。

馬車はそんな四人を乗せて裏路地を抜け、程無く走っては洋品店の前で停まる。

「沢山は購入しないですから、布問屋ではなく洋品店にしましょう」

リリーに促され、頷く。

護衛騎士がいそいそと先に降り、ゆっくりと馬車から下ろされる。

そしてぴったりと後ろにつかれた。

……うーむ。一気に信用を無くしたらしかった。

洋品店は、こぢんまりした印象の可愛らしいお店だ。リボンと洋服がデザインされた鉄看板がいかにもそれらしかった。

中は洋服や小物がディスプレイされ、見やすく展示されている。華美過ぎない実用的なそれら。

置いてある物の感じから、平民が多く利用するお店の様だ。

出入口の近くに切れ端が纏めて籠に入れられており、さっと目を走らせる。

「いらっしゃいませ」

柔らかい雰囲気の中年女性が声をかけてくれる。

切れ端を手に取り確認すると、にこやかに答えが返って来る。

「こんにちは。こちらはお幾らでしゅか?」

「小さい纏まりが二中銅貨、大きいのが三中銅貨だよ」

リリーに目配せをし、良さそうな柄を選んで貰う。

マグノリアは店員女性に、自分の縫ったハンカチを五枚ほど出して見せる。

「こちらでは買い取りはちていましゅか?」

「ええ……まあ、綺麗な布ね。刺繍も綺麗だこと……これ、お嬢ちゃんが?」

頷くと酷く感心され、細かい縫い目までじっくりと検分される。

「そうね。五枚で五中銅貨でいかが?」

「あい。お願いちましゅ」

素直に頷いて商談を成立させる。

リリーの選んでくれた切れ端を購入し、お金を払った時。

突然、頭の中に解決策の断片が弾ける様に浮かんだ。

「……あの! この切れ端よりも小しゃい布って、お店ではどうちゃれていりゅんでちょう!?」

マグノリアの勢いに一瞬目を見開いて、女性は不思議そうに首を傾げた。

「そうねぇ。ちょっと大きいのは穴が開いた時の継ぎ接ぎ用にしたり、本当に小さいのは焚き付けに使ったりかしら?」

「それ……必要じゃない分で構いましぇんので、定期的に譲って頂く事は出来ましゅか?」

女性は困ったようにマグノリアに確認をする。

「うちは構わないけど……お母さんやお父さんに怒られない?」

「あい。お幾らで譲って頂けましゅか?」

マグノリアが聞いても快い返事は貰えず、親御さんにちゃんと聞いてからね、と言い含められ。

おまけという事で、話に出ていた小さい布をタダで幾らか譲ってくれた。

手の中のカラフルな切れ端を見て考えを巡らせ、湧き上がるそれらを並び替え、精査し、何度もシミュレーションをする。

(……反応は悪くなかったけど、子どもって事で話になんないな)

焚き付けに使う位だ。

ある種大して役に立たないゴミの様なものだから、頼まれた・押し付けたと、万一子どもの親とトラブルになったらと考えると躊躇するのだろう。

その心配は尤もだろうと思う。大人の配慮だ。

(でも、多分これ使える! ……元手もそんなにかからず、力も要らない)

アゼンダは特に大きな産業を持たない土地だ。

食べる分だけ狩りをし、漁業もするが、技術が発達していないので現時点では遠くへ運ぶような産業としては成り立たない。

運ぶにしても干し肉や塩漬け肉、魚は干物にする位だろう。

殆どが地産地消が現状だ。

陶器類の焼き物は窯元が幾つかあるが、やはり然程盛んではない。テコ入れするにしても、マグノリアに知識が無い。

酒造も同じで、ワインだけでなくシードルやエール、蒸留酒と複数作られているようだが、これも売りにする様な規模でも出来栄えでも無いようである。前世のマグノリアは結構イケる口だったけれど、流石に自分で作る事も出来ないし、改良方法を知る訳でも無い。

国内で他にはないものとしては造船技術があるが、他国とそこまでの関係を強化しようと思っていない現在、事業として大きくして行く感じは無いだろう。

少なくともそれは今ではない。

技術を活かして他の物を作る事は出来るだろうけど、具体的に普通の大工仕事や金属加工の仕事と、造船に関するそれらの違いがマグノリアには解らないから、せっかくの技術を上手く活かす方法が思いつかない。

既存に無いもので、今あるものと利益相反しない。

……若干の重なりはあるだろうけど、購入目的が違うだろう。

良い意味で田舎臭い、牧歌的なアゼンダに似合う感じでもある。本格的な技術は知らないが、基本的な事ならマグノリアにも解る。

幾つかの洋品店と布問屋、工房を回ってみたが、皆同じような反応だった。

飛びついてくれたら楽ではあるが、そうでないのは人間性がきちんとしているという証拠でもある。

……撤退させるためにか、何処でも小さなハギレの小山を渡してくれる。買うと言っても面倒なのか早く追い返したいのか、お金はいいと言われてしまう。

マグノリアは取り敢えず解決策を捻り出したことに満足しながら、殆ど元手を使わずに手に入れた宝の山を手持ちの大きな布で包むと、ムフフフ……と変な笑い顔をして、ディーンと護衛騎士を怖がらせた。

ふと移動中の外に瞳を向ける。

……食品を売っている露店を見て、余ったものってどうするのか考える。

冷蔵技術や保存技術が発達していないだろう世界だ。

売り切る分しか仕入れない? 叩き売り? あげる? 廃棄?

上手く循環するシステムを作れれば良いのだが。

飽食の時代とは程遠い世界なのだ。廃棄なんて勿体ないことはせず、上手く使いきれないものか。

長考に入ったらしい小さな主を見て、リリーはハギレの山をみつめる。

どうやら、また何かを思いついたらしい。

このところ色々と考えている様子が見られたが、その解決策なのか。

子どもらしく、もう少しゆったり遊ぶとかは考えないのかと思わなくもないが。ジェラルドにしても、アゼンダの二人にしてもいつも何かと忙しくしている。

(御血筋なのかしらねぇ……)

少し呆れつつも、何をするのか楽しみなところでもある。

さてさて、何か布が大量に必要らしい。

取引相手の大人たちはつれない様子だった。交渉はなかなか困難なのだろう。

自分がお願いしてみるかと提案したが、取り敢えずは大丈夫だと断られた。交渉すると同時に、何かを見極めてもいる様子だ。

(っていうか、マグノリア様ってば、本当に四歳なんですかね……?)

リリーは、誰もが至極当然に持ちそうな疑問を心の中で問う。

向かいの席には、慣れない護衛対象者に振り回されてどんよりとした表情の騎士が座っている。

……可哀想に、と思う。

タフな環境で生き延びて来た主人に付き添うには、自身もタフでなければならないのだ。

(……後で胃薬をあげよう)

そっと、ドンマイです! と心の中で若い護衛騎士へエールを送るリリーであった。