軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

マーガレットは考える

私、マーガレット・ポルタ。

二年前にママが亡くなってからパパが現れて、貴族――ポルタ男爵家の養女になって。

短い間だけど色々あった。

ママが病気になって、悲しいしどうしていいか解らないっていう時期もあったけど。

でも、辛い時こそ笑うと良い事があるんだよって言われたり、マーガレットは笑っている方が可愛いよって色々な人に言われて来た。

――だから笑顔を心掛けるようにしているの。どんな時も。

貴族のお母様は自分の本当の子でない私に意地悪はしないけど、どことなく邪険にしているのは解る。

……まあ、そりゃそうよね。夫が自分以外に愛した人の子どもなんて、やっぱりどう考えても良い気持ちはしないと思うもの。

それにも関わらず、優しくはないものの意地悪しないだなんて心が広い人なんだと思う。

出来る様で出来ないと思うんだ、現実的には。だからお母様の事は恨むどころか感謝している。

異母兄弟もそう。

お兄様と弟は、いきなり現れた異母姉妹にどう接して良いか解らずに、凄く戸惑っていると思う。

家族の生活の中にいきなり異物が現れた様なものなのに、でもやっぱり異母兄弟も意地悪なんてしないから、本当に凄いなと思っているの。

男爵家とはいえ有名な家でもないらしいポルタ家。

領地持ちではないし、当然それ程裕福と言う訳でもない。

男爵家の侍女さんにマナーを教えて貰って、勉強は独学で学んだ。

初めは弟の教科書を見せて貰って、段々解るようになったら兄の教科書を貸して貰って。

幸運だったのは、ママが字を教えてくれたから。

大きくなって働くのに役立つだろうと――裕福な平民のお宅や低位貴族のメイドになれたら、文字が読めるとお仕事が増えるかもしれないと言って、小さい頃から少しずつ教えてくれたの。

計算は、ママが病気になってお買い物をする時に誤魔化されないように、少しずつ覚えた。あとは子どもでも出来るお仕事をギルドや近所のお店のお手伝いをした時、万が一にもズルされない様に。

だから、知っている事を使って少しずつ覚えたの。

病気のママを見ている事しか出来なくて、泣いてばかりいた日々に比べたら、全然辛い事なんて無かった。

頑張れば頑張るだけ出来るようになる勉強は、結果が目に見えて解り易い分、むしろやり甲斐も頑張り甲斐もある。知らない事を知るのも楽しいし、出来なかったことが出来るようになるのもとっても楽しいから、全然苦じゃない。

学院へ通うお兄様を見て、とても楽しそうで行ってみたいと思ったんだ。

学院内では、高位貴族も低位貴族も、みんな平等なんですって。

大人になったら考えられない事だと思う。ううん、きっと学院の外でも違うだろうから、学院の中だけの魔法みたいだと思ったらとっても楽しくなって来て、自分でも行ってみたいなって思ったの。

学院へ行く事は良い顔はされなかったけど、低位貴族だとしても成績が良いと高位貴族でもとっても高位なお屋敷の侍女になれたり、学院の教師になる事も可能なんですって。

だから、何度もお願いして通わせてもらう事にしたの。

同じ位の人達と一緒に過ごせるのも楽しそうで憧れるし、お仕事か結婚するまでのつかの間、ちょっとだけ楽しい気持ちを味わってみたいって思ったし。

もしかしたらお友達も出来るかもしれない。

ママと住んでいた家の近くにも何人かお友達がいたけど、お別れも言えずに離れ離れになってしまったから。

どうせなら沢山お友達が欲しいな!

勉強も頑張りたいし、ステキな学院生活を楽しみたいなって、ウキウキした気持ちになった。

入学式の日、あまりにも嬉しくって学院内を見て歩いていたら、上級生にぶつかってしまったの。

その上級生は今まで見た事がない位にステキで格好良くて、思わず見とれてしまう位だった。

謝ってくれた上、引っ張って起こしてくれて。

学年は違うけどお友達になれたら嬉しいなって思って、思わず握手したんだ。

また逢えたらいいな。アーノルド様。

そして。

いっぱいいっぱい頑張ったらか、上位クラスにクラス分けされて。最初は良く解らなかったけど、説明を聞いたら何だか凄い事らしくってびっくりしたの。

家に帰って報告したら、お父様もお母様もなかなか信じてくれなかったけど、お兄様が本当だと言ってくれてやっと信じて貰えたの。今まで数人しか居ないから、まさか独学で勉強した私が上位クラスなんて快挙だってびっくりしてた。そしてとても喜んでくれて。

何か頑張って良かったなぁって思えた。

実際上位クラスになってみると、嬉しいばかりじゃないなって……

クラスの人達が……特に女の子が、マナーが違うと言って凄く注意をして来るの。

初めは真面目に聞いていたんだけど、そうするとどんどん沢山注意をされるようになって……

礼の取り方も、話し方も、歩き方も。笑い方さえ違うと逐一言われ続けると、なんだか凄く責められている気分になって来ちゃうのよね……歩き方って……本当にそんなに違うものなのかしら?

