軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

やってきましたマホロバ国

マグノリアはマホロバ国の土を踏みしめた。

船を降りる前は、もしや松林に日本風なお城といった、どこぞのポストカードな感じなのだろうか……と思っていたが、実際はアスカルド王国やアゼンダでも見るような極々普通の西洋風な街並みであった。

金のシャチホコやら富士山やらがあったら、それはそれで驚きではあるが。何とも拍子抜けな事である。

柔和そうな顔のオジさんたちが数名、並んで出迎えてくれている。

あくまでイグニス国の国交正常化(?)の事。こちらはついでにくっついて来た他国の商人枠(?)である為、大人しく後ろの方に並んでやり取りを眺めておく。

斜め後ろにいる隠密兼暗殺者は、滅多に潜入しない(微妙に)遠く離れた島国を目の前にして、ウズウズしているようであった。

……後程野に放って存分に諜報活動をさせるのが良いであろう。勿論イグニス国に迷惑にならない程度にだが。

「そして、こちらが以前お話しした航海病の予防と改善策を発見したマグノリア・ギルモア侯爵令嬢。そして騎士印の肥料を製造・販売されているアゼンダ辺境伯です」

話がひと段落ついたらしいアーネストがこちらを向いて、偉いオジさん方に紹介を始めた。

「辺境伯とギルモア嬢は、お祖父様とお孫さんです。そしてお隣にいらっしゃるのがキャンベル商会のオルセー女男爵です」

一瞬オジさん達がにこやかに挨拶をしようとして顔をひきつらせる。

筋骨隆々の山のような大男がグルグル巻きのベトベトのおっさんを引きずっており、その横にはなぜだかニヤニヤ笑っている小男がいて。更に右隣には妖艶なお姐さんも笑っているが、目はちっとも笑ってはいない。

目の前にはそれらを従えている様に半歩程前に立つ、ピンク色の頭になぜか眠っている小鳥を乗せた少女がちんまりと自分達――マホロバ国のおじさん達を見上げていたのであった。

「……た、助けてくれっ! 頼むっ!!」

喰い気味に、引きずられている男が半泣きでマホロバ国の面々に助けを求めていた。

……なぜか顎のあたりで髭が真っ直ぐに切り取られており、髭のおかっぱ状態になっている。そしてドロドロした粘液に塗れており、何だか生臭い匂いもする気が……

「……えっと……、この者達は?」

取り敢えず挨拶よりも助けを求める方を優先したようで、戸惑った表情でオジさんのひとりがアーネストにたずねた。

「早朝、航海中に沖で海賊に襲撃されまして。その襲撃して来た海賊……キャプテン・マンティスだそうです」

「はぁ」

苦笑いするアーネストと、襲撃と聞いて困惑するオジさん達。

「……で、皆様大丈夫だったのですか?」

「はい。アゼンダ辺境伯は現役の騎士ですし。皆様もご存じ、我が大陸の大戦に終止符を打った英雄のおひとり『悪魔将軍』ですから」

アーネストの言葉にオジさん達はざわめきながら瞳を瞠った。

「……悪魔将軍……」

言葉が続かない様で、固まったままセルヴェス達を凝視している。

鎖国状態の島国にも、隣の大陸の英雄の名前は轟いている様子だ。

一方で、セルヴェスはどう反応して良いのやら、太い指で頬をポリポリと掻くと、オジさん達の後ろの方に控える騎士達に茶色の瞳を向けた。

向けられた騎士達は、ビクッと身体を硬直させながら、一斉に気をつけをする。

「こ奴らを取り締まりいただきたいのだが……どちらにお渡しすれば良いか」

セルヴェスのドスの利いた声に、ゴクリ、生唾を飲む音が響く。

マグノリアは苦笑いした。

(あ~あ、委縮しちゃったねぇ……)

確かに威圧感たっぷりのメンツ(マグノリア以外)なので、いきなり初対面で勢ぞろいしては、友好関係を結び難いメンツである。

……マフィアの親分とその情婦、子分Aと良く解らん子ども、ボコられたモブといった絵面だ。

「で、ではこちらでお預かりを……」

勇気を出した騎士のひとりが、恐縮するような様子で指示を出す。

微妙な雰囲気で縄を引かれながら、助かったとか怖いとか、キャプテン・マンティスの奴らは何だか人聞きの悪い事をほざいて連れられて行く。

……もう一発ゲンコツをくれてやった方が良いのであろうか。

「あの者達は、なぜあんなに汚れているのでしょうか……?」

オジさん達が不思議そうに見送りながらアーネストに確認する。

アーネストは再び苦笑いをした。

「……襲撃の後、クラーケンに襲われまして……その時かかったクラーケンの粘液です」

「ク、クラーケン……?」

思っても見ない返答に、オジさん達は瞳をぱしぱしと瞬かせたのであった。

迎えに来ていたオジさん達は、外交担当者と輸出入や関税などの担当者、そして商業ギルド長だとの事であった。

馬車に揺られ一時間程。マホロバ国の王都、アキツに到着した。

一行は見慣れた石造りの城の中へと進んで行く。

「それにしても……本当だったんですね」

オジさんのひとりがしみじみと言うと、他のオジさんも頷く。

自分に視線が集まっている事を感じて、マグノリアは不思議そうに視線を返した。

「失礼いたしました。鎖国と申しましても、侵略の可能性が少ない別の遠い大陸の国々とは交流がありまして……ですので、航海病については我が国も他の国と同じように悩まされていたのです」

