軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

アーネストからの提案

久し振りに再会した少女は、すっかり大きくなっていた。

初めに出会った時が己の腰にも届かない程の小さな幼児であり、滑舌が良くなく『でしゅましゅ』で話していた事を思うと感慨深い。

そのくせ驚くほどの知識と能力にびっくりしたものであるが。

アーネストは数年前の出会いを思い出していた。

マグノリアに会う時は時折会う妹や親戚の子どものようで、その成長ぶりを見るのが楽しみでもあり、どこか面映ゆくもある。

元々非常に整った顔立ちをしていた娘であるが、かの有名な彼女の曾祖母であるアゼリア姫に瓜二つな顔は、文句のつけようがないであろう。

成長後の姿を想像できる年代になり、非常に楽しみな見目である反面、心配でもある。

……彼女の親代わりともいえる、祖父であり辺境伯であるセルヴェスと、義叔父でありやはり親代わり、兄代わりであるクロードの気苦労も忍ばれるというものだ。

てっきり目の前の少女が将来のアスカルド王国の王妃かと思っていたが、すっぱり断った上に他のご令嬢を後押ししたと風の噂で聞いて心底驚いたものである。

初めて会った時から驚くほど権力や名声というものに興味を持たない人であったが……事の顛末を伝え聞き、マグノリアらしいと苦笑いしたものである。

それでも、今もアスカルドの王妃は諦めていないらしく、色々と粉をかけ続けているらしいが、はてさてどうなることやら。

めでたくアーノルド王子の婚約者となったガーディニアも、優秀で美しい少女ではある。きっと賢妃になるであろう。

だがこれからの国の先々を考えた場合、マグノリアのような新しい風を運んで来てくれる人に国を任せたいと思う人も多い事であろう。

その位、彼女の発想と先進的な考え、そしてそれを行える手腕は評価されるものである。

……自分ももし国を率いる立場であったとするのならば、年甲斐も年の差もなく、彼女に求婚するかもしれないと思う。

彼女と手を携えて国を作って行くのは、大変でもさぞ遣り甲斐があり楽しいものであろうと思うのだが。

反面、その様な立場はまるで望まない彼女を閉じ込める籠でもある訳で、どうかそんなものには囚われずに、自由闊達に羽ばたいていて欲しいとも思うのであった。

「アーネストはアゼンダの最近の食べ物を食べましたか?」

本当はアーネストの正体を知っているマグノリアであるが、彼の希望により『シャンメリー商会のアーネスト』として接している。

シャンメリー家は元々平民の豪商であったが、娘が側妃に召し上げられた事で男爵位を拝命している。

よって表向きアーネストは彼女に呼び捨てて貰い、アーネストはマグノリアをギルモア嬢と敬称をつける。

自分を呼び捨てる人間など、数えるほどしかいない。

幼くも心を許した知人なのか友人なのかに呼び捨てられるのは、王子ではないただの『アーネスト』になったかのようで、柵からほんの一時解放されたように不思議と心躍るものだったのである。

「はい。面白いものが多いですね。特に『たこ焼き』が美味しくてびっくりしました」

「イグニスではタコは食べないのですか?」

小さな丸い形の生地の中に入っているのが、あのインパクトのある見た目のタコだと知って、初めは驚いたものである。

微かに首を傾げるようなマグノリアに、小さく頷く。

「そうですね。全然食べない訳では無いのですが、余り一般的では無いです。海辺の街ではアヒージョなどにして食べますが」

「食べると美味しいのですけどねぇ」

可愛い見た目にもかかわらず、なかなかの食いしん坊振りも彼女の特徴のひとつだろう。

美味しそうに食べる姿は、ご令嬢らしくはないが気持ちがいいものだ。

新しい商品は、その商品だけでなく付随するものも影響が波及する。

いつもてんてこ舞いになるアゼンダ商会とその仲間たち、という風に。

よって、商品がそこまで沢山産み出される事はないが――多分、マグノリアはもっと手札を持っている筈だが――その代わりなのかは不明だが、商品よりは料理の方が影響が少ないのか、見た事も無い食べ物がどんどんアゼンダで誕生している。

「そう言えば、ギルモア嬢がずっと探している『おこめ』なのですが」

「はい!」

おこめ、と言った途端の反応が面白い。

すごい勢いで顔を跳ね上げ、期待に満ちた表情。

聞き耳を立てる小動物の様で、思わず瞳を細める。

「大陸から少し離れた所にある『マホロバ国』という小さな島国があるのですが……」

マホロバ国は不思議な逸話がある国だ。

大陸からそう遠くない場所に位置する島国であり、独自の文化を持っている。

ご多分に漏れず植民地化しようとし、かつてマリナーゼ帝国が攻め入ったのだが。急に天候が荒れ突風が吹き、船が大破してしまったという。

果敢にも再び攻め入ったが、再び突風が吹き荒れ、船は海の藻屑になってしまったそうである。

二度の突風を神風と呼び、それ以来、かの国は神に守られた国と言われ、攻め入られる事はなくなったそうだ。

「……大陸が大戦時代に突入し、飛び火を恐れたマホロバ国は『鎖国』をしました。なので、近くにあるにもかかわらず、大陸の国々とは交流が無かった訳なのですが。大陸もだいぶ安定したので、国交を回復しようとずっと働きかけていたのですが、やっとごく一部の国と国交を再開する事になったのです」

……何処かで聞いた事のある話の集合体である。

『神風』は完璧にフビライハンの蒙古襲来――元寇の日本侵攻が元であろう。

『鎖国』も理由は違うが、日本がベースな筈だ。

更には『マホロバ』……日本の古語の『まほろば』の事であろう。

(……制作者はちょいちょい、実際にあった事を混ぜ込んでいるな。設定に行き詰ったんだろうか。しかしヨーロッパ風な国に、なにゆえ日本を混ぜ込むんだろう)

顔も知らないゲーム制作者に、マグノリアはちょっと呆れる。

「イグニスも国交を戻す運びになりまして……もしかすると、ギルモア嬢が欲しいと言っていた食品や植物があるかもしれないと思いまして」

しかし、日本ちっくな国というのも非常に気になる所ではある。

色々な場所に出掛けるアーネストが探してくれていたが、見つからなかった。

見た事も無いものを説明されて見つける訳で、伝言ゲームのようになってしまっている事も否めないが。

「もし、辺境伯やクロード様の了承があればなのですが。良かったらギルモア嬢も一緒に行ってみませんか?」

かの国の人々は非常に穏やかな人種であるそうで。

アーネストが国交交渉に行った時も、物静かで穏やかな国民というように感じた。

マグノリアは思っても見ないアーネストの提案に、朱鷺色の瞳を瞬かせた。