軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

祈る事と願う事

「ガイ、大丈夫か」

傷ついた身体を引きずるように合流するガイに、静かに問うた。

「はい。あっしが残って軍部に説明いたしやす」

「……頼む。だが、無理はするな。取り敢えず傷の手当てをして貰え」

クロードの言葉に頷いて、ガイはマグノリアに向き直り、深く頭を下げた。

「……申し訳ありません」

「ガイのせいじゃないよ。そんなに傷だらけになりながら、みんなを守ってくれてありがとう」

ガイは懺悔するように、悲愴な表情で首を振った。

「……ディーン」

恐怖とショックでか涙の滲む顔を、名を呼ばれマグノリアに向けた。

「ヴァイオレットのご両親がご心配されていると思うの。一度タウンハウスに戻って、待っているリシュア家の侍女さんに事情を説明して欲しい。そして護衛をつけて、安全にお屋敷に送って欲しいんだ」

「わかった」

ディーンは、服の袖で涙を拭くと頷いた。

「併せて、リシュア家の方に後日お詫びに伺うと伝えて貰いたい……出来そう?」

「大丈夫だ」

任せておけ、と言わんばかりに頷く。

今度はヴァイオレットに向き直る。

「……ヴァイオレット、怖い思いさせてごめんね」

「そんなの、マグノリアのせいじゃないのに……! それより、それよりジェラルドが……!」

私が飛び出したせいで、と、顔をくしゃくしゃにさせた。

……目の前で自分の好きな人が斬られたのだ。

マグノリアは一瞬抱き締めようとして、血濡れた手を見て拳を握る。

「誰のせいとか、無いよ……『続く』んだから、治る」

この襲撃もヴァイオレットの知る範囲では、ゲームになかった出来事の筈だ。

本当に治るなんて保証が無い事は、言っているマグノリアも良く解っている。

――それでも。物語は続くのだから、攻略対象者は居なきゃ駄目でしょう?

軍部の兵士に引き渡しをし、役目を終えた複数の騎士にヴァイオレット達の護衛をして貰う。騎士達の馬に乗り、馬車の待つタウンハウスへと帰って行った。

指示を出し終え、馬車に乗り込む。

ゆっくりと座席に寝かせられたジェラルドを見る。息が浅く、苦しそうだ。

割れた車窓からアイリスに頭を下げる。

元気づけるように力強くアイリスが頷いた。

そしてゆっくりと、馬車が動き出した。

クロードは逡巡した。

襲撃に巻き込まれた経緯と範囲を把握しておくべきだろうが、流石にショックが大きいだろう事も解る。

マグノリアが元居た世界は、治安の良い、文明が発達した国だと言っていた。

場所によっては戦争をしている国も、権力者が民衆を支配する地域もあるらしいが……マグノリア自身は戦争も支配も無い、比較的自由な社会で生きていたという。

そんな世界で長年暮らしていた人間が、目の前で沢山の人間の戦う様を目の当たりにした上、父親が斬られたとあっては、成人していようがいまいが混乱と恐怖、悲しみと不安とで一杯であるだろう。

――今も出血を少しでも止める為に床に膝をつき、小さな手を赤く染めて傷口を押さえている。

「……代わるか? 疲れているだろう?」

マグノリアは何も言わずに首を横に振った。

好きにさせた方が良いだろうと思い、口を噤む。

「……お父様、助かりますか?」

暫くして、小さな声で問うた。

アイリスに言われ呑み込んだふりをし、ジェラルドが『推し』であるヴァイオレットにはああ言ったものの、余り良い状況で無い事に感づいているのだ。

クロードはジェラルドを見て、小さく息を吐いた。

誤魔化した所で、けして誤魔化されはしないだろう。正直に答えるしかない。

自らの義兄でもあるジェラルドの命に関して口にする事に、クロード自身も酷く緊張し、心が痛みもした。

「……正直、解らない。傷はかなり深いと思う。最終的には運と気力になるのだと思う」

「……どうしよう……私のせいで、死んじゃうかも……」

小さな声が聞こえて来る。

傷を押さえながら俯いた小さな背中が震えている。

何も言ってやれない。

クロードは無力感に打ちのめされる様だ。

マグノリアのせいではない。

――だが、そう思って自分を責めている以上、そんな事はないと慰めた所で意味を持たないだろう。

上っ面の言葉や口当たりの良い事が、現実には意味を持たない事をマグノリアは知っている筈だ。

せめて自分がもっと早く着いていれば。

今日が会議でなければ。マグノリアと一緒に出掛けていれば……

そう言った所で、また意味も無い。全員が同じように、それぞれに当てはまるだろう事を思うだけだ。

滅多な事で泣かないマグノリアの涙に、クロードは心底困り果てた。

そして慰める術も言葉も無い事に、尚更。

今、自分に出来る事は。

ただただ、寄り添う事しか出来ないだろう。

「……今は、祈る事と、願う事しか出来ないだろう……」

「祈る事と願う事……?」

「そうだ」

マグノリアはゆっくりと振り返った。

「何に?」

クロードは涙に濡れる睫毛を見て、痛々しい顔で答える。

「……自分の想うものに。この世界の神でも、元の世界の神でも。兄上自身に、違う何かにでも良い」

「…………」

マグノリアは何に祈れば良いのか、願えば良いのかと考える。

神なんているのかいないのか解らない不確かなものでなく、もっと確実なもの。

医者? 医学?

……地球の現代医療ならともかく、この異世界の医療はそこまで高度では無い筈だ。

それに代わるものは?

もっと、確実な何か。

「……魔法?」

魔法はモンテリオーナ聖国にしかない。

魔道具は他の国でも魔石を利用すれば使えるけど……魔法がない国で、同じ様なもの。

「精霊と妖精?」

「…………」

セルヴェスには危険を察知するような第六感の様なものがあるという。

ジェラルドには遠見の力が。

自分に受け継がれる血脈が何か力を持つというならば、何故自分にはそれが無いのか。

先祖返りだというピンク色の髪も瞳も持っているのに、マグノリアは何の力も使えない。

(妖精でも精霊でもいい、どうしたら良いの? 方法があるなら教えて!)

ジェラルドの傷を押さえながら、心の底から問いかける。

(いるなら何とか言ってよ!!)

『いいよー』

小さな声が聞こえた。

「……え?」

「どうした?」

幻聴なのか。聞こえた小さな子どものような声に、思わず疑問の声を発した。

聞こえて無いらしいクロードは、マグノリアの声に首を傾げる。

次の瞬間。

胸元の、服の下にある小さな革袋がゆっくりと 空(くう) を浮かび上がった。

かつて小銭を隠し持つ為に使っていたのだが、隠し持つ必要も無い今は、曾祖母からマグノリアへと託された青い石を入れている。

「……えっ!?」

「……なっ!?」

マグノリアとクロードは、それぞれ目の前で浮かぶ革袋に瞳を見開く。

更に、革袋から石が飛び出して回転しながら柔らかく発光し始めた。

目の前の現象に声も出せず凝視していると、パリパリッという小さな音と共に、石にひびが入り、カッと眩く光を放った。