過去、マリナーゼ帝国の侵略行為から、比較的近い地域は同じ様な事が起こる懸念がある為行き来を制限したそうだ。丁度大陸が戦争でキナ臭くなり始めていたというのもあるのだろう。

逆に遠く離れている別の大陸の国々は、離れすぎていてそういった心配が少なかった為、そちらの国々とのやり取りは細々と続けていたらしい。

「商船が持ち帰った情報と品物を使用し、航海病が本当に改善され驚いたものです。更に開発された方が女性だと伺ってはいたのですが、お子様だとの話に重ね重ね驚きまして」

なるほど。長年悩まされていた病の為、研究者か医者が開発したと思ったのであろう。

この世界、女性の社会進出なんて非常に狭い限られた中での事なのだ。更に小さい子どもが作ったと聞いては眉唾ものであったに違いない。

「アスカルド王国と国交のある国の方に、絵姿を見せて頂いたのですが……非常に美しい幼い姫が描かれていて、信じられない気持ちだったのです」

そう言って穏やかに笑った。

確かに、初めて事業に取り組み始めたのは四歳だ。

……周りが良く許したものだと今更ながらに思う。

だがそれよりも。

何だか悪い予感がする。

「絵姿……?」

幼い姫?

怪訝そうなマグノリアの表情と声に、照れていると思ったのかオジさんが顔を緩めた。

「はい。お可愛らしい女の子の絵姿が。航海病を撲滅した小さな女神様として広く出回っているのです」

……え、何それ!?

(そんなん、聞いてないんですけど!?)

思わずアーネストに疑いの目を向けると、両手をあげて首を横に振っている。

「……違うのです! 感謝した多くの国の者達が、クルースで見かけたお姿や伝聞、アゼリア様の肖像画などを元にギルモア嬢の姿絵を描いて掲げ、感謝をしていたようなのですよ。それらが広まってしまった様なのです!」

イグニス以外にも、マリナーゼ帝国の商船や他の国々といった大陸の商船も、多数ザワークラウトを利用していたのである。

大陸ではアゼリアの姿も広く知られている訳で。その姿にそっくりな幼女だと言われれば、ある程度復元(?)は可能なのである。

……自国の事ならまだしも、流石に他の国の事を強く取り締まる事は不可能である。

勿論本人が嫌がるのでやめた方が良いと忠告はした。

したが、それ以外の事が出来るはずもなく。

するにしてもせいぜい、出回らない様になるべく買い占める位の事しか出来ないだろう。

……マグノリアに迷惑がかかるので、姿絵の販売を勧める訳もなく、諫める方に注力しているが。崇める位に感謝しているという気持ちも解らなくはない訳でもある。

「うわ~、最悪だ……めっちゃ恥ずかしい……」

マグノリアの花を掲げられるだけでも烏滸がましくて気恥ずかしいのに……!

項垂れるマグノリアを見て、その場にいた全員が笑った。

「では、エ……アーネスト様は王太子がお待ちです。アゼンダ辺境伯もお時間をいただけますか?」

「……いや、今回は個人的な商会として来ている。失礼でなければ、ご挨拶は国として正式に国交回復の話が出てからの方が宜しいのではと思うが……」

外交担当者が一瞬考えたような顔をして、セルヴェスに同意し頷いた。

「……畏まりました。せっかくの機会ではございますが……それでは、こちらの控室で暫しご歓談下さいませ」

そう言うと、アーネストと侍従を連れて別室へと消えて行った。

これからこの国の王族に謁見するのであろう。

彼の本名を言いかけた事から、シャンメリー商会のアーネストとしてではなく、本来はイグニス国の第三王子として来訪しているのだろう。

通された部屋は極限までに贅を極めつつも、非常にシンプルにまとめられた部屋であった。

まるで計算尽くされたかのような木目を活かした木の床。

眩しい程の白壁。柱の細やかな彫刻。テーブルや花瓶等、選び抜かれた調度品は非常に繊細である。

機能美とも言えるし、余計なものを究極なまでにそぎ落とし、且つひとつひとつにかなりの技術と技とが惜しげもなく注がれている事が解る。

本当の贅沢という奴だ。

「……凄いわね……」

思わずコレットが息を呑む。

しかしそれよりも。

「コレット様……姿絵の事、知っていたんですか?」

ジト目でコレットをみると、やや瞳を瞠っては、すぐに楽しそうに口元を隠した。

「今や、船で商いをする人間には常識ですわ」

それは、操舵室や食堂などに必ず飾ってあり……自室に飾ってある強者もいるのだという。

船乗り達は小さな女神を称えるのだと聞いて、マグノリアは非常に非常に嫌そうな顔で戦慄した。