軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

エロゲーの皇子様はかく語りき・前編

アゼンダは領土こそは小さいが、その影響力は計り知れない。今後その重要性は益々上がって行くであろう。

周辺国のアゼンダへの評価である。

海のある地域は発展しやすい。

理由は歴史が証明しているので、今更論じる必要も無いであろう。

アスカルド王国は海が無い。河川は勿論あるが、他の国と行き来するようなものではない。

しかし花の女神の恩恵を色濃く受ける土地柄であった為、水運や他の国や場所からの物資や資源に頼る必要の無い事が幸いしたのであろう。

なので、海のある合併された小さな公国を重要視する事はなかった。

海の玄関口ではなく、ただの緩衝国。

航海病なんて聞いた事も無い国民は沢山いたし、種を植えれば豊作でしかない土に肥料を撒く必要なんてないだろう。

実り多い国土、それは女神の加護により齎される有り余る食料。更に豊富な資源。

既に大陸の大国であるアスカルドは、豊かであるがゆえに『無いもの』に驚くほど無頓着であるのだった。

(……凄いなぁ。これ、本当にアゼンダ辺境伯家だけで考えたのかぁ)

ユリウスは少し前にアゼンダ入りをした。

そして領地の端から端まで隈なくゆっくりと『アゼンダの秘密』を見て回る。

さほど具合の良くない痩せた土地を回復させる肥料。別の文化や時代の様な食品と製品の数々。

画期的なスクリューキャップ。ボタンにカギホック。

下水道の設備。資源や物資の無駄のないリサイクル、リユース、リメイク。

そして極めつけが平民への教育。

港町のある西部へ行った時に、デュカス先輩がいたのにも驚いた。

……叔父さんに稽古をつけて貰うと言っていたが、もしや叔父さんは王都にいるのではなく、ギルモア騎士団の人間なのだろうか。思わず首を捻る。

何はともあれ、元々黒かった肌が更に日焼けして、真っ黒であったし、相変わらず大きな声で話す姿に思わず苦笑いが漏れるが、あの人は人の気配に敏感だ。

見つかると余り宜しくないのでそっと人ごみに紛れた。

最後に訪れたのは領都。

アゼンダ辺境伯家のお膝元だ。

念のため、ディーンがアゼンダを出るのを待って領都入りした。

それ程大きい都市ではないが、綺麗に整備された活気ある街の様子を楽しむ。

そして何より食事だ。

(うどん、うまぁ……!)

思わず涙がちょちょ切れそうだ。

ユリウスはうどんを口に運んでは身体をプルプルさせる。

……ちょっと変わっていて、色々な魚の味を感じる出汁だが、これはこれでアリである。

唐辛子や乾燥し粉砕したハーブに海藻、オレンジの皮を加工した、頑張って出来るだけ寄せた感のある香辛料がテーブルに置いてある。

「…………」

じっとりと中身を確認して一振り。

(……!! これはこれでアリだな)

たこ焼き、お好み焼き、焼きそばに焼うどん。もつ煮込みにホルモン焼き。焼き鳥もあるかと思えば、パスタにグラタン。唐揚げ……

思わずメニューを見ながら唸っていると、ピタリ、背後に冷ややかな気配を感じる。

――しまった。

(……ちっ! いつの間に)

「……。ユリウス殿下ですね?」

「…………」

確信に満ちた声。

目立つ銀髪は、海賊宜しく大きな布で覆って見えない様に纏めてある。

海の男が領都に来る事も珍しくなく、似たような格好の人間もいる。身長もそれなりにある為、そう悪目立ちしている訳ではないのだが。

ミント色の虹彩も、まじまじと見なければただの緑色の瞳だ。こちらだってそう珍しいという程の色ではない筈だ。

警戒しているのが解ったのか、気配が微かに緩む。

「……手荒な事をするつもりはありません。国際問題になりますからね」

背中合わせで紡がれる言葉は、大きな声で無いのに耳に良く届いた。

「何の目的でアゼンダへ?」

「……観光ですよ」

「観光?」

訝し気に繰り返される言葉に、是と頷く。

「僕の正体が解っているなら話が早い。今年から皇子が留学しているのは御存じでしょう? 色々な 柵(しがらみ) やら見張り……いや、過度な護衛から自由になったら、色々見て回ったりしたいと思うと思いません?」