充分ちゃんとしている様に思えるけど、そうじゃないって強く言われるようになって。

平等なのにって思うけど、実際の家柄はどう考えても平等ではないから、言われても我慢しながら、怒っていると思われない様に微笑みながら聞いていたら、雰囲気が悪くなって来ちゃって。

意地悪はされないけど、何となく避けられるようになって――

悲しくて、落ち込んでいたら男の子が庇ってくれたの。

とても落ち込んでいたから、嬉しくって思わず腕に抱きついちゃった!

昔、近所のお友達と、嬉しい事があると良くハグをしたんだけど……流石に抱きついたらびっくりしちゃうだろうから、嬉しいって気持ちが伝わるように腕にギュってハグしちゃった。

女の子は無理そうでも、男の子たちとならお友達になれるかしら?

そう思っていたら急に、なぜだか女の子たちが凄く怖い顔をし始めて。男の子も困った顔をしていて。どうしたんだろうって不思議に思っていたら、いつの間にか私がその女の子から男の子を盗ったって陰口を言われるようになったの。

ふたりは婚約者同士だったらしいんだけど、どうしてそんな嘘を言うんだろう?

違うって言っても話を聞いてくれないし、あまりしつこくも言えないから、黙るしかなくなっちゃって。

そんな時、ルイ様と一緒にお昼を食べる事になって。

話を聞いてくれて、次からルイ様のお友達と一緒に食べようって言ってくれたんだ。

嬉しかったけど、社交辞令かなぁって思ったら、本当に迎えに来てくれて。

そしたらそこにアーノルド様もいてびっくり!

なんと、アーノルド様は王子様だったんですって! お伽話みたい!!

小さい時の事から色々話したら、みんなとても親身になってくれて、一緒に悲しんでくれて。

それなら毎日一緒に食べたら良いよって言ってたの。

流石に申し訳ないと思って断ったら、遠慮しなくていいよって言ってくれて。

でも自分は男爵家の人間だからって――流石に王子様と一緒に食事をするのは恐れ多すぎると思っていたら、気持ちに気付いてくれたのか、平等だよって言ってくれて。

なんだかとても嬉しかった。

みんな楽しくて優しい人ばかりだから、また毎日がとても楽しくなったの!

時折、ちょっと意地悪を言う人もいるけど、それは仕方のない事だと思う。全員が全員合う人や良い人ばかりじゃないし。

勉強も勿論頑張ってる。

充実しているなって思っていたら、上級生に図書室の裏に来るようにって言われたの。

ちょっと怖いので、偶然見かけた側近の人に一応伝えておいたんだ。

図書室に行くと、上級生の女の子がいて。

紅い髪の、切れ長な蒼い瞳の、とっても綺麗な女の子だった。

その人……ガーディニア様は、

『アーノルド『様』ではなく、アーノルド『王子』もしくは『殿下』と呼びなさい』

って言って来て。

前にアーノルド様に『王子って呼びますね』って言ったら、『友人だから『様』で構わない』って言われていたので、ガーディニア様にお友達だからって言ったら

『お友達でもお付けすべきかと思います』

って。

困っていたら、側近に話を聞いたアーノルド様達が来てくれて、凄くホッとしたのを覚えてる。ガーディニア様は丁寧に言ってたけど凄く怖くって……

何か、アーノルド様とガーディニア様が喧嘩している風になってしまって、困っていたら、ブライアン様に注意を受けて、思わず涙が出て来ちゃって。

今まで頑張って来た事や、クラスメイトには誤解を受けてしまった事、アーノルド様達に優しくして貰って嬉しい事。でも解って貰えない人にこうやって呼び出されたり注意をされたり……

