軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

鎮火

「……これは第二王子の剣っすね」

「実験道具などの残骸は残っているが、虫らしきモノは無いな」

地面の上に爆発の熱で溶け焦げた剣が横たわっていた。

その剣が刺さっていた毒虫の姿は影も形もなく、一緒にいたもう一匹も同じであった。

「……周囲五キロ範囲に魔道具を使用しての生命反応もありません。駆逐されたと考えて宜しいかと」

「念のため武装した騎士達に、周囲を探索させております」

「……あの衝撃ですから、多分心配はないと思いますが」

ユーゴや師団長など、騎士団と海軍のお偉いさん達が集まって話し合いを続けている。

マグノリアが引き起こした――実際に実行したのは、ラドリとガイなのだが――粉塵爆発によって周囲に毒虫が生きたまま飛び散っていないかを確認しているのだ。

万一、魔獣の様な毒虫が生息していたら一大事である。

無人島なのですぐさま影響が出るとは考えられないが、何をきっかけに広まるか解らない上に、心無い人間に利用されるという事も考えられるからだ。

米粉ならぬ『弾け麦粉』を使用した粉塵爆発は、思ったよりも大きな爆発を引き起こした。

……いや。元々どの位の爆発が起こるのか、科学者でもテロリストでもないマグノリアには与り知らぬ事であるが。

だが、そこそこの爆発と建物の延焼であろうという予想があった訳で……多分、過去にドラマかアニメででも見たイメージが頭の片隅にあったのだろう。

蓋を開けてみれば、建物は全て残らず吹っ飛んだばかりか、建物のあった場所は抉れて穴が開いている。

消火活動をして鎮火していくに連れ、予想以上どころか予想外の結果に顔を引きつらせるマグノリアであったが……。それ以上に内心ゾッとしているのは周りの大人達である。

海水と泥と煤に汚れてはいるが、こんな可愛らしい少女が引き起こした大爆発。

いつもながらとんでもない爆弾娘である。

魔道具でない本物の爆発は、想像以上に危険なものであった。

マグノリアはマグノリアで、事の重大さを理解しつつも、弾け麦の持つ特性があんなに大爆発に繋がったのだろうかと、本気で首を傾げていた。

もしくは魔法? それとも相乗効果?

ある程度、計算式で爆発規模を知る事が出来るのかもしれないが。如何せんマグノリアにそんな計算式の知識は無い。

消火はギルモア騎士団、イグニス海軍。様子を見に来たマリナーゼ帝国海軍まで総出での作業になった。

モタモタしていては、無人島全体に火が回りかねないからである。

海水その他、使えるものは全て使用し、二時間後に火は全て鎮火した。人海戦術で、火災規模の割には早い鎮火であった。

「……それでは閣下、詳しいご説明をいただきたく」

マリナーゼ帝国海軍の代表者が、セルヴェスにお伺いを立てる。

彼も消火活動に駆り出され、顔が煤けている。

「うむ。犯人たちに聴取出来ていないので不明な点、憶測があるかと思うが……」

セルヴェスが頷いて、船への同行を了承する。

「おじい様……!」

「大丈夫じゃよ。取り敢えず船へ戻って休んでいなさい」

不安気な顔をするマグノリアに、セルヴェスが笑って頷く。

クロードとガイに向かって頼むと頷いた。

両国近海で起こった大爆発は、悪意やら他意があるのかないのか、きちんとさせる必要があるのだ。

どちらにしろ人身売買のアジトにこの島が使われていたと解った時点で、マリナーゼ帝国側にも報告する事は確定だ。織り込み済みである。

「私も同行いたします。エルネストゥス・アドルフス・イグニスと申します」

アーネストが言いながら進み出る。

身内のしでかした不祥事であり、更にはセルヴェス達が知らない事も知っているだろう彼の同行に、セルヴェスもマリナーゼ帝国側も頷いて了承した。

ここから暫く、セルヴェス達が戻るまで待機となる。

確認や検証は他のもの達に任せ、取り敢えず船へ戻る事にした。

促されながら、マグノリアは建物のあった場所に向かって祈りを捧げる。

(……ごめんね、虫。そして木や草……緑達も)

