軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

礼拝と炊き出し

思わぬ闖入者に遭遇したが、その後は何事も無く教会の中に入る事が出来た。

教会の内部は、マグノリアも映像で見たことがあるキリスト教の教会の様な雰囲気だ。

領都の教会だからか、意外に広い空間。

『正教』と言われるこの世界の宗教。

正面に祭壇、高い天井。木で出来た長椅子。

壁が白いからか、意外にその中は明るい。

窓を彩るステンドグラスには、主神である『全能の大神様』を始め、『花の女神』『海の女神』『秩序の女神』『智慧の女神』『信の女神』『愛の女神』がいるそうだ。

色付きのガラスが柔い光を通す。

幻想的な薄虹色に浮かび上がる神々の描かれた窓を眺めながら、真ん中辺りの席へと座る。

しばらくするとふわふわの白いお鬚の司祭が教壇に立ち、説法を始めた。

こっそりと周りを見回すと、祈りの様に手を組んで話を聞く人、目をつぶる人、司祭を見る人……

信仰に対して特に熱心な訳ではなく、極々一般的な日本人だった記憶しか持たないマグノリアは、自分がここに居る事が不思議で仕方が無かった。

およそ三十分程で礼拝が終わり、周りは帰り支度を始める。

遠慮がちに騒めく人いきれの中、リリーとディーンに小さく話し掛ける。

「ちょっとだけ司祭様とお話がちたいの。少しだけ待ってくれりゅ?」

「わかりました」

二人が頷くのを確認して、マグノリアはゆっくりと席を立つ。

前に並んでいる人たちが話し終わるのを待って、そっと声をかける。

「初めまちて。お疲れのところを申し訳ありまちぇんが、少ちだけお話がちたいのでしゅが……よろちいでしょうか?」

小さな女の子に呼び止められ、司祭は微笑み膝をつく。

「はい。大丈夫ですよ。何か質問ですかな?」

司祭は日頃、病気の家族の為に祈って欲しいなど、色々な要望を受ける。

……身なりはそれ程でもないが、それは敢えてなのだろう。年齢には似合わない言葉使いに、良く躾けられた家の娘だろうと確信する。

「わたくち、マグノリア・ギルモアと申ちます」

幼女が名乗り、礼を取る。

司祭は小さく目を瞠り、ゆっくり頷くと礼を返してくれる。

「司祭をしております、シャロンと申します……元帥殿のお孫様ですかな?」

「あい。訳ありまちて、祖父のもとに身を寄せておりまちゅ。早速確認でしゅが、もちも奉仕活動に参加ちたい場合など、いちゅ頃までにご連絡を差ち上げれば問題ございましぇんかお教え頂けましゅか?」

シャロンは優しく微笑む。

「いつでも差し支え御座いません。いらしたい時にいらしてくださいませ。もし……何かこちらでご用意が必要な場合などは、三日程前にご連絡頂けましたらご対応可能かと思います」

マグノリアは司祭の目の動きや頬の動き、手足の揺れなどをそれとなく確認する。無意識の身体の動きは、その時々の心理状態に左右され易く、なかなかコントロールが難しい。

また、聖職者は良くも悪くも振り幅が大きい。

まあ前世の場合だが。

閉ざされた世界や権力の集中する場所は、とかく腐敗しやすいのだ。

――変な人に関わると保護者に迷惑が掛かるので、注意が必要だ。

見て取る範囲では下心などは見受けられないし、変な感じもしない。後は、周りにリサーチして関わっても大丈夫か確認するしかないであろう。

「承知いたちました、ありがとうごじゃいましゅ。家の者と相談ちて、いつかお伺いしたいと思いまちゅ……お忙ちいところ、貴重なお時間を頂きまちてありがとうごじゃいまちた」

