軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

晩餐と講演会

「もし宿のご予定がなければ、城にお部屋を用意致しますが」

まったりとお茶を飲んでいると、外交担当のオジさんが気遣って声を掛けてくれた。

一介の商人を気遣ってくれるなんてと思ったが、国を背負っての正式訪問でないだけで、考えてみればセルヴェスは大国の大貴族であり、コレットはコレットでアスカルド王国にふたりしかいない女性爵位持ちだったのだと思い直す。

「しかし、いきなり参ってご用意も大変でありましょう。我々の事はどうぞお気遣いなく」

セルヴェスがそう断りを入れると、困ったような顔をした。

そんな様子を見ていたギルド長がやんわりと割って入って来る。

「皆様はマホロバ国の食べ物や文化にご興味がおありだと伺っております。もし宜しければ、知人の宿屋に部屋を確認してみましょう」

ギルド長は五十代後半だろう。キャンベル商会のサイモンが年を重ねたらこんな感じだろうかと思わせる紳士な風貌だ。

アゼンダの強面商業ギルド長であるドミニクに比べ、見た目も口調もだいぶ柔らかいが、きっとジェラルドと同じタイプなのであろうと思う。

ちらりとアゼンダの面々が顔を見合わせる。

「……それは助かります。是非ともマホロバ国の民の方々が食しているものや工芸品などが知りたかったのです。ですが、大人数ですと大変でしょうから無理はせんで下され。船で波に揺られるのもまた一興ですので」

セルヴェスが厳つい顔面に笑みを張り付ける。……却って怖いのはなぜなのだろうか。

「承知いたしました」

そう言うと、ギルド長は従者らしい若い男性に頷いて手配に走らせる。

「では、心ばかりですが晩餐をこちらのお部屋にご用意させていただきます」

アーネストはこの国の重鎮と晩餐会なのだろう。

そう断りを入れると、頭を下げて外交担当のオジさんも下がって行く。

入れ違いでこの国の民族衣装らしい服を着た侍女たちが料理を運んで来た。

「本日の晩餐会はイグニス国との友好の場であったので、イグニスのお料理と我が国のものが半々になっております」

こちらの対応を任せられているのだろう、ギルド長が説明をしてくれる。

……食べつけない食事や好みに合わない場合に備え、相手国の料理も用意してあるのだろうと思う。表向きは相互理解とリスペクトなのだろうか。

沢山の種類がある中、代表格らしい料理を示して説明をしてくれる。

イグニス国の料理は、ひき肉とナス、ポテト芋、ズッキーニやマッシュルームが交互に重ねてあり、トマトソースとチーズがたっぷりと掛かっている。それをオーブンで焼いたのであろう。綺麗な焼き色が食欲をそそる。

見た感じから、本来は素朴な料理なのだろう。

しかし流石王城の晩餐。綺麗にカットされ、付け合わせの野菜と一緒に美しく盛りつけられていた。

「……見た目に反して爽やかなのですね」

コレットが感心したように言って、もうひと口味わう。

マグノリアは使われている材料を吟味するように慎重に味わっている。セルヴェスとガイは普通に美味しく頂いている。

「はい。お野菜が多く使われておりソースも赤トマトが主ですので、酸味と甘みと旨味が一体化して、見た目よりも爽やかな味わいになっています」

イグニスの料理はチーズやヨーグルトなどを多用しているものが多いとの説明であった。

スープはマホロバ国のものであると言われる。

アーネストが、アゼンダのなんちゃって和食(?)と似た味わいのものが多いと言っていたマホロバ料理。どんな感じなのかと期待が募る。

冷めないよう載せられている蓋を開けると。

大きめに切られた魚の切身と飾り切りをされたシイタケ。更には出汁と醤油のスープに三つ葉らしき香草が散らされている……マグノリアが前世で食した事のある『お吸い物』が鎮座していたのであった。

「まあ! 魚の赤と白身、キノコの茶と切り口の白いコントラスト。葉物の緑……シンプルですが、とても美しいですわ」

コレットが感心したように呟く。

マグノリアがまじまじとカップの中を見る。漂って来る香りもお吸い物で間違いがない。

「喜んでいただけで何よりです。具材は貝だったり魚を団子にしたものだったりとその時々で様々なのですが、色味もお楽しみ頂けるようにこのような色味の魚をご用意いたしました」