彼らも命である事に変わりはない。

理由があったからとはいえ、必要以上に傷つけて良い訳ではないだろう。

すると、空からちらちらとピンク色の光が降り出した。

その光は建物のあった場所と焼け焦げた大地、そして虫たちがいた場所に優しく舞い降りて行く。労う様に癒す様に、ゆっくりと溶け、しみ込んで行った。

「……癒しの魔術……?」

「いえ。彼女のルーツがハルティアなのですよ」

空を見上げている騎士達に混じって、師団長が呟く。

それに対してクロードが答えた。

ガイが、愛の女神の色を纏ったマグノリアを見ながら続ける。

「愛の女神の祝福っすね……」

この世界では、時折真摯な祈りに対して、神々が気まぐれに神々の祝福を降らせる事がある。

マグノリアには魔力は無い。ハルティアの血に宿る筈の妖精の力もない。

だが、神々に愛でられてはいるのであろう。それが果たして干渉なのか愛情なのか、執着なのかは誰にも解らないが……

******

疲れ切ったラドリは、マグノリアの頭の上ですぴすぴと寝息をたてていた。

道すがら、ガイはマグノリアに頭を下げた。

「すみません。お護り出来ず……また、黙ってやして」

ガイの深刻そうな声色に、マグノリアはまじまじと顔を見た。そしてあっけらかんと答える。

「そりゃあ、人間、言えない事だってあるでしょ」

マグノリアも、前世がある事をガイに話してはいない。いや、前世と言って良いのか微妙なところだが……

取り敢えず奇妙な異世界と地球のUターン話は、極々一部の人間にしか話していないのである。

「……その、お嬢は気持ち悪くないっすか?」

「えっ? 何で?」

魔力持ちは極力自分の力と正体を隠す。みそっかすにされる位で済むならまだしも、下手をしたら迫害されかねないからだ。

人間は未知なものや人智を超えたものには畏怖を抱く。

知らないものは怖い。太刀打ち出来ないものも恐怖だ。

「でもま、魔法使いだったのは意外だよね!」

萎れたおっさんの魔法使いとか、全然可愛くない。

マグノリアは美少女でもイケメンでもなければ、妖艶な魔女でもない目の前の魔法使いを見て噴き出した。

「でも便利じゃん? これから出掛け先とかで、竈がなくても料理が作れるね!」

それに、バーナーが無くて作れなかった焼き色を付ける事が出来るだろう。

炙りサーモン、焼きカラメル。大トロの炙り……

今まで出来なかった事が出来るようになるだろう。

そう考えてニッコリ笑うマグノリアに、ガイは細い目を目一杯開いて瞬かせていたが、心底可笑しそうに笑った。

「魔力をそんな事に使おうとするなんて、お嬢くらいのモンっすよ!」

「え~? いいじゃん! 有効活用でしょうよ?」

笑われて心外らしいマグノリアは、大きく頬を膨らませて口を尖らせた。

わだかまりが解けたらしいガイの姿を見ながら、クロードは鴉を飛ばす。

一羽は今もキリキリとして報告を待っているだろうアゼンダの館へ。もう一羽は王都のジェラルドの元へ。

……今頃、ジェラルド達が待ち構えていたところに現れた吟遊詩人と女官長のあれこれに、王宮がひっくり返っている事だろう。

そしてもう一羽、ペルヴォンシュ侯爵領の夫君に。

こちらは一段落しそうではあるが、果たしてあちらはどうなのだろうか。

今回現れなかった砂漠の国の豪族。まだ追い切れていない事が多数ある。

――何もなければ良いが。

そう心から願いながら、鴉を夜の空に放った。

*******

今度は巡視船で本船に戻る事になった。

どんな船で来たのかと思えば、それはコレット達が所有するキャンベル商会の商船であった。

薄汚れた上に、いつもの如くあちこちが破れたマグノリアの姿に、パウルとサイモンにはギョッとされたが、とにかく無事と解りホッとされた。

そして、怖かった事や心配した事、怖かった事を切々と語られたのである。

……怖かったが重複しているのは間違いではない。パウルの話の大半は怖かった事で占められていたのである。

ちょっと呆れつつも、それでもそれを押して助けに来てくれたのだ。マグノリアは心の底から礼を言う。

「お話し中申し訳ございません……何か、変な奴らが漂着していたんで捕まえておきました」

「キャプテン・マンティス!?」

おずおずと言いながら騎士が差し出したのは、何だか妙にボロボロになったキャプテン・マンティスであった。

「……やっぱり気になって、引き返して来てやったんだ!」

だいぶボロボロだが元気らしい。

マグノリアがイグニスと砂漠の国の奴隷船に乗っているところに遭遇したキャプテン・マンティス。

マグノリアに乗せてくれと言われ断ったものの、どうにも気になって引き返して来たのだが。

アジトのある無人島近くに差し掛かったところ、いきなり大爆発が聞こえたと思ったら大きな飛来物が山のように降って来て船が大破、座礁したらしい。

更には爆発のせいで海面が津波の様な状態にもなり、キャプテン・マンティス号一同は、命からがら海岸に辿り着いたとの事だった。

「あの爆発、まさかお前がやったんじゃないだろうな!?」

「ぐっ!?」

マグノリアは言葉を詰まらせ瞳を逸らした。

非常に疑わしいという目でマグノリアを見遣るキャプテン・マンティス。

「……元はといえば、アンタが始めに船に乗せてくれたらこんな事にならなかったんじゃん!」

「心配して戻って来れば、なんだその言い方は!」

ふたりは顔を突き合わせて、片方は歯を剥き出し片方はメンチを切りながら、不毛な言い合いを続ける。

「…………。まあ、お元気そうですね」

「お友達ですか?」

ため息をつきながら苦笑いするサイモン。若干引きながら、首を傾げる師団長。

「……賞金首の海賊ですよ。まあ、ちょっとした知り合いみたいですよ?」

ユーゴの言葉に、ガイがうんうんと頷いた。

クロードが初めて見るキャプテン・マンティスをまじまじと見て、呟いた。

「…………。『 蟷螂(マンティス) 』なのに、何故服が臙脂なんだ?」

彼の一張羅をみて、緑色でない事に首を傾げる。

「そ、そこ!?」

「似合うからだっ!」

「うん?」

怒鳴るキャプテン・マンティスに、マグノリアがため息をついた。そして諭すように言い含める。

「まぁ、わざわざ引き返してくれたから今回は見なかったことにしてあげるよ。……もういい加減、海賊辞めてまともな仕事に就きなよ?」

「うるせー! 俺様は大海賊になるんだ!!」

思ってもみない小者な賞金首の大志に、みんなが絶句した。

「ええぇぇ……?」