どうして上手く行かないんだろう、とか。そんなに私って駄目なのかな、とか。

なんで解ってくれないの、とか。どれだけ頑張ったら良いんだろう、とか。

庇ってくれてありがとう、とか。助けに来てくれて嬉しい、とか。

色んな気持ちがごっちゃになって、何だか涙が止まらなくなって……

アーノルド様達は慰めてくれて。涙が止まるまで一緒にいてくれたの。

ああ、本当にお友達と思ってくれているんだって思ったら、また泣けて来ちゃって、皆を困らせちゃったんだ。

そして次の日に、やっぱり元気が出なくて、また泣いちゃうといけないから学院の奥の方にある四阿で休んでいた。

ひとりで落ち着くのに丁度良いと思ったら、いつもその四阿にいるらしい上級生のディーン・パルモアさんに会ったの。

何だか凄く駄目出しを沢山されて。更には男の子にベタベタしているとか、思ってもみない事を沢山言われて。

名乗ってはくれなかったけど、彼が二歳年上の同じ男爵家出身の上位クラスの生徒だと言う事は知っていた。やはり有名人だから。

同じ立場(?)だから、話を聞いてみると良いのではないかと言ってくれる人たちもいたけど、何て言って話をすれば良いのか思いつかずにいたのだけど……

だから、ああ、本当にマナーや立ち居振る舞いが駄目なんだなと思った。

同じ男爵家出身で、同じ上位クラスの生徒だから。

普通クラスの子でも無ければ、高位貴族でもない。

だからそこには妬みも嫉妬もなければ、嘲りや蔑視も無いだろうから……本当に駄目だし、ベタベタして見えるんだなぁと思えた。

真剣に話してくれている様子からも、意地悪で言っているようには思えない。

泣いちゃいそうになるのも、大丈夫かな? とか、解って貰えるかな? とか。キツく言われて、違うのになぁとか思っていると自然に出て来ちゃうのだけど……自分的には我慢しているつもりなんだけど、相手からするとそう見えないのかも……と反省した。

言われた内容はとても悔しいし、そんなつもりは無いとか、解って貰えない事は哀しくはあるけど。

でもそう言っても、相手には解って貰えないのだ。

人の気持ちや考えを変えるのって、とても難しい。

それなら、自分が文句を言われない様に変わる方が確実だ。

マーガレットは今まで、そうやってどんな環境でも前向きに頑張って来たのだ。

今回も、文句を言われない様に自分がマナーや立ち居振る舞いを見直す方が、大変ではあるけど結局早い筈。

(取り敢えず、注意を受けたところを中心に頑張ろう)

そう心に決め、教えてくれそうな人を考える。

(ポルタ家の侍女さんに教えて貰うのが一番良いんだけど、今まで教わっても駄目だったんだから、違う人に教わらないと直らないわよね……)

どうしたものか、思案に暮れる。

******

「どうしたの?」

「……ルイ様……」

「これから移動教室?」

マーガレットが小さく頷く。

アクアマリンのように薄い水色の瞳のルイは、とても優し気に微笑んでいた。

……一方マーガレットは、今まで色々な人に言われた事や、ディーンに言われた事が気になってしまい、どことなくぎこちない。

(……お友達でいてくれるルイ様達にまで、ベタベタしてるなんて思われてしまったらどうしよう……)

いつも輝くような微笑みを向けるマーガレットが、何やら考え込んで戸惑っている様な素振りをしている事に不思議に思い、ルイは首を傾げる。

「元気がないけど大丈夫?……もしかして、先日のガーディニア様に言われた事、気にしてる?」

「いえ、そんな事は……」

ルイ様は細やかに気遣ってくれる。伯爵家の嫡男で、王子の側近だというのに全然偉ぶらない人だ。

(そうだ! 高位貴族でアーノルド様の側近であるルイ様なら色々ご存じかも……)

「あの、ルイ様。マナーの補講など、あまりそういうものが得意じゃない人に教えてくださる方に心当たりはないでしょうか?」

「マナーの補講……? どうしたの?」

気落ちしている様なマーガレットの様子に、ルイは心持ち真剣な表情をして聞いてくれた。

(……どうしよう。確かディーンさんと同じクラスだったわよね……話しても大丈夫かしら)

「その……たまたまお話する事になった上級生に、私のマナーや態度の良くないところを指摘していただいたのです」

「……また、高位貴族に言われたの?」

ルイが優しげな顔を若干厳しくしてマーガレットに確認する。マーガレットは首を振った。

「いえ、同じ男爵家の方なのです。その方が仰るという事は、やはり欠点が目立つのだと思ったのです。だから教えていただける方をご存じないかと思って……」

ルイはマーガレットの話を聞きながら、彼女を見る。

――確かに、今後社交界に出る事を考えれば、もう少しちゃんと身につけた方が良い事は確かだな。

「それなら、僕のクラスのディーン・パルモアにお願いしてみる?」

侯爵家で従僕をしているというし、何より同じ男爵家だ。きっと解り易く教えてくれるのではないだろうか?

「……いえ! その、全然出来ていないので、あまり知らない上級生の手を煩わせるのも……」

歯切れ悪いマーガレットの言葉に、ルイは密かに首を傾げる。

(……何か、嫌がってる……?)

先日のガーディニアとブライアンの事もあり、知らない年上が怖いとかだろうかと考える。

「じゃあ、僕が教えようか? 女の子のマナーはそれ程得意じゃないかもしれないけど、教えると身につくって言うしね」

「そんな、お忙しいのに……」

「大丈夫だよ。時間がある時に少しずつね。流石にマナーや礼節は、独学では間違っていても気づきにくいからね? 僕も復習になるしね」

気兼ねない様、何でもない事の様に軽く言っては、いつもの優し気な表情でマーガレットを見た。

(優しいな、ルイ様……)

「ありがとうございます。お時間がある時で大丈夫なので、どうぞよろしくお願いします!」

マーガレットは気持ちを表すかのように、街で暮らしていた時の様にしっかりと頭を下げた。