「はい。お待ちしております」

礼を述べ暇をする。

リリーとディーンのもとに戻り、扉を出る時に振り向くと、司祭はこちらを見て正式な礼を取り見送ってくれた。

後ろに控える大神の像と、四方を護る様に囲む女神のステンドグラスが不思議で幻想的な雰囲気で。もう一度頭を下げる司祭を見た。

「……後は炊き出しの様子でしたね? 炊き出しは騎士や教会の人達、奉仕活動をされる方々で作り、並んだ人々に振舞います」

一度馬車に乗り込み、教会の裏手側に移動をする。

「それなりの人数が並ぶので、メインストリートの往来や礼拝で出入りする人々の邪魔にならない様、勝手口近くで行っています」

荷物や食事の運搬も簡単ですしね、と護衛騎士は付け加えた。

炊き出しの列から少し離れた所に馬車を停めて貰うと、マグノリアは暫し人の列を観察する。スラム街の人間が大半なのか、先日見たような煤けた服装の人間が多い。

騎士と、教会の下働きや若い修道士がパンとスープを配っている。

配られたものを手に持ち歩く人を見ればほのかに湯気が立ち上っており、それが温かい事が察せられる。

おもむろに視線を落とすと、マグノリアは靴墨で顔を汚し、髪の毛に手を入れかき混ぜ、ボサボサにする。

「ちょ、お嬢様!?」

固まる三人を尻目に、マグノリアはノブに手を掛けると、ぴょんと今ほど停まった馬車から飛び降りた。

「ちょっと試ちて来る」

「だ、駄目ですよ!!」

止めても止まる訳はなく……ちてちてと小走りで列へ走って行く。

ああぁぁ……!

断末魔に似た小さなうめき声が馬車の中に木霊する。

「~~~~殺される(セルヴェス様に)っ!!」

護衛騎士は半泣きで叫びながら後を追って飛び降りた。

列に並ぶと、小走りに、しかし微妙な距離を空けて護衛騎士が横にやって来た。

言ったところで帰らないだろう事は理解しているらしい。

知らないふりしてるけど警護はしてますよな感じを装い、警護しているらしかった。

意外に列は早く進む。毎週しているというから、手慣れているのだろう。

目の前で愛想良くスープをよそう係の護衛騎士は、給仕台の向こう側からちょこんと顔を覗かせたマグノリアを見て、思わずぎょっとした。

「お、おじょ……!!」

「(しーっ!)」

マグノリアは無言で指を唇にあてて合図をする。

おずおずと頷きつつ、マグノリアとその横の方に居るどんよりした顔の同僚を交互に見て、察したような微妙な顔をする。

「しゅこしで良いでしゅ」

「……はい……」

深い木皿に半分より少ない位のスープを入れると、ゆっくりと手渡してくれる。

「お熱いかもしれないので、気を付けて下さい」

「ありがとうごじゃいましゅ」

マグノリアは騎士ににっこりと微笑み、修道士から木匙を受け取る。

流れる様に横にずれ、堅パンを貰い、やはりぎょっとされるを繰り返す。

隣にいる修道士達はみな不思議そうな顔をして、騎士とマグノリアを見比べている。

列から少し離れ、マグノリアはそっとスープを口に入れた。

(味は予想通り薄い……キャベツに人参、蕪、玉ねぎ、キノコ……後、何かの豆? ポテト芋も入ってる?)

浮いている細かく切られた野菜を検分し、口へ運ぶ。

肉は入らないのだろう。不味くは無いが、旨いとも言い難い。

(もう少し味が濃ければ良いのかな……?)

しかし秋も深まった今の季節、温かいものは御馳走だ。

口に運びながら、圧倒的にコクが足りないと思う。

堅パンも、保存性を高める為かカッチカチだ。スープにつけてふやかして食べるのだろう。

基本は寄付と領主家からの財源から出ているのであろうから、定期的にとなれば早々贅沢も言っていられないのだろうが。

(やっぱり、自立が一番だよねぇ……)

足を引きずるおじさん、痩せたお婆さん。薄汚れた子ども……

列に並ぶ人々を見て、マグノリアは思案する。

力仕事が少なく、女子どもにも出来て、場所も融通が利き易い。

初期投資を少なくするには、道具も少なく原材料が安価なもの……

(難題だな……遣りたいもの・遣らせたいものではなくて、出来るもの……)

難しい顔をしてスープを口に運ぶマグノリアを横目で見ながら、炊き出しの騎士たちは、やはり不味かったかとハラハラとしていた。