軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

カラドリウス

目の前に現れたのは、白い鳥だった。

真っ白い羽は、白い炎の様に揺らめいている様に見える。

身体は大人の手のひらほどの大きさだろうか。羽を開いた姿はその倍ほどある。

真っ白な顔の中にあるのはつぶらな黒い丸い目。

音も無く空中を悠然と羽ばたきながら、小首を傾げた。

『僕を呼んだのは君?』

「「――――」」

クロードとマグノリアは、呆気に取られて話す鳥を見つめている。

揺らめくように波打つ羽は、とても現実の鳥には見えないが。

(え……? インコの類い??)

インコにしては大きい気がするが。オウム? 九官鳥、ではないよね?

……まして、教えてもいないのに流暢に話し過ぎな気もするが。

そんなマグノリアの心の声など完全無視で、美しい羽をはためかせながら、後ろ側のクロードに向き直った。黒い瞳でじっと見ると、再び首を傾げた。

『……君じゃないねぇ。デカ過ぎるもんね。小さな子どもの声だったもの』

そう言ってくるりと馬車の中を一周すると、横たわるジェラルドに目を向ける。

音も無くジェラルドの上に降り立つと、暫く何かを確認するようにじっくりと観察して、マグノリアに向かって顔を上げた。

『……君たちは妖精王の末裔だね。酷い怪我だ……この子を助けたいの?』

「! 出来るの!?」

『そりゃあもちろん! このカラドリウス様にお任せあれ!』

偉そうに胸を張って羽で叩くと、『カラドリウス』と名乗った鳥は、ジェラルドの顔を嘴で突いた。

何度か突く内、ジェラルドが薄く目を開けたが……顔の真ん前で見た事もない鳥と目が合い、朦朧としながらも眉間に皺を寄せる。

「…………」

そして文句を言いたげな表情をしながら、ジェラルドは再び瞳を閉じた。

『ごめん、殻の中から鞄を取ってくれる?』

言われて足元に落ちている石を見ると、確かにあの青い石はたまごであったらしかった。

殻の中をのぞけば、本当に小さな小さな、黒いポシェットが入っている。

マグノリアが指で摘んで渡すと、受け取って器用に肩に斜め掛けする。

そして鳥が羽で傷口を撫でながら、歌のような詠唱のような何かを、サラサラと不思議な声でうたう。

それに合わせるように、小さな鞄が細かく振動を始めた。

クロードは目の前の信じられない出来事は何なのか唖然としながらも考えていたが、暫くして考えるのを止めた。

セルヴェスが警戒する彼の母親――クロードも知る義祖母は、年をとっても何処か可愛らしい人であった。

時折何かと話をしている事があり、セルヴェスによれば信じられない事に、妖精や精霊と話しているとの事であった。

ある時アゼリアに聞いたら、彼等は『お友達』なのだと説明された。

そして森の中などをアゼリアについて行くと、いつも木の実や一面に実るベリー、花畑など『素敵なもの』に出会う事が出来る。

お友達が教えてくれるのだそうで。

目には見えない為懐疑的ではあったが……噂の様に精霊の力を使って大きな技を施す事は出来ないものの、楽しそうに会話をする様は子ども心に羨ましくもあった。

自分も見てみたいものだと、小さい時分には思っていたものであったが。

妖精の国の王女さまであったアゼリアが、異世界からの転生者だと言う、これまた不思議な曾孫娘に託した何か。

もし目の前の『鳥に見える喋る何か』が幻でないのならば、幻獣とか聖獣、神獣の類いなのだろうか。

それとも精霊?

有り得ないと普段なら一笑に付すところだが、あいにく目の前に存在している訳で。

毎度毎度おかしな状況に、ため息しか出ない。

……第一、それらはたまごから産まれるものなのだろうか?

『うわぁ~~~っ!』

間抜けな鳥らしきものの声に我に返ると、目の前の鳥らしきものはシュルシュルと小さくなって行く。

――不思議はまだまだ続くらしかった。

美しい、とても優美な白い鳥はどんどん小さく縮んで行き、マグノリアの手にすっぽり収まる位のずんぐりむっくりした……良く言えばふわふわ・もふもふしたまん丸い小鳥になった。

「…………」

羽ばたくが身体が縮んで慣れないのか、それとも重くて飛べないのか……無情にもジェラルドの上に落ちると、弾んで床に落下しそうになったところをマグノリアが急いでキャッチする。

『助かった~! 産まれたばかりで力を使い過ぎて縮んじゃったよ。エヘヘ』

短い羽をバタつかせながら、小首を傾げてマグノリアとクロードを見た。

「……大丈夫なの?」

ジェラルドも鳥も。

マグノリアは恐る恐るという風に尋ねる。

『あの子はもう大丈夫。傷まで全部は治せないけど、致命傷になる場所は治したよ。僕はどうなのかなぁ。力が戻れば元に戻ると思うけど……?』

そう言いながら、チュピピ、と鳴いた。

「ありがとう、小鳥さん!」

致命傷は治したという言葉に、マグノリアが心の底から礼を言うと、元気に羽をばたつかせた。

ジェラルドの様子を窺えば、蝋人形の様に真っ白だった顔に、ほんのりと色が戻ってきている様にも見える。

苦しそうだった息も、ほんの少し、穏やかになっている。

『どういたしまして! 僕はカラドリウス。君の名前は?』

「私はマグノリア。こちらは叔父のクロード」

『叔父?』

マグノリアの言葉を繰り返して、カラドリウスはつぶらな瞳でクロードをみつめた。

クロードは未だ丸いほっぺの、全体的にピンク色した小さな姪っ子と、白いもこもこした小鳥(?)のやり取りに、若干の居た堪れなさを感じながら口をへの字にする。

『……そうなんだね。よろしくね!』

チュピ! と元気よく鳴いて右羽を上げた。

「よろしく!」

挨拶を返すマグノリアとを見て、クロードはどう自分の中で折り合いをつければ良いのか……いつもの様にただただ、不可思議を呑み込めば良いのか迷いながら、横たわるジェラルドを合わせた目の前の三人……ふたりと一羽をみつめた。