マグノリアが口に含むと、過去散々味わった事のある一番出汁の味と香りがした。

セルヴェスとガイも、なんちゃって和食に似た味わいのスープな為、マグノリアの反応を伺うようにしている。

「……美味しいです、とても。このスープの出汁というのはすぐ手に入るものなのでしょうか?」

ギルド長は微笑みながら頷く。

「お口に合って何よりです。出汁は商会などで取り扱っております。街へご案内の際、そちらもお見せ致します」

ついでにシイタケも欲しいものである。

アスカルド王国やアゼンダにも沢山のキノコがあり、それぞれ味わい深いが、なんちゃって和食に是非とも干し椎茸を取り合わせたい。

ほっくりした白身魚の身を食しながら、マグノリアはそんな事を考えていたのであった。

お腹を程よく満たした所で、ギルド長がマグノリアに医師や商会関連の人間に、航海病に関する話をして貰えないだろうかと言って来た。

思っても見ない提案に、マグノリアは驚いて丸い瞳をまん丸にする。

「……え、私がですか? 説明書に書いてある以外には特に情報は無いのですが……」

自分が専門家ではない事を説明すると、心得ていると言ったギルド長が申し訳なさそうに、尚も頼み込む。

「勿論、お忙しいでしょうからお時間が取れればで宜しいのですが。一時間程で構いません。……知り合いの医師や、食品を扱う商会頭などが是非お話を伺いたいと申しておりまして」

……別に、ギルド長を困らせてまで嫌と言う訳ではないのだが……だが医者でも研究者でもないマグノリアに科学的な専門知識がある訳ではない訳で。ご期待に添えるような話を提供出来るとも思えない。

(……うーん。だけど、断ってイグニスとの国交正常化に影響があっても宜しく無いしな……)

それに、受けたら快く色々な食品を探してくれたり融通してくれるかもしれないし。そんな気持ちもちょっぴりあったりもする。

「日程はイグニス側にうかがってみないと……シャンメリー商会のスケジュールに合わせて行動予定ですので」

控えめな是を告げれば、本当に嬉しそうな顔をした。

「はい、アーネスト様にお伺い致します! ああ、良かった! 本当にありがとうございます!!」

医師から是非話を聞く場を設けてこいと詰め寄られたそうで、マグノリアの小さな手を両手で握ると、ブンブンと上下に動かしていた。

物凄く嬉しそうな様子に、マグノリアは取り繕いを忘れたギルド長をまじまじと見る。

(そのお医者さんはお友達なのかな? 子どもの話を聞きたいなんてもの好きだなぁ)

余りの感激のされ方に、若干引きながら苦笑いをするマグノリアであった。

晩餐会が終わった後、アーネストが顔を出した。

いつの間にかきちんと着替えたらしく、髪を撫で付けて貴族服を纏っている。

いつもは平民に擬態しているからか、非常にラフな格好をしているアーネストであるが、光沢がありシルバーにも見えるような薄灰色のジュストコールが、王子様感を否が応にも爆上げしていた。

「……皆様、お食事もご一緒出来ず申し訳ありませんでした。宿に泊まられるとの事ですが、大丈夫ですか? 遠慮なさらず城にご用意して頂きますか……」

「いや、そちらの用事を最優先して頂きたい。こちらは丁寧におもてなしをして頂いたので問題ない。宿は、素のマホロバ国を見てみたいのでその方が良い位なのだ」

セルヴェスがアーネストに説明をする。

全員の表情を観察して、嘘でない事にホッとしたように小さく息を吐いた。

「良かったです。明日は会議がありますので合流が夕方になってしまうかと思いますが、その後は数日空きますので……ギルモア嬢やオルセー様がお探しの物をご案内致します」

疲れているだろうに、気遣いの人である。

アーネストはマグノリアの前に膝をつく。

「お約束したクラーケンに毒がないかの確認は、明日の夕方にでも致しましょう。それと、講演会の申し出を受けられたとの事ですが、宜しかったのですか?」

自分達の為に気を使わせてしまったのではないかと心配そうに言う、アーネストの言葉に首を傾げる。

――講演会?

(え、あれってそんな大きな規模の話だった?)

マグノリアは同行者達の顔を見て、思わず首を傾げた。