「お国に帰るまでの自由時間だと?」

ちょっと笑いを含んだ声で確認する。余り本気にしていないようだが、ユリウスは本気である。考えても見て欲しい。

「そういう事。警戒するお気持ちも解りますが、ここだけじゃなく道すがら他の領地も旅行して来たんですよ。留学先がアスカルドだっただけで、もしも留学先がモンテリオーナなら彼の国の各地を旅行するでしょう。他意はありません」

「解りました。もし宜しければご招待を致したいのですが」

「どちらへ?」

背中合わせで話していた男が、くるりと軽やかに反転して顔を合わせた。

******

「どうも、マリナーゼ帝国のユリウス皇子が領内で動いているようっす」

お庭番から報告を受けたガイが、セルヴェスとクロードに報告書を手渡した。

「……偵察か?」

「いえ。まあ見学はしてるんでしょうが……どちらかと言うと旅行に近いみたいっすね」

(何でユリウス皇子? 出会うのは学院でじゃないの?)

マグノリアがヤバい方の――どっちもヤバいが、よりマズい方のゲーム攻略対象者の名前に眉を顰めた。

「ディーンやヴァイオレット嬢の前評判では、好感の持てる少年のようですが」

「頭の廻る人間ならば、印象を操作する事など容易いだろうからなぁ」

言いながら同意見な保護者ふたりはマグノリアを見る。

マグノリアのみならず、セルヴェスもクロードも、そして遠見の力で垣間見たジェラルドも、未来の開戦を回避したいと思っている。

何故予定より早く出会う(?)のか。

何故端っこも端っこの領地であるアゼンダ辺境伯領へやって来たのか。

――ただの製品の偵察?

三人は、『みん恋』に比べて大まかな筋しか解らない『プレ恋』の内容を頭の中で反芻していた。

******

「本来なら正式な招待状をお送り致します所、このようにお連れし申し訳ございません」

貴族の屋敷としてはこぢんまりした可愛らしい館に到着すると、シンプルだが温かみのある応接室に通された。

そこには既にこの館の主である辺境伯と次期辺境伯。そして本来ならいる筈のない本家のご令嬢であるマグノリアがそれぞれ礼を取って待っていた。

一応、対皇子用の対応なのだろう。

ここまで道案内して来た多分隠密であろう隙の無い男と、家令らしき男はお茶を淹れ終わると静かに部屋を出て行く。

「どうぞ頭をお上げ下さい。僕も気兼ねなく過ごす為に身分を隠して旅行してましたから、お気遣いなく」

六十も半ばを過ぎてもいまだに現役の騎士である悪魔将軍。

その跡取りであり隠された秘密であるが、この地の大公子であるアゼンダの黒獅子。

そして傾国の妖精姫の再来。

(うわぁ、本物のマグノリア・ギルモアだ……)

確かにめちゃくちゃ可愛い。……勿論、一目惚れとかはしないけど。

アゼンダの小さな智慧の女神として、帝国のみならず他国でも絵姿が出回っている。

同席する大人の視線が剣呑さを増しているので、咳払いをして向き直った。

一応、留学するにあたってその国の事は調べてある。アスカルド王国の大物であるギルモア家の事もそれなりには。

その報告を以てして、ユリウスは違和感を感じた為、アゼンダ辺境伯領を実際に確認する事にしたのだ。

そしてこの数日彼女がもたらした色々なものを見て、ほぼほぼ確信するに至ったのだ。

「……隠密は配しておりません。全て外しております」

「申し訳ありません。ちょっと変な話をするので」

当然雇っているであろう影の人間達の気配を確認しているのに勘づいたらしく、クロードが口を開いた。

ちなみに、居ると話がややこしくなりそうなラドリも、庭に未だキャンプをする先生たちに預けて遊んで(?)貰っている。明日帰るとの事だが……遠慮のない人達である。

「変な話?」

怪訝そうな顔をするセルヴェスに、ユリウスは頷く。

ただ、その話をぶっちゃけて……マグノリアはともかく、セルヴェスとクロードがどうなのかである。マグノリアが隠していた場合、言ってしまって困る事にならないかが非常に気にかかる所だ。

……普通は隠すだろうと思うのだ。頭がどうかしたかと思われ兼ねないから。

とは言え、どういう経緯があるか解らないが孫娘を引き取っているのだ。おかしな事にはならないと信じたい。

だが念のため、核心部分はボヤっとさせておこう。そうしよう。

ユリウスは心の中で独り言ちると、心を決めて口を開いた。

「もし、言ってる意味が解らなかったらすみません……」

――『ギルモア嬢、あなた日本人ですね?』

思いもかけずユリウスから飛び出した言葉に、マグノリアが表情を変えずに息を詰めた。