軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

エロゲーの皇子様はかく語りき・中編

途中言語を変えたユリウスが何と言っているのか、セルヴェスにもクロードにも解らなかった。

ふたりの知らない、いや、この世界には存在しない言語。

ただ、何度も聞いた事がある『ニホン』という言葉。

それを知る意味も語る意味も言うまでもない。

珍しくふたりに、マグノリアよりも動揺が走った。

(おや、ふたりも知ってるのか)

おかしな事実を打ち明けるという、意外な選択にちらりとマグノリアを見れば、警戒心丸出しの表情で頷かれた。

ユリウスは苦笑いする。

……敵ではなく、共同戦線を張りたいのに。

「じゃあ話が早いですね。僕……じゃない、俺は 鈴木海里(すずきかいり) と言います。大学三年で、日本からの転生者です」

日本語を話した時点で言わずもがなだ。

マグノリアはほんの一時で気持ちを立て直したようで、心の揺らぎをすっかり覆い隠したようであった。

「……私は名前は記憶から抜けて解らないですが、多分日本人女性で……過ぎてる方のアラサーです」

「おお! おB……ねぃさんっ」

……途中妙な間があったが聞かなかった事にしよう。マグノリアは円滑に進める為、眉を顰めるにとどめた。

「何故、私にその事を?」

「仮想敵国と思ってるでしょうから無理もないんですが、俺としては是非協力し合いたいんです!」

何としても、無意味な戦争を回避したいのだ。

「協力?」

マグノリアが微かに首を傾げる。

「そう。ここがゲームの世界だという事もご存じですか?」

常識的に考えればおかしい事を、再び問いかける。

「回避する為に動いています……ただ、ゲームと知ったのはここ数年です。私自身にゲームの知識は無いので」

――ゲームの知識はない。しかし回避に動いている。

再び警戒をするようなマグノリアを見て、小さく首を傾げた。

「じゃあ、他にも転生者がいるんですね?」

もしやふたりの内のどちらか?

しかし、セルヴェスとクロードには首を振られた。

「大丈夫です」

――利用しようとか、消しちゃおうとか、そんな物騒な事は思っておりません。

そう言って、ニッコリ笑った笑顔が大変胡散臭い。

自分の正体をさらけ出す一環なのか、バンダナのような大判の布を取ると銀色の髪が零れ落ちた。健康的な小麦色な肌なのは、海風にさらされる土地柄だからなのだろう。

垂れた緑色の瞳はどこかエキゾチックであり、目元のほくろがセクシーさを醸し出している。

(……えーと、この皇子の物理年齢はディーンと同い年だっけ?)

肉感的な唇と掠れたような声が、何やら宜しくないフェロモンを放出している気がする。

流石、エロゲーの主人公。色気妖怪である。

マグノリアは虫でも見るかのように大変厳しい視線を隠しもせずに投げつけ、愛らしい口をへの字に曲げている。

「…………。その前に、多分色々誤解や誤った認識があると思うので言わせて頂きますが、俺は中身普通の大学生ですからね! 勝手に転生させられて、自分の状況を却って危惧してますからね!?」

「…………」

「一般的な日本人男性が、いきなりお色気ムンムンの女性達に絡まれても恐怖ですから! 無理ですから! 俺は草食系ですから!!」

「……『ソウショクケイ』とは何だ?」

魂の叫びのようなユリウスの言葉を聞いて、クロードが気になったのだろう単語を繰り返してはマグノリアを見た。

セルヴェスもきょとんとしたような顔で見ている。

そんなん、聞かないで欲しいのだが……マグノリアはため息をついて、若干口籠りながら説明の言葉を探した。

「……ベルリオーズ卿のプライベートの、対極にある人です」

ああ、と気まずそうに視線を揺らしてから、クロードが更に気まずげにユリウスに問いかける。

「しかしながら殿下は、『破廉恥なゲーム』の『主人公』なのですよね?」

破廉恥。

思わず古臭い言葉に苦笑いしそうになるが……ってか、クロードやセルヴェスにも知られてるのか……そう思うと、ユリウスは苦笑い所か泣きたい気分になる。

「そんなん、ゲームの設定ですよ……ギルモア嬢だって『頭足りない系美少女』じゃないでしょ? とにかく、俺的に横恋慕して戦争を起こすつもりは無いですから。もう一人のメインヒーローにまるっとお任せしますよ」

……何やら好きでもない奴に、一方的にフラれた感である。まぁ、願ったり叶ったりなのだが。

複雑な気分でマグノリアは朱鷺色の瞳を瞬かせた。

まるっとお任せされたもう一人のヒーローも、微妙な表情をしている。

微妙な表情のヒーロー(?)とヒロイン(?)を見比べて、たった今離脱を表明したヒーロー(?)が口を開いた。

「……ま、今だと限りない犯罪臭を感じますが、この世界では結婚そのものは合法ですからね……。数年後、大人になれば今よりももっと美しくなりますから、きっと大丈夫です!」

「いや、見目は今でも充分美しいですが……そういう対象かどうかはお互い別として」

無責任にサムズアップするユリウス。

そこじゃない、と言わんばかりに恥ずかしい事をさらっと言うクロード。

すっかりギャラリーと化したセルヴェスがブワンブワンと同意の頷きを連打している。

……むち打ちにならないと良いが。

何だか思っても見ない方向に進んで行く話に、マグノリアは現実逃避をする。

普段セルヴェスには可愛い可愛いと言われ慣れて、もう念仏か呼吸かといった感じではあるが。

言われ慣れない人間からの評価、それも高評価というのは気まずいものであるのだ。

(そ、そうか……美しいの権化のクロ兄から見ても及第点なのか)

そして戦争が起こる見た目とか、恐ろしい事である。

ブスよりは美人の方が良いのだろうが、過ぎたるは猶及ばざるが如しだ。

「年齢差もあってないようなものですよ。ギルモア嬢の方が中身は(だいぶ)年上ですよ」

含みを感じる言い方だが、何はともあれ。

「……取り敢えず、最重要課題の戦争回避は達成出来そうですね」

無理矢理まとめるマグノリアに、三人が顔を見合わせながら頷いた。

そしてすぐさま、ユリウスは首を横に振ってため息をつく。

「大体、戦争なんかしている所じゃないですよ。中身平民なのに皇子とかやらされて、荷が重い所の騒ぎじゃないんです」

「あー……解るわ」

ガックリと項垂れる海里青年に、マグノリアもしみじみ同意する。

「軍事国家とか言われてますケド、争いごとより国政と国際社会に視点を向けないと。新しい産業とかも考えないとだし。正直何から手を付けて良いのか解らない位なんですが」

元日本人と正体をバラしたからなのか、話す様子はざっくばらんである。ぶっちゃけてると言っても良いかもしれない。

ヴァイオレットとは違って、仮想敵国とまでは言わないけど、大国の皇子。様子見の必要はあるだろうけど、マグノリアに対してゲームの設定のような執着は感じられなかった。

そして転生先の立場上、責任も莫大で不憫である。

国際社会。そして国政。時代も世界も違えど、その辺の問題は地球と変わらないらしかった。

思わずマグノリアも言葉遣いが崩れる。

「……緊急性のあるものか、気になる所からするしかないんじゃないのかなぁ」

「そうですよねぇ。やっぱしインフラかなぁ……」

本気で頭を悩ませているらしく、ゲンナリした表情を隠さなかった。

「人件費もそうだけど、建材費も恐ろしい事になるしなぁ」

「……帝国は国土が広いですしなぁ」

かつて戦争で足を踏み入れた事があるのだろう、セルヴェスが同意する。

建材費か……

「ゲームの知識で何とかならないモンなの?」

「……俺、『ハレハレ』のそんな詳細知らないっすよ」

『ハレハレ』とは、ユリウス皇子が主人公のゲーム、『ハーレム×ハーレム』の事だ。

「第一、あのゲームエロゲーですからね。政治何かに役立ちそうなあれこれはこれっぽちも無いと思いますよ」

「そうか……じゃあ、まずタダか安価で手に入りそうなものを考えると良いよ」

「……ギルモア嬢の徹底的なエコ精神ですね」

「だって、原価高いと頓挫しちゃうじゃん」

帝国と言えば海だろう。ふむ。

建材……?

「……この世界に火山はあるのかなぁ?」

「帝国にもあるし、他の国にもあるな」

こちらも各国を渡り歩いたセルヴェスが詳しいらしい。

「じゃあ、火山灰と火山岩、あと石灰だったかな……それを海水と混ぜて古代コンクリートが作れるんじゃない? ……割合とかは解らないけど」

マグノリアの言葉に、ユリウスがミント色の瞳を瞠った。

「……ローマン・コンクリート!」

ローマン・コンクリート。

別名古代コンクリートは、地球のローマ帝国時代にも使われていた建築材料だ。

地球の現代で使われている一般的なコンクリートよりも、遥かに寿命が長い事で知られている。

「そうそう。火山灰なんて基本は要らないものだろうし、回収したら喜ばれるんじゃないの? 確か年々強度が増すんじゃなかったっけ」

とは言え勿論良い事ばかりな訳はなく、引張力には脆い等、欠点もあるのだが。

……更には令和の時代にも失われたレシピは解明されていないとされていた様な気がする。

「安全上差し支えない所に使えれば、節約になるんじゃないのかな」

マグノリアがそう言うと、ユリウスがため息をつく。

「研究してみる価値はありそうです……しかし、たったこれだけの時間で良く考え付きますね」

「物語の転生者みたいに専門知識もゲームの知識も無いけどねぇ。雑学の範囲だね」

「……本当に専門知識が無いんですか?」

マグノリアが世に送り出したあれこれを思い起こし、ユリウスが疑わしそうな瞳を向けた。

「残念な事に無いねぇ。私、異世界転生者は理系の人間を連れて来るべきだと思うよ」

「……俺、一応理系ですけど、全くですけどね?」

「理系なら抗生物質作って欲しい。全大陸の人間が待ってるよ」

「いや、理系ったって、医療系じゃないですよ? 設備も知識も無いのに作れないですよ」

まさかの薬品!?

マグノリアの思っても見ない無茶振りに苦言を呈す。

「第一、抗生物質って何から作るんですか……?」

「カビ?」

「黴……医療SF時代劇漫画の読み過ぎですよ……」

ユリウスは脱力した。

……大ヒットドラマにもなった、某有名漫画をふたりして思い出す。

「……でも、専門知識が無いのにあれだけ色々再現できるのは凄いですね。こう、知っていたとしても、それを実際に形にして世に送り出すだけの知識というか、実行力というか。なかなか出来ないですよ」

ユリウスは素直に感心する。

確かにマグノリアが手掛けたものは、それ程高度な知識が無くても作れるものなのかもしれない。製品自体はユリウスも知っているものが沢山ある。

しかし、実際作るとなった時にユリウスに作れるかはまた別である。

例えばザワークラウト。

運よく地球の壊血病治療を思い出したとして、実際にザワークラウトを作れるかは別である。

材料と作り方が解ればなんだ、と思う位簡単ではあるが。

……きっと色々試行錯誤して作り出す事になるだろう。場合によっては誤った思い込みにより、延々と辿り着かずに頓挫してしまう事もあるかもしれない。

第一、行き詰っても調べる術もないのだ。ここにはWebなんて無いのだから。

本当に多岐に渡る知識――彼女の言う所の雑学の幅が、非常に広いのだと思う。

とにかく大陸の未来を考える上でも、彼女が転生者であり、ゲームとは違って極々常識的らしい思考の持ち主で良かったと、ユリウスは安堵した。